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自己紹介、クラス寮

「みんなー、ちょっといいー?」


ホームルームも終わり教室を後にしようとしたところ、真ん中の席の女子がクラスメイト全員に呼びかけた。


「君は……沢村さんだったよね。どうしたんたい?」


いち早く反応するのは茶髪のイケメン、中山だ。

沢村と呼ばれたその女子は、長身、色白、金髪、碧眼、サイドテールという一際目立つ存在感を解き放っている。

おそらく外国人もしくはハーフだろう。

そして両耳につけているイヤリング、膝上10cmというパンツが見えそうなくらい短く着崩されたスカート。

彼女がはっちゃけた人間だというのがすぐにわかった。


「さっきの先生の話だけどさー、これからアタシたちクラス同士で協力していかないといけないわけじゃなーい? だから一日でも早く仲良くなれるように自己紹介がしたくってさあ」

「自己紹介!? それはいい案だね! お互いのことを知るためにも有効だ」


中山が目を輝かせて賛同する。


「自己紹介とかかったり〜。高校生にもやってやることじゃないぜ。そんなことよりも早くトレーニングがしてえんだ!」


面倒くさそうに無駄に長いモミアゲをいじる岸田。


「何言ってんだよ。岸田だってモテたいだろ? 女子たちのリサーチにうってつけじゃん」

「吉野お前さえてるじゃねえか。やっぱオレも自己紹介さんせー」


吉野は結構チャラそうな人種だな。

髪もワックスでツンツンに決めてるし。

悪いやつではなさそうだがな。


「中山も岸田も吉野もありがとー。他のみんなもそれでいいー? 賛成なら手を上げてー」


もう完全に自己紹介をやる流れになっているわけで。

そんな空気の中で断る日本人など当然いるはずもない。

残る有象無象のクラスメイトも続々と賛成していく。

こういった自己紹介の類いは苦手なものだから本心では賛同ではない。しかしこんなところで断ってしまえば悪い意味で目立つ。なので俺も迷わず手をげることにした。


「用事がある。悪いが俺は帰らせてもらう」

「ちょ、まっ――」


廊下の窓際一番前に座るやや小柄な男子はそう言うと、沢村が止めようとしたにも関わらず、眠そうにあくびしながら教室をから出ていった。


「なんだよあいつ。感じわりいな。自己紹介よりも大事な用事があんのかよ」

「いや岸田もついさっきまで同じようなこと言ってたぞー」


吉野は俺の思ってたことをツッコんでくれた。


「彼は上杉佐助君。僕と同じ中学出身でね、いつもあんな感じなんだ」


中山が代わって彼の紹介をする。


「一人が好きってことー?」

「そうなのかもしれないね」

「ロン毛でいかにも暗そうなやつじゃん。そのくせ空気読まねえとか。なんか受け付けねえわ」

「けど彼は決して悪い子じゃないんだ。吉野君、許してやってくれないか」

「まあ中山がそこまで言うなら」

「早く自己紹介やろーぜー。トップバッターは中山でいいよな?」


上杉についてあーだこーだ言ってても仕方がないと言わんばかりに岸田が促すと、中山が軽く頷く。


「僕は中山歩。趣味は運動と音楽だよ。槍術が得意だよ。魔術もそれなりにできる。色んな人と仲よくしたいと思っているからよろしく!」


トップバッターにしてはこれ以上ないくらちの完璧な自己紹介。これこそコミュ力お化けよ。


「一番は取られたんだけど、次は言い出しっぺのアタシね。アタシの名前は沢村エミィ。みんなも気づいてるかもしれないけど、アタシ日本人とアメリカ人のハーフだからー。勉強はダメだけど、体力と気力には自信があるからヨロシクー」


