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練習会の開講 

翌日の水曜日。中山の呼びかけにより、これから試験が始まるまでの放課後に、試験に向けての【練習会】が開かれることになった。

午後3時、場所は空きグラウンド。

もちろん放課後の過ごし方は人それぞれなので、この練習会は強制的なものではない。放課後に毎日練習するのは体力的にもキツイし、運動になれない生徒からしたらストレスだって十分に貯まりうる。そのため好きな日に参加してほしいというスタンスだ。クラスメイトに気を使った中山らしい案だと思う。

部活に所属している岸田や沢村など、参加できない生徒もいるが、全体で約6割のクラスメイトが集まっていた。


「みんな参加してくれてありがとう」


中山がみんなに視線を向けながら感謝の意で深く頭を下げる。


「そりゃ他のクラスに負けたくないだろ。参加するに決まってるよ」


こういうときは大体岸田か沢村が率先して発言をするが、二人とも不在のため吉野が率先して発言する。


「岸田君や沢村さんのような身体能力に期待できる部活組はどうしても参加が難しい。でも、だからこそ僕たちが彼らの足を引っ張らないようにできるだけのことはしなければならないと思うんだ」


なるほど。沢村や中山の所属する本命チームの研鑽というよりは下位層の底上げが目的か。確かに予選での得失点差が獲得ポイントに大きな影響が出そうだからな。優勝の200ポイントを狙うだけじゃなく、本命以外のチームを育成することも非常に重要ななことだ。


「練習会を開くってのは良いアイデアだと思うけど。一体何をするわけ? 具体的なプランはあるの?」


水原が髪いじりながら、中山を試すような指摘をする。


「試験の日は6月24日だそうだ。それまで約4週間ある。最初の2週間は野球のルールを覚えたり、体力をつけるところから始めたいと考えている。技術的なことはそのあとにしたい」

「ふーん。それならいっかなー」


どうやら基礎的なことに重きを置く方針らしい。

4週間のうち半分もの期間を使って基礎力を身につける。

普通ならすぐにでもピッチングやバッティング、守備練習といった技術的なことをやりたくなるものだが、中山はそれを切り捨てる選択をした。

そんな中山の自信ある返答に水原も素直に同意する。


「これから一週間、チームごとに集まって基礎体力の練習を行ってもらいたい。……これが練習メニューだ」


そういうと中山は一度深呼吸をし、気持ちを整える。そして神妙な面持ちでプリントを参加者全員に配っていく。

するとプリントを受け取った生徒たちが続々とざわめき出す。


「おいおいふざけんなよ! なんなんだよこれは!!?」


メニューを確認した吉野が声を荒げる。

吉野だけじゃない。あちこちから文句の声が上がる。


「体力トレーニングか。なかなかタフそうだな」


俺も配られた資料を確認する。

そこには分単位の細かさで、トレーニングスケジュールが組み込まれていた。

チーム分けが終わってから1日しか経ってないにも関わらず、短い時間でよくここまでのメニューを作り出したものだと感心する。


だが、驚くのはその細かさだけではない。スポーツの強豪校が組んでてもおかしくないほどのきつそうな練習メニュー。これは途中で逃げ出したくなるやつが出てもおかしくなさそうだ。

みんなが抗議したくのなるのもわかる。


確かにこれを1週間も続けられれば、運動音痴な人でもある程度の体力がつくだろう。他クラスにも大きなアドバンテージを取ることができる。――実現できるかは別として。


「それにしても信じられないな。あの中山がこんな厳しいメニューを出すなんて」


隣に座る天藤に向けてそう呟く。


「何か文句でもあるの? このくらいこなしてくれないと上位の成績を残すことなんてできないわ」

「え……。これ作ったのお前なのか?」

「昨日のチーム分けのあと、中山君に相談されたから力になってあげただけよ」


誰にでも優しい聖人君子の中山がこんな鬼メニューを組むはずがない。おかしいとは思ったが、そういうことだったか。


「マジで勘弁してくれよ中山ー。腕立て、背筋、腹筋、スクワット各50回✕3セットとかふざけてるだろ! 無理だってー!」

「ランニング10kmもやりすぎじゃない? 中には運動が得意じゃない人たちもたくさんいる。ついてこられないよ!」


吉野と水原が参加者を代表して、中山にもの申す。


「無茶なメニューなのは十分にわかっている。だから強制しようとは思わない。気が乗らないときは休んでくれて全然大丈夫だよ。好きな日に参加してほしい。僕は毎日参加するけど、もし僕以外にもこれからこのクラスをより上位のクラスに導きたいと本気で思っている人がいたら、少しでも多く参加してくれると嬉しい。きっとクラスのためだけじゃなく、自分のためにもなるはずだから」


