図書館、Dクラスからの襲撃
放課後。
今日出た回復魔法学のレポート課題をするために、俺は岸田を誘う。
岸田の席にいくと、なぜだか吉野も待っていた。
吉野は何か悪いことを思いついたような、そんな顔でニヤニヤとしている。
「わりい桜小路。勝にバレちまった」
「レポート出されたってのに、篤志のやつめちゃくちゃ余裕そうな顔してたから、こりゃ何かあると思ってよー。問いただしたんだよ。そしたらまさか桜之宮と篤志が結託してるなんてな。意外な組み合わせっ。というわけで俺も混ぜろ! 言っとくけどお前たちに拒否権はないからな。断ったらこのことをクラス内に暴露するぜ!」
これはつまり脅されたという認識であっているのか。
吉野は勉強できないタイプの人種だが、こういうときだけ無駄に頭がキレる。
その頭を勉強に向けさせれば、レポート課題も楽勝だと思うんだけどな。
「二人よりも三人。多いに越したことはない。俺は構わない」
「サンキュー、桜っち!」
桜っちって俺のことか。
なんか間抜けな呼び名だ。
「教室に残ってると怪しまれるし。とりあえず図書室に行こうぜー」
「いいぜ。オレ図書室行くの初めてだ」
「岸田、俺も初めてだ」
俺たち3人は教室を出る。
そのとき俺はふと誰かに見られているような気がした。
さて図書室に到着。
そこは図書室……というよりも図書館だった。
メインの校舎から離れたところにそびえ立っており、4階建ての一つの独立した施設だった。
内部の設備もしっかりしている。
あらゆるジャンルの本がたくさん管理されている。
自習スペースも充実している。
すごいのはそれだけじゃなく、なんと専用のお洒落なカフェまで併設されていた。
今日の分が終わったら後で寄り道しようと吉野が提案していた。
テスト期間ではないので、自習スペースはガラガラ。
4人がけの空き机を見つけ、そこに座ることにした。
俺の前に岸田。岸田の隣に吉野が座っている。
そして俺たちは各自任された箇所の問題を解いている。
「俺魔法理論苦手なんだよなー」
言いながら吉野が頭をボリボリかいている。
「甘えたこと言ってんじゃねえぞ。桜小路が一番難しい問題引き受けてくれてるんだからよお!」
「そんなことわかってるよ。ってか篤志も全然進んでねえじゃん」
「うぐっ。今調べてるところなんだよ!」
小学生並みの集中力の低さ。
脳まで筋肉になってるんじゃないかと思いたくなる。
「ああ。早く終わらしてカフェいきたい。可愛い子がいたらナンパするんだ!」
お前それがカフェ行きたい理由だったのか。
「この際カフェじゃなくてもいい。本棚で同じ本をとろうとして、偶然女子と手が重なるってのも悪くない! 図書館から始まる恋。というわけで問題の参考になる本探してくるー。ってお前は!?」
吉野が席を立とうとすると、とある女子生徒が俺たちの机にやってきた。
「なんだか騒がしいと思ったら……。あなた達いったいここに何しに来たの?」
その女子生徒とは天藤だった。
どうやら彼女は一人で自習していたらしい。
「絶対図書館なんかにこなさそうなメンツよね。これは桜之宮君の策略?」
「まあそういうことだな。前に岸田と協定を結んだって言っただろ」
「ああそういうこと。あなたが言ってた協定って、レポート課題を分担するってことだったのね」
察しの良い天藤は状況をすぐに理解してくれた。
「これから岸田はバトル部で忙しくなるからレポートする時間も少なくだろうし、協定を結ぶことは必要だと判断した。レポートが未提出になれば、クラスポイントが減点するかもしれないしな」
とりあえずそう言ってフォローしておく。
「ふーんなるほどね。それじゃあ私も参加していいかしら?」
えっ、天藤も仲間になるってのか。
そりゃ大賛成だ。
「助かるぜ天藤!」
「やったああ! 紫苑ちゃんだあ! 可愛いい女子だああ!!」
その喜びようからして、岸田と吉野も異存はないらしい。
「こちらこそよろしく天藤」
協定成立。
天藤は俺の隣の席に座ると、ニヤリと笑う。
「フフッ。言質は取らせてもらったわ。あなたたちがきちんとレポート課題に向き合っているか監視させてもらうからよろしくね」
「「「はあっ!?」」」
「少しでもサボるようなら、あなたたちがズルしてることを三崎先生に伝えてあげる」
「おいそんな手を使うのは卑怯だぞ、紫苑ちゃん!」
吉野、お前もさっき同じ手を使ってたぞ。
だが、天藤が入ってくれて助かった。
岸田と吉野じゃ戦力外過ぎて、いつ俺の負担が増えてもおかしくなかったからな。
天藤がいればその心配がなくなる。
さて、ドSで厳しい天藤の監視体制のもと俺たちは全力で問題を解き、1日で終わらせることができた。
「よっしゃあ!! これからカフェだああ!」
勉強から開放され、吉野のテンションが上がっている。