沢村は最後にピースサインを決めて見せる。

欧米の血が混ざっているのか、終始自信満々な態度を貫いている。


「こんな風に軽い感じでいいから、こっちの席から順に自己紹介していってー」


沢村は廊下側の席の子を指名する。

そうして一人ずつ自己紹介が進んでいった。

明るそうなやつにチャラそうなやつ、大人しそうなやつに賢そうなやつ。

色んな性格のクラスメイトがバランスよく在席していることがわかった。

天藤は相変わらずの上から目線の発言だった。

しかし見てくれがトップを争うくらい良いため、男子にはそんな物言いもご褒美だという感じで好感触のようだった。

一部の女子からは顰蹙(ひんしゅく)をかっていたようだが。

そして、席が窓際端っこの俺で最後だ。


「桜之宮幸成です。趣味とかは特にないです。得意な武器は特にありません。大体魔法を使ってます。よろしくおねがいします」


とまあ無難に済ませてやった。


「魔法はいつから使えるようになったのー? やっぱ中学ー?」

「それは言えない。中学には通ってなかった」

「あっ……聞いてしまってゴメンねっ。そういう事情もあるもんね」


沢村に不登校だと勘違いされた。

それで構わないけど。


「別にいいさ」


そう、俺はこの2週目の人生では中学に通っていない。

それどころか小学校にすら通ってない。

実は昔、前世の知識で調子に乗りすぎたせいで国に目をつけられてしまった。

そして5歳のときから10年間、国軍の特別精鋭部隊としてものすごく厳しい訓練を受けさせられた。

いやあ、あのときはしんどかったなー。もう二度とあの頃に戻りたくない。

あれは俺の中の黒歴史だから日頃は極力忘れるようにしている。

しかしこうやって昔のことを詮索されるリスクがあるから、自己紹介ってやつは苦手だな。


「ラストバッターありがとう桜之宮君。これで全員自己紹介は終わったようだね」

「ええ、それじゃ解散ということで。みんな私の提案に付き合ってくれてありがとー」


そうしてオレたちは下校した。

帰り道ではすでにいくつかのグループが出来上がっていた。

俺は一人で電車に乗り寮に戻った。





1年生の寮は、国立先端高等学校前駅から5駅のところに位置している。

学校から寮に着くまで小一時間ほどかかる。

駅の周辺は割と閑散しているため、休日どこかに遊びに出かけようと思うと、わざわざ電車で移動しなければならない。

率直に言うと不便な場所。


「やっとついた」


無意識にそんな独り言がでる。

この寮にはちょうど一週間前に入居した。

寮では食飲品と光熱費を無償で提供してくれる。

更にインテリアも最初から揃っていた。

タダで生活できる環境を用意してもらっているわけだ。


「今日はカレーにでもしようかな」


一階の食品倉庫で食材を漁る。

好きなな食材を好きなだけもらえるのは嬉しい。


「今日はカレーにしようかしら。あっ、桜之宮君」


肉コーナーで牛肉を漁っていると、運の悪いことに天藤に遭遇してしまった。

すべての学生が寮で生活をすることが強制されているので、天藤と鉢合わせする可能性もゼロではない。


「さっきぶりだな。天藤もカレーか」

「その口ぶりだとあなたもそうなのね。もしかして私のストーカー?」

「そんなわけないだろ」


少しの間のあと、天藤は口を開く。


「この学校の仕組み、桜之宮君はどう思う?」

「そうだな。大差をつけられてしまったし、なんとか次の試験では追い上げたい」

「ふーん、そう」


天藤は怪しむような目でジロジホ見てくる。


「ってことはちゃんと協力してくれると考えていいの?」

「さあ」


ガチになれば卒業までもっていくことはそう難しくない。

だがそれだと目立ちすぎる。

俺は目立たず穏やかな生活を送りたい。

表舞台には立てない。

俺のできることはせいぜい裏で糸を引っ張ることくらいかな。


「あなた本当は優秀よね?」

「なんだと?」


唐突な指摘に背中から冷や汗がふきでる。

こいつまさか俺の素性を?


「抜き打ちにもかかわらず、あなたはあの試験のポイントを見抜いていた」

「たまたまだ」


もちろん嘘だけど。


「それができていたのはこのクラスであなたと私だけだと思っている。中山君もわかってなかったみたいだし。たまたまでもその洞察力はこのクラスが上に行くためには必要なこと。だから嫌でも協力してもらうから」

「やれるものならな」

「やってみせるわ。それじゃあ、これで失礼するわね」


天藤は必要なものを取り揃え、俺のところから立ち去った。

やれやれ彼女と深く関わるのは良くないな。

今度からは別の時間に食材取りに行こっと。


さて、寮は5階立てで、俺の部屋はF棟の4階にある。

入寮時はなんとも思わなかったが、このF棟とはF組の生徒の寮棟という意味だと思う。

両隣に住む生徒も、上下の階に住む生徒もおそらくF組なんだろうな。

まあそんなこと気にしても仕方がないか。

俺はエレベーターで4階まで移動する。

406号室、ここが俺の部屋だ。


「はあ、部屋まで隣だったのね」


隣の407号室のドアの前で天藤が心底嫌そうにため息を吐く。


「それはこっちのセリフだ」


俺の見立て通り、隣室もF組だった。

が、クラスの中で最も深く関わりたくない人間がお隣さんとは。

どうやら俺は相当運が悪いらしい。


「これからよろしくね、桜之宮君」

「ああこちらこそ、天藤さん」 


これ以上心のこもってない挨拶は存在しない、と俺は思うのだった。


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