予選ブロック抽選会
翌日。
火曜の今日はゴミ出しの日。いつもより早く目が覚めた俺は登校の仕度をさっさと済ませ、ゴミ袋を片手にドアを開ける。
「あ……」
天藤とばったり遭遇。同じくゴミ袋を持っている。
「おはよう桜之宮君」
彼女の目の下にはクマができている。さては昨日夜遅くまでルールを読み込んでいたか。
「調子はどうだ? ずいぶん疲れてそうだけど」
「このくらいどうってことないわ。でもいくつか戦略は考えついた。今日中山君や沢村さんに報告するつもりよ」
「そうか。それはよかったな」
どんな案を思いついたのか聞きたい気持ちもあるが、これ以上口出しするのも野暮だろう。
そして、別々になるタイミングを失い、成り行きで一緒に登校することに。
彼女と二人で登校するのはなにげに初めてかもしれない。
電車の席が珍しく二人分空いていたので、そこに座る。
「思ったより狭いな」
二人分……とは言ったものの、ギリギリ二人分って感じだ。嫌でも隣の天藤と体が密着してしまう。
「桜之宮君、やっぱりあなた立ってもらえるかしら? 体、当たってるから」
いくらクラスメイトのよしみとはいえ、女子のほうがそういうのには敏感だ。
だが、ここで引くわけにはいかない。
「俺も座りたい。触れるのが嫌なら天藤が立てば済むことだとおもうんだが?」
「誰かさんの忠告のおかげで、昨日は寝不足だから座っていたいのよ。くっ……仕方ないけど我慢するしかないみたいね」
結局このままの状態でやり通すことに。
さすがにちょっと気まずいな。何か話題を振らないと。
「そうだ。予選の相手ってどうなるんだろうな」
野球試験の予選ブロックは1ブロックにつき3チーム。計8ブロックからなる。ここを勝ち抜かないと本戦に出場することはできない。
「学校側からの発表はまだないわ。といってもある程度ランダムになるんじゃのいかしら」
「ある程度……か」
「さすがに完全にランダムというわけにはいかないでしょう」
「確かに」
同じブロックに同じクラスのチームが重ならない、という意味でそのとおりだな。
「天藤的にはどのチームが本命だと思う?」
「やはりAクラスの一条君、Dクラスの御神楽君のチームが最有力候補だと思うわ」
バトルロワイヤル試験で結果を残したチームか。
この様子だとBクラスのことは把握できてないようだな。
「その2チームが潰し合ってくれるとありがたいんだけどな」
「そう都合よくいくとは考えないことね」
「だよな」
さて、いつもより長く感じた電車旅も終わり、学校に到着。時刻は8時ちょうど。
早めの到着だが、教室にはすでに数人の生徒が来ていた。
その中には中山と沢村の姿があって、なぜか二人ともジャージに着替えていた。
天藤がその二人に近づいていく。
「おはよう中山君、沢村さん」
「わあ、紫苑ちゃんおっはー!」
「おはよう天藤さん」
愛想のいい挨拶で天藤を迎える二人。
「どうしたの二人とも、その恰好は?」
「朝練しようと思ってね」
へえ。朝練までやるのかよ。二人とも結構ストイックなんだな。さすがに他のクラスメイトに強要することはしてないが。
「よかったら紫苑ちゃんもどうー?」
「ええ。喜んで参加させてもらうわ沢村さん」
「やったー!」
「とりあえず先行っててもらえる? 着替えてからすぐ追いかけるわ」
「わかったー! 先行っとくね!」
そんな他愛も無い雑談を交わしながら三人が教室を出ていく。
天藤のことだ。昨夜考えた戦術について朝練がてら話をするつもりなのだろう。
そんな彼女らを背に俺は一人机に座り、チャイムがなるまで窓の外で流れる雲の動きをボーッと観察した。
そうこうしていると、朝のホームルームが始まる。
ホームルーム直前に天藤たちが戻ってきた。特に変わった様子を見せることもない。だが、例の話はしたのだろう。
担任の三崎先生が教壇に上がる。
「今日は、予選ブロックの組み合わせを決めるための抽選会をやるよー!」
唐突の発表にクラス全体が「ええ〜!?」とどよめく。
「マジかよミサミサ先生!」
「マジよ」
「うひょおお、緊張してきたー」
岸田や吉野が武者震いしている。この二人のリアクションは相変わらず目立つものがある。
「抽選会は4時間目に実施します。場所は講堂でチームごとに並ぶように。あと遅刻しないようにねー」
◆
昼休みを迎えた。
