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ぼっち魔女、看取ります  作者: 人藤 左
12/23

重力・太陽・母

「うおおおおおッ⁉︎」

「ヤバいヤバいヤバい死ぬ! ボクはまだ死ねないけど!」

「わー!」


 ダンジョン攻略をかけて太陽を目指した俺とステラは、その真ん中あたりから降ってきた山吹色の乙女に激突。空気中の水蒸気を巻き込みながら、恐ろしいスピードで落ちていきます。


「落ちて……違う、俺たちが引き寄せられているのは()()()です!」

「何を言って……」


 ゆっくり話している時間はありません。魔力の波を飛ばし観測する《探索(サーチ)》を発動……地面まであと5秒ですか。


「《短距離空間跳躍(ショートジャンプ)》!」


 本来なら魔力レンズを通して発動する魔術です。今回は俺たちが引き連れている水蒸気の膜……ヴェイパーコーンをレンズに見立て、さらに水滴一つ一つの俺たちの像を連続して投射・参照。選んでいるヒマはないので、手当たり次第跳んでいき、いい感じのところを見つけて着地――。


「…………、はぁ」


 なんとかなりました。


「生きて、生きてる……痛くない……!」

「あッははははは! すごいわ素敵ですわ! 今のも魔術? ははははっ、は、はぁ……」

 ステラも山吹色も、疲れてはいますが怪我などないようです。


◆◆◆


「改めましてはじめまして。わたし、ヘリオスと申します。気安く気兼ねなく、お母さま、とお呼びください」

「……」

「……」


 上手くは言えませんが、魔力の質が人間のものではありません。どちらかというと魔女のような超越感があったのでステラを窺ってみると、同じく呆気に取られた顔をしていました。


「あ、あの……ヘリオスお母さま、さん」

 ステラが俺の背中に隠れてしまったので、仕方なく変質者に声をかけます。


「はぁい! わたし、お母さまですわよ!」

 うるっさ。身長180センチくらいあるので、俺の額あたりに元気な声が突き刺さります。


「お聞きしたいのですが、このダンジョンを作ったのはあなたですか?」

「でしてよ!」

 でしてよ……?


「開放型のダンジョンの作り方を、ぜひ教えてください!」

 背中に頭突き。ステラから「真面目にやれ」と小さく忠告されます。


「間違えました。俺たちは、迷い込んだトラル地区の方々を迎えに来たのです」

「あらあらあら、まぁまぁまぁ! 22名さまのお客様のことですね!」


 るんるん、と鼻歌を歌いながら、草むらを跳ねるヘリオス。次第に歩幅が狭まっていき、何もないところで立ち止まりました。


「その……少年。わたし、少し物足りないかなー? って思うのです。二つ、いいえもう一つでいいので、わたしのことを……」

「お願いします、お母さま」

「はぁい♡」


 お母……ヘリオスが虚空に手を伸ばすと、空間そのものが丘の上に変化しました。優しい陽射しやそよ風、草原もそのままですが、のどかな竜種の代わりに、ピクニック気分の人々がくつろいでいます。


「たくさんいらっしゃってくださって嬉しい限りなのですが、どういうことか意識が朦朧とした方ばかりでしたの。少年、あなたも彼らと同じ種族なのでしょう? どうしてかおわかり?」


 ひどく悩ましげに首を傾げてみせる母……母ではありません。俺の母は物心つく前に亡くなっています。


「魔力への耐性じゃないでしょうか。この出来のダンジョンだと、普通ならそう長くは保たないのですが……」

 寝そべり空を見上げる人や、食事やお酒を楽しむ人。魔力中毒というのもあるでしょうけれど。


「――なるほど。つまりこのダンジョンは、お母さまの愛なのですね?」


「まぁ、おわかりになられて⁉︎」

 やけに熱い手に、手を取られました。


「この感じ……。お母さま、あなた精霊なのですか?」

「精霊だって?」

 ひょっこり顔を出してくるステラ。


 精霊というのにも色々あるそうですが、魔術の観念でいうところのそれは、『属性を司る超自然的存在』です。

 言うなればヘリオスお母さまは、太陽の化身――ってまさか、

「太陽の化身⁉︎」


 あまりに突飛なので無意識に除外していた考えでした。


 熱い手のひら、超常の魔力、()()()()()()()()()()……太陽からすれば、なるほど、この星はちいさな部屋のようなものなのでしょうから、壁のないダンジョンにも納得がいきます。


「はい、母です♪」

「……失礼ながら……、なぜ母なのですか?」

「あら。あなたたちがそうあれと仰ったのですよ?」

「俺たちが……?」


 "あなたはあまねく降り注ぐ、あなたは母なる光と熱で我らを育む"。


「あれですか……」


 天文部の方々が変な定義(キャラ)付けしたせいで、母を名乗る変質精霊が誕生していまいました。


「あれがなにかはわかりませんが、おそらくそうでしょう。さて、自己紹介も終わったところですし、行きましょう行きましょう」

「どこへですか、お母さま?」

「あらあら。少年はそちらの魔女さんの死に場所を探していて、魔女さんは保留なのでしょう? 旅の最中とお見受けいたしました。わたしも同行させてくださいまし」


 ダンジョンの中の出来事は全て手のひらの上、ということですか。他のダンジョンでも突然壁が生えたりしましたが、こういうカラクリでしたか。


「……一度ダンジョンが形成されると、その核はダンジョンに固定されるのです、お母さま」

 今のお母さま……ヘリオスは、この迷宮の要石なのです。一度展開された魔空間は、今度は逆に発動者を縛り付けるのです。


「そんなぁ……」

 口惜しそうにへたり込むヘリオス。


「……あの、ステラ」

「なんだい」

「相談なのですが……」

「ふぅん……。それは情に絆されたからかい? それとも、」

「えぇ。太陽の精霊――ぜひ、研究したい」

「っ……。おいおい、元とはいえ宮廷魔術師サマともあろう者が、そんな獣みたいな顔をするんじゃないよ……」

「すみません。ヘリオスお母さま、立ってください。サザン地区の人たちと一緒に、ここを出ましょう」

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