崩壊・解決・結果
「……ここですかね」
ヘリオスお母さまがダンジョン内の揺らぎに触れるところはもう見ました。
「魔力波形……同調。強度よし。接触――確認」
太陽の精霊が作った空間に触れるには、同じ魔力のクセで干渉しなければなりません。
俺たちは水や霧を掴むことはできませんが、氷を抱くことはできます。そこで水や霧を掴めるよう調整するのがコレですね。
「待て待てシオン、いま強度を確認したのかい⁉︎」
「しましたよ?」
「強度、でございますか?」
「安全なんだろうな⁉︎」
「魔術でダンジョンごと吹っ飛ばすよりは、まぁ」
隙間のようなものに両手を突っ込んで、こじ開けていきます。次第に空に亀裂が走り、そこから夕陽が差し込んできました。
パラパラと音を立てて瓦解していくダンジョン。ひとたびヒビが入れば、閉じていることで成立している異空間は穴の空いた風船のように内包魔力を失っていきます。連鎖的に中を支える力も失われ、またヒビが入り、抜けていき……
「はい。お疲れ様でした」
「助かった……」
助かったとは失礼な……。
「サザン地区の人たちも……ええ、無事のようですね」
軽い魔力中毒が見られますが、日が沈みきるまでには治まるでしょう。
「あれ? ヘリオスお母さまは?」
さっきまで目の前にいたお母さま……ヘリオスがいません。ステラのように頭を抱えてしゃがんでいたわけでもないようですが……。
「こちらですよ、ここ」
頭上から声。小さな……ガラス玉のような山吹色の光が、俺の頭の上をふよふよしています。
「なんですか、それは」
「責めちゃいやんですわ」
「責めてないですよ。すみません、お母さ……おか……ヘリオス」
彼女を母と呼ばせる謎の強制力も弱まっているようです。
「わたし、これでも成立の浅い精霊でして……。愛すべき子らの愛が大きければ、結界……みなさまはダンジョンの呼ぶのでしたね……の中のように、母として相応しい姿になれましてよ!」
「なるほど」
ファストスペルに必要な、共通認識による存在証明の補強。それは精霊にも通用する概念のようですね。
「シオン、ご飯の時間だよ」
「いまそれどころじゃないでしょう。トラルを呼びつけて次第を話すので、それまで待ってくださいね」
◆◆◆
その辺の土をメインに構築した簡易魔導人形を操り、サザン地区の人たちを住居へ。これは自動でできるので、俺とステラとヘリオスは浮島の一つでキャンプです。違います、報告です。
「改めましてよろしく、魔女ステラさん」
「……よ、よろしく……」
ステラはまだ、トラルに慣れていないようです。
「お姉さんと呼んでくれてもいいぞ?」
「あの、トラル。報告を……」
「あぁ、すまんすまん。頼む、シオン」
……。
…………。
説明省略。
すっかり日も暮れたので、焚き火を囲むことにしました。
「そしてこちらが、」
「はい。母ですよ♪」
「母ではないです。こちらは精霊のヘリオスといいます」
「よろしくお願いいたします」
俺の頭上に行儀よく座ったヘリオスが、しゃんとお辞儀をします。
ステラといえば、トラルの膝の上に抱かれて寝息を立てています。懐柔が早い。
「ヘリオスは太陽の精霊で、まだ成立して間もないようです」
「太陽! そいつは大きく出たね」
「えぇ、それはもう大きくてよ?」
サイズの話ではないような気が……。
「本題ですが、ヘリオス。どうしてダンジョンを作り、サザン地区の皆さんを閉じ込めたのですか?」
「大事なところだな。向こうから来たというシオンたちは入り込まず、こちらから出ようとすると取り込まれる……どういう了見だ」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいまし。話すと長くなるやも知れませんので、ささ、お料理でも頂きながら、ね?」
「……そうですね」
先ほどから隣の島でお祭り騒ぎが始まっていたので、そちらと接続。一つの大きなかがり火を囲うことに。
「すげぇ魚が採れたんだよ。区長も、教授も、そっちの嬢ちゃんも……それから世話んなった聖霊サマも、どうぞどうぞ! はっはっはっはっ!」
髭面の副区長が色々と分けてくれました。お酒は飲めないのでトラルの前へ。
「まずわたしは、居心地が悪いのでダンジョンを展開し、閉じこもったのです」
「居心地、ですか」
「えぇ。えっと……向こうの方、ですわね。目が覚めたら……あなたたちの言葉を借りるなら、成立したら、なにやらいやな感じがいたしまして、閉じこもったという次第です。
「それからは母としてあるために子を集め、サザン地区の皆さまをお招きするという形になりました。
「入り口に関しても、向こうに背を向けたいという都合ですわね。迷い込んでしまった皆さまには、深くお詫びいたします」
以上、らしい。
ヘリオスが指した向こうというのは、宮廷の方だ。……いやな感じ、ですか…………。
ドラドレイクが生えていたり、ゴブリンが巣を作っていたり、というのも関係あるのでしょうか。それとも、そもそもそれらを引き寄せる何かが宮廷の方にあるのでしょうか。
「すみません、ヘリオス。それがどんなものなのか、わかりませんか?」
「うねうねうじゃうじゃ、でしてよ!」
「…………わかりました」