そしてカフェ《アスタリア》に到着。
スイーツが売りの、女子に人気なカフェらしい。
「え、ちょっと! あなたたちここに入るつもり?」
天藤が不可解そうに言う。
「当たり前だろ? そのためにさっき頑張ったんだから、ほら篤志行こ!」
「おう!」
吉野と岸田を先頭に俺たちはカフェ《アスタリア》に入店する。
中に入ると、ウェイトレスさんが迎えてくれる。
「学生証をみせてください」
そう言われ、俺たちはポケットから学生証を見せる。
すると予想もしない答えがかえってきた。
「申し訳ありません。お客様のクラスはアスタリアの利用権を取得されていませんようなので。大変心苦しいのですが、お引取り願いませんか?」
入店拒否。
俺たちのクラスはカフェの利用権がないらしい。
要するにポイントがなきゃここのカフェを利用することができないということだ。
まさかこんなところでもポイント制度が適用されているとは思わなかった。
「あなたたち揃いも揃ってバカなの。ちゃんとマニュアル本読んだ? ここのカフェを利用するには20ポイント支払わなければならないのよ」
天藤は呆れている。
彼女は知っていたようだ。
「あんまりだああ! ポイント不足とか聞いてねえよおお!」
吉野が喚く。
「お? これはこれはFの連中じゃねえか」
カフェアストリアから5人組が出てきた。
それは御神楽を始めとするDクラスの面々だった。
御神楽と、二人の愛人。そして先日入部試験で戦ったことのある丸坊主の丸山とパーマの浜野という男子だ。
「お、お前らは!?」
岸田が思わず声を上げる。
「どうしてこんなところでたむろしてる……って聞く必要もねえよな。マイナスポイントのお前らにぜい沢する資格なんてねえんだよ。いやあここのケーキはとても美味しかったぞ」
御神楽が嫌味を吐く。
「てめえ御神楽ぁ……」
岸田は額に血管が浮き出るほど怒っている。
「おいおい、そんな怖い顔すんなよ。ゴリラ」
「ブッ殺す!! 御神楽! 俺とバトルしろお!」
岸田は御神楽の胸ぐらを掴む。
その威嚇に御神楽はまったくビビることなくむしろ飄々としている。
「そうだな。別に構わないが条件を出してもいいか?」
「条件だあ?」
「こいつらと戦ってを勝つことができたら戦ってやろう。ちょうど4対4だ」
御神楽が指したのは同行していた4人だ。
「いいのか、勝っちまうぜ。オレそこの二人を一撃で倒したことがあるんだぞ。それに最近オレ絶好調だからよ!」
得意げにこたえる岸田。
「そうだ。いいことを教えてやろう。Dクラスの代表チームはこの4人と俺様なんだぜ」
「それは本当なの?」
その情報に誰よりも食いついたのは天藤だ。
「そうだぜ……。天藤紫苑」
「名前、調べたのね」
「あくまでこれは模擬戦。俺様はお前たちのクラスのレベルを知っておきたい。お前たちもうちの代表チームのことも知っておきたいだろ?」
相手の力量を知っておけば、本番の立ち回りの参考になる。
ここで勝てば、相手を威圧することができる。
負けたとしても、相手に極力近づかないように立ち回れば大きな失点を防ぐことができる。
実力を知るということはそういうことだ。
「悪くないわね……」
先日の岸田VS丸山、浜野の戦いを目にしていた天藤は模擬戦に賛成のようだ。
岸田と吉野もやる気だ。
俺も賛成だ。
俺たちは空きグラウンドに移動した。
コロッセオ程広くはないが、試合をするには十分すぎる広さだ。
武器は例に習って模擬戦用の武器だ。
武器はグラウンドに併設されている倉庫に置いてあった。
前の代表チーム選抜戦のときもここから取ってくればよかった。
さて、互いのチームは陣形をとりいつでもバトルできるように準備を整える。
うちのチームは前衛に《アタッカー》の岸田、吉野。
中衛に《オールラウンダー》の天藤。
後衛に《マジシャン》の俺だ。
相手チームは、前衛に同じく《アタッカー》の丸山と浜野。
中衛はなく、後衛に愛人二人だ。
武器を持っていないことからすると、おそらくあの二人は円か《サポーター》だと思う。
御神楽は観客席で高みの見物をしている。
「岸田、お前バトル部入れたからって調子乗ってんなや!」
「ふん、今更負け犬の遠吠えかよ」
「くっ。あのときは少し油断していただけだ!」
「丸山だっけか。何度やっても結果は同じだ!」
「今度はやり返してやる! 行くぞ!」
「上等だ! かかってこいやあ!」
わああああと互いの前衛が駆け出し、試合が始まった。
「めちゃ体が軽い! やっぱり最近調子いいぜ!」
俺は岸田に《三位の加護》をかける。
このままいけば前回と同様、丸山と浜野は一発KO
――のはずだった。
岸田が丸山に斬りかかる直前、後衛愛人の一人が補助魔法を発動させる。
これはまずい!