昼食を済ませた俺は特に教室に戻る理由もないので、直接講堂に移動した。
4時間目が始まるまではまだ20分あるが、中に入ることができた。
座席はコンサートとかでよくある円形構造で、シートも映画館のイスみたいでゆとりのある大きさ。
あらかじめクラスごとに座席の領域が用意されていた。
Fクラスは二階席の東側のようだ。
昼休みを満喫しているのが大半なのか、クラスメイトはまだほとんど来ていない。チャンス、こういうときは一番後ろの隅のポジションに座りたいところだ。
「お疲れ様、桜之宮君」
「天藤か」
彼女のほうが早くついていたらしい。
「ここ空いてるわ」
「一番前じゃないか。俺はあっちの席に座りたい」
「それは無理な相談ね。朝先生も言ってたでしょ。チーム単位で並ぶのだから」
「……やれやれ仕方ない」
諦めて天藤の隣に座る。
そういえば、朝の電車のときもそうだったな。今日は何かと彼女と縁がある。
「朝のときと比べると機嫌がいいな」
「きっちりと隔てられているからよ。あなたの肌に触れることはない」
天藤はそうきっぱりと言い放った。
そうこうしてうちに人もどんどんやってきて、席が埋まっていく。
5分前になると、岸田たちも到着しFクラス、ひいては一年生全員が着席完了となる。そして、前方の舞台の方を見れば、先生たちが壇上でマイクやプロジェクターのセットをしていた。
「なにやら大掛かりだな」
「そうね」
やがて昼休み終了を告げるチャイムがなり、4時間目が始まった。
早速一人の中年でやや筋肉質の厳しそうな雰囲気のある男の先生が壇上でマイクを握る。
「一年A組担当の堺だ。諸君らに集まってもらったのは他でもない。すでに各クラス担任から話は伝えられているはずだ。これよりこの場で球技試験、予選ブロックの抽選会を実施する!」
「諸君らはすでに一クラス4チームの計24チームに分かれてもらっている。予選ブロックは8ブロックに振り分けられる。よって各ブロックにつき3チームが振り分けられることになる」
堺先生がそういうと、壇上背後のプロジェクタに画面が投影される。
そこにはそれぞれ第1ブロックから第8ブロックと書かれた8つの四角い枠が表示されている。
枠の中は空白だ。
「これからそれぞれのチームにはメンバー全員壇上まで上がってきてらう。そしてチームリーダーの者がこの箱のなかのくじを引いてもらう。そこに描かれた数字が予選ブロックに対応することになる」
なるほど、くじ引きで決めるのか。
「AからF組の順番に4巡で来てもらうことになる。何巡目にどのチームが引きに来るかは各クラスに任せる。なお二巡目以降で、引いたブロックにすでに同じクラスのチームが割り当てられていた場合、重複しなくなるまで引き直してもらう」
「以上で予選ブロック抽選会の説明を終了する。では早速A組から引きに来るように」
先生が一回席に座るAクラスに目配せする。
「では僕たちのチームから」
一条のチームか。
王や安藤の姿もあるな。
桃香と雪下は別のチームか。今回の試験では一条がAクラスの実質的なリーダーだしな。
一条のチームが10人起立し、一条を先頭に壇上に並ぶ。
「この抽選会、どうやら相手クラスのチームメンバーを把握する場でもあるみたいね」
隣で天藤がそう呟く。
そして手帳を取り出し、今壇上にいる生徒の名前を書き取り始めた。
「あそこにある全員の名前がわかるのか?」
「え、そのくらい当然でしょう?」
いやいや当然じゃないだろー。
半数以上はモブにしか見えない。
ただでさえクラスメイトの半分も顔と名前が一致してないのに、他クラスまで覚える余裕なんて普通ないぞ。
「Aクラス一条チーム、第4ブロック!」
先生がそう告げると、プロジェクタの第4ブロックの四角枠に一条チームの名前が書き込まれた。
なるほど、その四角はそうやって埋めていくのな。
「次、Bクラス!」
「わたくしたちが行きますわよ!」
Bクラスの一巡目はやはり西園寺チームか。
クラスリーダーでとんでもない大富豪である西園寺を先頭に、専属メイドの黒木やボディガードの山田が続いていく。
「へえ。あの子がBクラスのリーダーなのね。確か西園寺さんだったかしら。バトル・ロワイアル試験にも出てたわね」
絡んだこともないのに名前を把握してるのは流石だな。
西園寺がくじを引き、
