合同特訓、代表チームの顔合わせ
俺は寮に戻ると早速スマホを取り出し桃香に電話をかける。
桃香はワンコールの間に出た。
「もしもし、桃香か。桜之宮だけど――ん?」
向こう側の雑音がうるさい。
水しぶきの音だろうか。
これだと通話しにくいな。
「シャワーのような音が聞こえるのだが」
「ああごめん。その通りシャワー浴びてたから。今ね、お風呂入ってるの。あ、ちゃんと防水ついてるやつだから安心して」
いや、安心とかそういうのじゃなくてだな。
お風呂なんて言われると、お風呂入っている姿を想像してしまうじゃないか。
むしろ余計に通話に集中できない。
「それにしてもFクラスもドンマイだね。岸田君がDクラスにやられてしまうなんて」
「Dクラスというより御神楽だな。あいつは俺の思っている以上に危険なやつだった」
御神楽龍之介、Dクラスのリーダー。
おそらくこの学年で一番注意しなければならない人物だ。
「そうだね。きっと彼は大会のルールを理解した上で今回の作戦を実行してきたんだと思う。大会前に主力チームを出場できなくさせるというのが目的だよね。代わりのチームの方が絶対に実力が劣るから。他クラスの代表チームを把握してないとできない作戦だよ」
「見事に探りを入れられて5人中4人も当てられた」
「ありゃりゃ。彼うちにも来たよ。一条君が追っ払ってくれたけど」
一条ってのは桃香が生徒会に推薦した男子だっけか。
顔は見たことないなあ。おそらくAクラスの代表メンバーか。
「情報によると御神楽君の家は極道の一門らしいよ。腕前は確かだけど、今回みたいに荒っぽいところがあるから気をつけてね」
「なるほど。それはいい情報だ。あいつには気をつけるとするよ」
「あとそれとね、今回の大会のことなんだけど。休みの日にお互いの代表メンバーで顔合わせをしない?」
桃香がそんな提案をしてきた。
「顔合わせか……賛成だ。そしたら中山に連絡しておいてくれ。俺もちょうど同じことをしたいと思っていたところだったんだ」
月島が特訓したいと言い出したときから、その特訓相手としてAクラスに協力してもらいたいと考えていた。
「もしよかったらなんだけど、その顔合わせも兼ねてうちのメンバーの特訓に付き合ってくれないか? 伸びしろのあるメンバーがいる」
他クラスのメンバーの特訓に協力するのは普通なら考えられないことだ。
だが一番ライバル関係から離れているAクラスとFクラスならば話は違う。
おそらく桃香は乗ってくれる。
「ほう。私は構わないけど。その伸びしろのある子って誰? 紫苑じゃないよね?」
「ああ、月島って子だ。回復魔法の天才だ。今回のバトル・ロワイアル、集団戦で役に立つ」
「ふーん。私も回復魔法には自信あるんだけどなあ。まあいいや。その子の特訓も兼ねてということで中山君と話を進めておく!」
少し悩む素振りを見せたがオーケーをもらえた。
「ありがとう。それじゃ切るぞ」
「はいはーい。またね!」
通話を終えるとスマホを床に放り投げ、ベッドにダイブする。
今日の疲れが一気に吹き飛ぶ。
「どうやってDクラスを負かそうか。いやいや、Dクラスに固執しすぎるのもよくないな。BクラスやCクラスのことも考えてないといけないが……そんな余裕はなさそうだ」
大会まであと2週間前。
これからD以外のクラスを偵察し対策を練るには時間がなさすぎる。
むしろ偵察される可能性もまだある。
それにAクラスと結託していることがバレるかもしれない。
色々なことに注意を払わなければならない。
そう考えると今回の試験は気が休まらない試験だ。
早く終わらせて解放されたいものである。
今週の授業も終わり休みの日になった。
いつもは溜まった家事をこなしたあと一人でゴロゴロすることが日課なのだが、今回はちょっとしたイベントがある。
白のパーカーと黒のジーパン、いつもの私服に着替え寮を出る。
電車に乗り学校とは反対の方角へ進む。
AとFが組んでいることを他クラスにバレる恐れがあるため、学校で特訓するのはあまりにもリスキーだ。
そこで中山の提案で少し遠いところにある森の中でで行うことになった。
片道一時間ほどで最寄りの駅に到着する。
周囲が緑な囲まれたのどかな場所。
すごく田舎といった印象だ。
「お、桜之宮君がきた」
無人の改札を出ると出口で中山が迎えてくれた。
他にも天藤紫苑、月島、福西、それと桃香を含む見慣れない5人の姿。
「俺が最後か。待たせてしまってすまない」
すでにAクラスとFクラスの代表チームメンバーが集まっている。
ここの駅は30分に1本しか電車がないため、つまり俺はみんなをそれくらい待たせてしまったということになる。
「謝る必要はないよ。順番的にはそうだけど、みんなさっきの電車できたみたいだから」
「ああそうなのか」
俺が一番改札から遠い車両に乗ってたということか。
「なあ中山、上杉は来ていないのか?」
「そうだね。今朝体調不良で今回の特訓は不参加だってメールをもらったよ」
絶対それ嘘だろ。
休みの日にわざわざ特訓とかしたくないからだろ。
あいつの身勝手さはいつもどおりだな。
「はーい。それでは全員揃ったことで。まずは顔合わせをしましょ! お互いのクラスほとんどが初対面だからね」
手をパンパンと叩きながら天藤桃香が仕切り始める。
薄手の白いセーターとピンクのロングスカート、ふんわりとしたかわいらしい雰囲気の私服姿だ。
「今回のバトル・ロワイアル大会をFクラスと協力するこのになりました。提案を受諾頂いたFクラスのみなさんには感謝申し上げます」
桃香はお辞儀をする。
本当は俺が言い出したことだが、彼女は気を利かせてそのような言い回しにしてくれている。
それは俺にとってありがたいことだ。
「この5人がうちの代表チーム。一条君、安藤君、雪下さん、王さんだよ! よろしくねっ!」
桃香から紹介を受けたAクラスのメンバーたちは軽くお辞儀をする。
男子2人と女子3人。王って女子は中国人っぽいな。
それぞれ性格は違いそうだが、どことなく自信に裏打ちされたそんなオーラのようなものを全員から感じる。
「ほら天藤さん、こっちのクラスも」
「わ、わかってるわよ」
中山がチームリーダーの天藤に紹介をするよう促す。
天藤紫苑は罰の悪そうに了承する。
相手が実の姉というのが影響してそうだ。
「こちらが私達のクラスの代表チーム。桜之宮君と福西君と月島さん。一人男子が欠席しているけど」
棒読みながら天藤も紹介を行った。
姉と違って愛想の悪いツンなお嬢様だ。
「ありがとう紫苑。あなたもチームリーダーなのね。チーム名は?」
「単純に天藤チームよ」
「あら被っちゃったね。うちもリーダーの私の名前を取って天藤チームなの」
おっとそれは偶然だな。
ということは2つの天藤チームということになるな。
「チーム名なんでどうでもいいわ。こんなところで長々と立ち話していないで早く練習に行きましょう」
「まったく紫苑はこれだからー。いいわ、それじゃあ出発しよー」
俺たちは特訓場所である森に向かった。