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ぼっち魔女、看取ります  作者: 人藤 左
10/23

姉・高所・お祭り

 サザン地区。


 宮廷の治める領地と向こうの静帝圏を分つこの大河にある、大きな中洲と磁石のように付かず離れずの浮小島それぞれをまとめて、永世中立地帯・サザン地区と呼ばれています。


「開門願います」


 永世中立というからには、争いは御法度。こっちと向こうを繋ぐ大橋の門は普段閉ざされており、真ん中の中洲の監視塔で制御されています。


「しばらく待ちますね、ステラ」

「なんか……親近感湧くなぁ」

「まぁ……彼らも引きこもりといえばそうですからね」


 ……というか、この警備システム(魔力による敵対性の審査と個人の照合によるセキュリティ)は、幼い頃一度だけ体験したステラのものを参考にしたのですが。


「……うぅ」


 門がゆっくりと開くと、ステラの顔が強張ってきました。人見知りの引きこもり、ぼっち魔女ですからね。打ち解ければ早いのですが……。


「大丈夫ですよ、ステラ。こんな辺鄙なところですが、住んでいるのも暮らしているのも同じ人間ですから」

「辺鄙とはご挨拶だな、教授! お姉さんのことが恋しくなったか!」


 門の向こうで待ち構えていたのは、タイトな礼服に身を包んだ男装の女性でした。


「トラル区長、お久しぶりです」

「久しぶり。お姉さんだぞ?」

 両手を広げてみせるトラル。うるさいですね……。


「寂しいなぁ。……さて。どうした教授、やけに暇そうな顔して、女の子まで連れて」

 何か色のある話だと思ったのか、やや固そうな銀髪を揺らして、トラルは首を傾げます。


「暇といえば暇ですよ、宮廷をクビになったので。こちらの見た目15歳さんは魔女のステラ、俺が看取る人です」

「ははぁ、なるほどなるほど……この方が教授のよく話していた……」

「その話、もう済んだし恥ずかしいので忘れてくださいね」

「あぁ、いいよ。……………………クビ?」


「クビです。永久追放」


◆◆◆


 サザン地区中央監視塔、最上階展望室。


「……なんでここで……」


 やけに高くて見晴らしがいい。そういう目的の部屋なのだからそれはそうですし、窓には特殊な魔術膜が張られていてレンズの役割もこなす逸品です。この特許も売りました。


「なんでって、ワタシの部屋だからな、ここが!」

「…………」

「…………」


 声の大きめなトラルにビビるステラと、その小さな肩にすがる俺。


「……シオン、」

「喋るな! 動くな! 俺に喋らせるなッ!」


 イタズラ半分にトラルが魔術レンズを操作し、この階の高さを知らしめてきます。たまらず足の力が抜けた俺は、ついにステラのスカートの中に隠れてしまいました。


「やめろトラルーッ!」


「…………あ、あの……トラル、さん? これは……?」

「けらけらけら。教授はな、高いところが大の苦手なんだ。教わった魔術でこんなことをするのは、フフ、気が引けるがな。フフ」

「……なるほど」

「なるほどじゃない!」


 ……。

 深呼吸をして、自分に《浮遊(フロート)》の魔術をかける。床から2ミリ程度浮くことで、俺はようやく平静を取り戻した。


「お前マジふざけんなよ」


「けらけらけら。素が出てるぞ、教授。ああいや、嫌がらせで呼んだのではないはさ。せっかくだから頼み事を、とね」


「シオン、そろそろ出てくれないかな」

 絶対安全圏(スカートの中)から追い出された俺は、ステラに手を握ってもらうことで精神の均衡を保つ。情けなかろうと、命には代えられません。


「で、その頼み事なんだが……こちらから宮廷方面に向かう方に、ダンジョンが発生しているらしいのだ」

「……なるほど。それでわざわざトラルが出迎えてくれたわけですね」

「そうだ。……教授、今度は何を」

「隠れてます。とても落ち着きます」


 少し混み行った話になりそうだったので、集中力と思考力を担保するべく、俺はステラの後ろ髪の中に入りました。すごくいい匂いがします。


「……まぁ、教授が変態なのは周知の事実だ。驚きもしない」

「ボクを助けてくれないのかい」

「すまない魔女さん、事は一刻を争うかもしれんのだ」


 じゃあなんで俺をここに連れてきたんですか。……自室だって言ってましたね。


「発生したダンジョンにより、ウチの職員のほとんどが行方不明となった。入口とされる揺らぎは宮廷に向かって500メートルほど……映さん方がいいか?」


「行けばわかるからいいです。映さないでください」


「すまん。おかげで警備も手薄になってしまった。迎撃用の魔術はワタシ一人でもなんとかなるが、一人では限界があるのも確かだ。……すまんが教授」


 ダンジョン……ダンジョン! 素敵な言葉です。


「それ、俺たちにやらせてください。ついでに職員の皆さんの無事も保証しますから」


 高密度の魔力が折り畳まれ織り込まれた(おり)の檻。それがダンジョンです。


 核となる魔物なり魔石なりなんなりがあって、空間を歪ませて迷宮にするわけですが……なかなか発生するものではありません。ぜひ攻略したい。ぜひ!


「ステラ、行ってみましょう!」

「……祭りじゃないんだぞ、キミ」

「わかってますよ。人命最優先です。それではトラル、しばしお待ちを! イェー! 《短距離空間跳躍(ショートジャンプ)》!」


 魔術的に観測した地点を対象に、『すでに術者がいる』結果を先に映し出すことで、その像を実現する魔術です。これによって俺とステラは、一瞬にして外の原っぱに出たのでした。


 いざ、ダンジョン探索! そして人命救助です!

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