「Bクラス西園寺チーム、第5ブロック!」
そう告げられ、そのブロックの四角枠が一つ埋まった。
次いでC、D、Eクラスとくじを引いていき、それぞれ第2、第7、第6ブロックと埋まっていく。
「御神楽君チームはまだのようね。彼と同じブロックだけは避けたいところ」
天藤がそんな危惧をしている。そんなこと言ってたらフラグになるぞ。
「次、Fクラス!」
「よし、みんな行くよ!」
中山チームが起立する。
「Fクラス中山チーム、第1ブロック」
これで一巡目が終了。
特に一巡目は各クラスでも中心となるチームが多く出揃っていた。
「一巡目、見事に全チームバラけたな」
ま、そのほうが確率が高いか。
「次から二巡目だ。Aクラス!」
「私達のチームが行きます」
雪下と桃香のチームか。
桃香ではなく雪下がチームリーダーを努めている。
やはり今回の試験、桃香は深く関わっていないようだな。生徒会の仕事って言ってたっけ? 彼女も彼女なりに忙しいんだろうな。
「Aクラス雪下チーム、第8ブロック!」
どうやら一巡目のチームとは重ならなかったな。
これで唯一埋まってないのは第3ブロックのみか。
「次、Bクラス――」
二巡目のくじ引きもB、Cと進んでいった。
そしてDクラス、御神楽チームが立ち上がった。
「いよいよあいつらのチームか」
この抽選会で一番の緊張が一帯に走る。
壇上に上がった御神楽は静かにくじを引く。
すでにブロックの決まったチームの多くは御神楽と当らないことを祈りながら、くじを引くのを見守った。
どうやらそのくらいあいつの脅威は幅を効かせているらしい。
「Dクラス御神楽チーム、第4ブロック!」
第4ブロックということは一条たちのチームと同じブロック。
優秀候補同士がいきなり予選でぶつかることになるとは。どうやらここが魔境――死のグループになりそうだ。
「次、Fクラス!」
続いてEクラスのくじ引きも終わり、俺たちのクラスの番だ。
「俺たちが行く」
天藤よりも早く挙手したのは上杉チームだ。
上杉チームが壇上に上がる。そして、上杉は何を思ったのか、Dクラスの方を5秒ほどジッと見る。
「聞こえるか、御神楽?」
「ああ聞こえているぜ。上杉」
会場に妙な空気が流れる。
「前回のバトルロワイヤル試験、なぜか俺はお前を倒したことなってる。だが正直あの試験で何が起きたのか、俺には記憶がない。だからもう一度お前と戦わせてもらう。そしたら何か思い出せるかもしれないからな」
「別に構わないぜ。たが、それはくじを引き当ててからの話だ」
「わかっている」
そう言って上杉はくじを引いた。
「Fクラス上杉チーム、第4ブロック!」
マジで引きやがった。上杉のやつある意味強運の持ち主だ。
「ああああ、なにやってんだ上杉ーー!!」
「上杉のアホー!」
「さいあくだ、一条や御神楽と戦わないのいけないのかよおお!!」
「そんなああ……」
Fクラスから非難と落胆の声で溢れる。
空気の読まないことに定評のある上杉。
上杉はクラスメイトの批判にどうじることなく飄々と戻ってき、席についた。
さて3巡目へと進んでいき、再びFクラスの番となる。
3巡目は俺たちのチームがくじを引きに行くことになった。
壇上に整列し、チームリーダーの天藤が箱の中に手を入れる。
そして取り出したカードを係の先生に渡す。
「Fクラス天藤チーム、第8ブロック!」
第8ということは桃香、雪下チームとあたってしまったようだな。
その後も抽選は続いていき、4巡目を終えすべての組が確定した。
予選ブロックは――
第1ブロック
Bクラス 梅里チーム
Dクラス 新田チーム
Fクラス 中山チーム
第2ブロック
Bクラス 佐藤チーム
Cクラス 五木チーム
Dクラス 小松チーム
第3ブロック
Bクラス 霧江チーム
Cクラス 成川チーム
Eクラス 杉山チーム
第4ブロック
Aクラス 一条チーム
Dクラス 御神楽チーム
Fクラス 上杉チーム
第5ブロック
Aクラス 藤井チーム
Bクラス 西園寺チーム
Eクラス 米村チーム
第6ブロック
Aクラス 富岡チーム
Eクラス 泉チーム
Fクラス 佐々木チーム
第7ブロック
Cクラス 小林チーム
Dクラス 木村チーム
Eクラス 原チーム
第8ブロック
Aクラス 雪下チーム
Cクラス 坂山チーム
Fクラス 天藤チーム
である。