あくまでも強制はしない。それが中山のスタンスだ。


「そう言われるとなあ……ただ毎日参加できるかはやってみないとわならねーぞ」

「もちろんそれで構わないよ。トレーニングは昨日決めたチーム単位で行ってもらう。それじゃああとのことは各チームに任せるよ。トレーニング開始!」


そう言いながら中山が合図すると、俺たちはゾロゾロと立ち上がりチームごとに分かれ始めた。





俺の所属するチームに集まったのは、部活組の岸田と男子1人女子2人を除く男子3人と女子3人の計6人だ。

チームリーダーである天藤がこの場を仕切る。


「岸田君、杜王君、小坂さん、西宮さんが部活で不参加だからこのメンバーでトレーニングを始めるわけだけど、まずは自己紹介といきましょう」


自己紹介か。まあ互いにほとんど話したことのない者同士だから当然だな。

ここにいるチームメンバーのうち、俺が知ってるのは天藤と月島だけ。それ以外の3人はこれまで接点がほとんどない。


「私は天藤紫苑。ポジションはピッチャー。本命は中山君のチームだけど、このチームでも優勝を狙うつもりだからよろしく」


天藤が淡々と紹介を終えると、俺、月島と順に自己紹介を進めていった。


「それじゃあそっちのメガネの君、お願い」

「むむ、小生か」


天藤に指名されると、小太りの男子が眼鏡をくいッと上げる。


「小生、名は奥田拓夫と申すでやんす。好きなアニメは魔法少女戦士プリティキャンディズ。DVDはもちろんノベライズ作品も全巻収集済み。野球? 運動? もちろん苦手でやんすよ。絶対足引っ張るでやんす。ポジションも一番動かなさそうなファーストを希望し、そこの瀬田氏にじゃんけん負けてレフト守ることになっちゃったけど、よろしくでやんす」


奥田と名乗る男子はそそくさと早口で自己紹介を済ませた。

まあなんというか典型的なオタクという感じがした。みるからに運動が苦手そうだ。多分マジシャンだろうな。

だが趣味は合いそうだ。俺も前世ではオタクと呼ばれる人種だった。現世ではこれまで軍でしごかれてたから、アニメに興じる時間がほとんどなかったんだよなあ。


「心配しないで。私がしっかりとしごいてあげるから」

「ひえええ。それは勘弁でやんすううう」


運動音痴にも容赦ない天藤。


「ふわあ……流れ的に次は私? 私の名前は瀬田希。私も奥田君と同じでそっち系の趣味が好き。天藤さんとは以前バトルロワイヤル試験の代表チームを決めるときに戦ったことがあるんだっけ? ま、覚えてないよね。ポジションはファースト。すぐ眠くなっちゃうけど、できる限りがんばるのでよろしくね」


瀬田という女子が、時折あくびの仕草を見せながら、面倒くさそうに自己紹介する。


「瀬田さんと戦ったことは覚えているわ。あなたもマジシャンだったわよね」


マジシャン……ということは学力よりの生徒。身体能力にはあまり期待できなさそうだな。やる気もなさそうだし。

それにしても奥田に続き瀬田もマジシャンとは。マジシャン率高いな。俺もだけど。


「ボクで最後か。名前は青山学。マジシャンだ。ポジションはサード。勉強に関しては自信があるが、運動は全くだ。足を引っ張らないように努める」


最後もまたメガネをかけたいかにも賢そうな知的系の男子。奥田に比べれば前向きな姿勢なのは評価できる。


「それじゃあ早速トレーニングを始めましょう。まずはランニングね」


奥田、瀬田、青山。3人ともマジシャン。月島も加えると、10人のうち少なくとも4人が運動が苦手な生徒ということが判明した。

いくら岸田や天藤がいるとはいえ、このチームで御神楽の率いるDクラス、桃香率いるAクラスを相手に勝ち上がるのは難しいかもしれない。

しかし、俺たちのクラスが追い上げるためには勝利せねばならない。そのためにもこの4人の実力を活かすことは優勝を目指す上で必要なファクターになる。

 



「はひいい……やっと終わったで……やんす」


天藤の厳しい管理のもと、約2時間に渡るランニングと筋トレを終え、奥田がもう限界とばかりにグラウンドの地面に倒れ込む。


「はあ……はあ……これはかなりキツいな」


青山も疲労のあまり意識が朦朧としている。

確かに普段運動しない人からすると、このメニューはかなり過酷なものだったと思う。

奥田や青山、月島だけではない。別の場所では他のチームも同じようにくたびれている。


「ああ、私ももうダメ。疲れた」


瀬田も自身の疲労について弱音をこぼす。

しかし、気のせいだろうか。彼女はそれほど息があがっているようには見えない。

疲れた演技をしている……俺の目にはそう映ってみえた。


「もう17時でやんすか。早く帰ってプリディキャンディズの続きを見なければ。それでは先に失礼するでやんす」

「ええ。今日はお疲れ様」


奥田を筆頭に瀬田、青山、月島が帰り支度のため更衣室に向かう。


「俺ももう限界だ。帰ってゆっくり休みたい」

「桜之宮君、あなたには残ってもらうわ」


4人に便乗して帰ろうとするも、なぜか俺だけ引き止められる。


「どういうつもりだ? 今日の練習はここまでだろう?」

「キャッチャーのあなたは例外よ。これからあなたには私の投球練習に付き合ってもらうわ」


中山の……Fクラスの方針としては、そういう練習は後半の2週間でやる計画のはず。

と言い返してやりたかったが、天藤がそれを言わせないようなオーラを放っていたので、大人しく彼女に従うことにする。

はあ。これがキャッチャーの宿命なのだろうか。

俺はこのポジションを志望したことを少し後悔した。


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