「よせ岸田、罠だ! 攻撃を止めるんだ!」
声に出したときにはもうすでに遅かった。
丸山が不敵に笑う。
「ヒヒヒ、御神楽さんの言ったとおりだ。お前バカだろ、同じ手を二度も食らうかよ!」
丸山は岸田の攻撃が当たらない低さまでかがむ。
そして足をつき出す。
このままいけば、岸田は攻撃を外し足をかけられ盛大にこかされる。
「なにっ!?」
事態に気づいた岸田だが、いまさら攻撃を止めることはできない。
ズドンと大きな音を立て、岸田は地面に激突する。。
更に追い打ちをかけるようにして、愛人の補助魔法がこかされた岸田にヒットする。
地面から何本もの茨が生え岸田に絡みつく。
岸田は茨と地面縛られ、うつ伏せのまま身動きが取れなくなる。
「ククク。隙だらけだなあ岸田。あのときの雪辱ここではらせてもらう!!」
「ぐあああっ!!」
丸山は岸田の大剣を奪い、頭、背中、両腕、両足のありとあらゆる部分を一方的に攻撃しまくった。
「Fの分際でバトル部に入部しやがって! お前のせいでバトル部に入れなかったんだぞ! ほんとムカつくんだよ! 何よりFのくせにそのデカい態度が気に入らない! このっ!」
「ぐああああっ!!」
浜野も岸田を攻撃する。
いくら木製の武器といえど、大きなダメージになる。
「やめろー! ぐはあああ!!」
応援に来た吉野だったが、同じく茨の補助魔法によって岸田と同じように地面に拘束されてしまう。
「別にチャラ男君には恨みはないけど、これも御神楽さんの指示なんでね。悪く思わないでくれよ! オラアア!」
「ぐはああああ!!」
吉野もボコボコに攻撃されてしまう。
最後に天藤が駆けつけ二人を追い払ってくれたが、既に岸田と吉野は気を失ってしまっていた。
その後俺たちは白旗を上げ、模擬戦はDクラスの勝利に終わった。
俺と天藤は負傷した二人を病棟へ連れて行った。
岸田が右手右足を骨折、吉野が左手首を骨折という診断が下された。
代表チームとして選ばれていた二人は2週間後に迫るバトル・ロワイアル大会に出場することができなくなってしまった。
二人を病室に預け、俺と天藤は病棟を出る。
「これって偶然だと思う?」
開口一番、天藤が呟く。
「予め仕組まれていたものだろうな。洗練されすぎた動きだった。元からDクラスの狙いは岸田と吉野だったのだろう」
御神楽の仕業と見て間違いない。
しかし、ここまで負傷させることに徹底した作戦を実行してくるとは思わなかった。
図書館で出会ったのも偶然ではなかった。
教室を出たときから誰かに見られているような気はしていた。どうやら最初からつけられていたらしい。
「岸田君チームは辞退するしかないってことよね?」
「残念ながらそうなるな」
俺も本来は岸田チームに降りてもらおうと考えていた。
本番前日に、魔法で岸田や中山を《スリップ》という魔法で滑らせて捻挫させようと思っていた。
しかし、まさかこんな形で岸田や吉野が負傷させられることになるとは。
「私が模擬戦に賛成したから……」
隣からくぐもった声が聞こえる。
「もっと慎重になるべきだったわ……」
「仕方ないさ。あれがDの戦い方。もう試験は始まっているんだよ」
「でも……」
「まだ終わったわけじゃないだろ。代表チームが負傷した場合、別のチームを再登録しなければならない」
「もしかしてそれって私達のチームが」
「そうなるだろうな。選抜戦で準優勝したのは俺たちだし。いつまでも下を向いていても仕方ない。ほら、一緒に帰るぞ」
岸田たちの借りは俺たち天藤チームが本番で返させてもらう。