追放・出発・約束
「以上で宮廷魔術院定例会議を終える。最後に――シオン・ソーファー、きみの除名が決まった」
立派な机の上座も上座、揃いも揃った宮廷魔術師を統べる院長のブライは、したり顏で俺に告げました。
「日がな一日街でフラフラ、騎士団に着いていってはぶらぶら。宮廷魔術師としての魔物討伐や、次代の教導を怠り、たまに仕事をしたと思えば魔導機のメンテナンス……弱冠10歳で宮廷入りした天才というから目を瞑ってきたが、もう堪忍ならん。魔導院院長の権限において、シオン・ソーファーを永久追放とする。以上」
ブライの通告に、特に年配の魔術師たちも笑みをこぼします。
しかし除名……それどころか、永久追放ときましたか。
「え、いいんですか?」
ガッツポーズで跳び回りたい気持ちを抑え、ややうわずった声で聞き直してみます。
「以上だと言ったはずだ! なんだ貴様、その態度は!」
くるくるした眉毛が特徴的な中年魔術師……確か地属性が上手い人……が立ち上がり、俺を睨みつけてきました。
「俺はブライ院長に聞いているんです。なんですか、横から入ってきてその態度は」
「……永久追放だ。訂正はない。近く王宮から正式な通達が来るが、待つ必要はないぞ。荷物をまとめてとっとと失せろ」
「引き継ぎはいいのですか?」
「いらん!」
「では、そのように」
鼻歌も抑え、マントの留め金を兼ねたブローチを返却。まだ椅子に座っている皆を背に、俺は会議室をあとにします。
列席していたおじさんやおじいさんたちの怒号が背中に向けられますが、気にはなりません。彼らも名だたる魔術院の重役たち、俺がいなくても上手いことやれるでしょう。
◆◆◆
「出て行っちゃうって本当なんですか、先輩」
宮廷敷地内の寮の自室を片付けていると、自らを『映えあるシオン・ソーファーの後輩』と憚らないリィンちゃんが訪ねてきました。
「本当だよ、リィンちゃん。いやぁ、長かったなぁ……六年だもんなぁ……」
「先輩は……その、よかったんですか? え、永久追放だなんて……」
リィンちゃんは才能と実力は申し分ないのですが、気の弱さがネックといえばネックです。大成してもらいたいものです。
オドオドと見上げてくるリィンちゃんに視線を合わせ、肩に手を置きます。
「そもそも俺は、ここに勉強したくて来てましたからね。それが契約のブローチだなんだで縛られて、四年も無駄にしてしまいました……」
「し、知ってます……! シオン先輩の武勇伝その1、『飛び級で学園を卒業した少年が、二年で国の知識を全て修めた』ってやつですよね……?」
「そんなの流れてるんですか?」
知りませんでした。しかもその1って。
「それはもう流れまくりです。若い魔術師でコレを20は暗唱できないと仲間はずれにされてしまいますから……」
「なにそれ……」
嬉しいというよりは怖いですね。
「と……とにかく、先輩の6年は無駄じゃなかった……ってこと、です! 魔術院の偉い人たちがなんて言おうと、私たちにとっては憧れで……ですから、いつでも帰ってきてくださいね……!」
「はい。用事が済んだら、一度顔を出しますね」
「ほんと、いつでもいいので! 明日とかでもいいですよ……!」
「それじゃただのおでかけですよ」
「そもそもシオン先輩……宮廷魔術師辞めてなにするんです? ひ、控えめに言って人格破綻者ですし……生きていけるんですか……? もしかして、私のことが嫌いですか⁉︎ シオン先輩! シオン先輩が私のこと嫌いでも、わ、私は……!」
リィンには少し怖いスイッチがあります。負のスパイラルというか、気が滅入りやすいというか。
「……ありがとうございます。もう魔術院に興味はないです。でも、リィンちゃんと一緒にいられて楽しかったですよ。ありがとう。きみと、ウォルフレッドの兄貴だけがここでの暮らしの潤いでした」
よく手入れされた濃い緑の髪を撫でます。リィンちゃんは目を細めました。
「私も……先輩といる時間が楽しくて、楽しかったです……。でも私は、この国を守りたい……ので、すぐに追いつきます。先輩が本当にすごい人なんだって、証明します。だから、変わらない先輩のままで、待っていてくれますか?」
静かな決意の言葉でした。
「はい、待ちますよ。院長は引き継ぎなどいらんと言いましたが、リィンさえ良ければ、この部屋を好きにしてください。それでは、兄貴にもよろしく」
俺を目標にしてくれているなら、貯めに貯めた資料も役立つことでしょう。
兄貴……ウォルフレッド騎士団長に挨拶できなかったのは心残りですが、そうのんびりもしていられません。残り半年と少し……時間はないのですから。
新作です。
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