sham sleep/shy shout
ボクが目を覚ましたのは、周りの騒ぎも落ち着いてきた頃だった。
シオンはかねてから交流のあったらしいトラルと、ボクの知らない声音で楽しげに話す。
「しかし半年……いや、五ヶ月だったか」
「143日ですね」
「……かなり正確だな」
「正確にもなりますよ。俺がシオンのためにしてあげられるのは3つ……彼女をしっかり看取ること、それを最高の形にすること――そして、呪いを解くこと」
こういうとき目を覚ますと、大抵寝たフリしなきゃなんだよな。なんでよりによってボクの寿命の話ししてんだよ。
……シオンのヤツ、呪いを解くって言ったのか? ボクの? どういうことだ?
「ワタシ……というか、人間にとっちゃ、シオン・ソーファーがそうやって足掻いてくれるだけで利益になるから、公人のワタシは応援するよ。だが、個人のワタシは……そうだな、教授がこれ以上すり減るのを見たくない」
「……そう言われると思って、俺の「3つ」の話をしたのはトラルが初めてですよ」
なぜボクに話さないんだい! 照れ屋さんなのかい⁉︎
「一応その、姉として世話になったので……」
照れシオン。だから、それをなぜボクの前で出さないのか。不安になるだろう、色々と。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。それでどうだ? せっかく宮廷もクビになったことだし、サザン地区で区民権を取るっていうのは。歓迎するぞ」
「魔術の特許は売っても、あらかた見終わったサザン地区で暮らすのはないですねぇ」
「手厳しいな。興味がないと」
「おかげでヘリオスのダンジョンもクリアできましたし、覚えときますよ。今更俺がどこかの国に肩入れするってわけにもいかないですし」
それはそうだ。シオンほどの魔術師が改めて腰を据えるとなれば、それは国家情勢の大きな傾きを生む。彼が宮廷をクビになったという噂の足が遅いから、まだ世間が静かなだけなのだ。
……コイツを除名するバカが宮廷にいるとは、ってことしばらく情報の洗い直しに時間はかかるだろうが。
「いつまでも待つよ、シオン」
「はい、トラル姉さん。そのときはきっと、ステラも一緒に」
「はは。自信があるのかないのかわからんな」
「自信じゃないですよ。俺がやるって言って、ステラが待つと言ってくれたんです。やるしかないでしょう」
は?
理解が追いついてきたぞ。
おいおいおい……おいおいおい。
「シオン! キミ、ボクを生かすのを諦めたんじゃないのかい⁉︎」
あ。
……思わず、飛び起きてしまった。




