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ぼっち魔女、看取ります  作者: 人藤 左
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魔女 ステラ・エトワール

 追い出されたその足で、あの人がよく出没するという酒場に顔を出しました。


「話したいけど……喉が渇いていてねぇ……」

 事情通のおじいさんはいつもこうです。金貨を一枚差し出すと……

「あぁ、怖いねぇ……金と酒は怖いねぇ……思わず口を割っちまいそうだ」

 蛇口を捻ったように話してくれるので、俺は個人的にこの人が好きです。


 おじいさんの助言に従い、スラムの方へ。

 相変わらず治安が悪いのと、さっき俺がお金を持っていることが知られていたため(おじいさんめ……)ゴロツキに襲われましたが、撃退。突きつけられたナイフを魔術でねじ切り、掴みかかってきた巨漢を片腕で投げ飛ばすと、今日のところは見逃してくれる気になったようです。


「失礼します」

 訪問。


「魔女ステラ・エトワールさまですね?」

 十重二十重(とえはたえ)のプロテクトがかかった扉を開くと……


「っ……」

 おっと。

 お風呂上がりだったらしく、裸のところに出くわしました。


「……ヘンタイ」

 《暗闇(ブラインド)》……一時的に死角を奪う魔術をかけられました。


「すごい……詠唱省略(ファストスペル)なんてレベルじゃありません! やはり魔女ステラ・エトワールさまですね?」


 返答はなく、ただ慌ただしい布の擦れる音だけが耳に入ります。そんなに急ぐと……


「あだっ」


 あぁほら、転んでしまった……。


「支えてくれたっていいだろう⁉︎」

「いやほら、見えませんし……」

「あの扉を開けたんだ。解除どころか、そもそもレジストだってできたじゃないか!」

「見られたくないのかと……。それに、すごいファストスペルだったので受けずにいられず……」


 あんな芸当、魔導院でもできる者は片手で数えて余るほどです。この体で確かめなければならなかったのです。


「わかった! キミがヘンタイでもなんでもいいから、ボクを助けてくれ! はーやーくー!」


「では失礼して……っフ」

「笑い事じゃないんだぞー!」


 目を開くと、そこには下着姿のデコルテから上巾着お化けが、カーペットの上でのたうち回っていました。


◆◆◆


「で、だれ?」


 身支度を整えたステラが、紅茶とお茶うけのクッキーを用意してくれました。シロップのように甘い紅茶は俺好みです。


「覚えていませんか? 十年前、あなたと約束した……」

「十年……? すまないねぇ」


 そう、ですか。

 ……そうか。


 …………、落ち込んでもいられません。むしろ好機と捉えるべきでしょう。


「では改めて。魔女ステラ・エトワールさま。どうか、このシオン・ソーファーに、あなたを看取らせてほしいのです」

「――――」


 琥珀色の髪に涙を滲ませたステラは、小さな手で顔を覆いました。


「――――」

「……あの、」

「す、すこっ、すこし、待って……」

「はい」


 ……。

 …………。


「はぁー……、よし。それで、なに? ボクになんの用?」

「はい。酒場にある依頼書を見ました。魔女ステラ・エトワールを看取る、というはなし、俺に受けさせてください」


 これは半分が嘘です。見たのは見ましたが。


「キミ、わかって言ってる? 看取るっていうのは、ボクが死ぬのを見届けるって意味だよ?」


「わかっています。そのために宮廷の魔導院で勉強してきました。あなたに、最高の最期を迎えてもらうために」


 魔女ステラは、俺の目をじっと見つめます。魔術でもなんでもない、ただの見定めです。

 そうして、ふと立ち上がったステラは、早足で奥の部屋へと向かいました。力強く扉が閉められます。


「その、ステラ?」


「少し泣くので、待っていてほしい」

 なんの変哲もない木のドアは、玄関とは比べ物にならないほど強固な結界魔術で覆われてしまいました。


「そういうわけにはいきませんよ」

 先ほどので織り込みのクセは掴みました。針に糸を通すより容易く、檻より堅い戸が開けることができます。


「その涙も見せてください。ステラの全部は、俺のものです」

シオン……約束を忘れられてしまったと思っている・今出せる策を出す


ステラ……約束を覚えていてくれたけど照れ隠しで忘れたふりをする・シオンは忘れてしまっている?・シオンの本質が変わっておらず嬉しいやら


みたいな構図です

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