生徒会への誘い、Aクラスとの同盟
校舎に夕日が差し込む。
外はじき暗くなる。
早く帰りたいところだが、生徒会室に呼び出しを食らってしまった。
階段を登り3階へ。
目的の部屋に到着し、トントンとドアをノックして入室する。
部屋の中にいるのは一人の女子生徒のみ。
生徒会長はまだ帰ってないらしい。
「あら、もしかしてあなたはF組の……桜之宮君?」
黒髪ロングストレートでやや背の高く、巨乳のキレイ系女子。
天藤と似た雰囲気の少女だ。
一瞬天藤かと思ったが、胸の大きさのおかげで間違えることはなかった。
彼女は生徒会のメンバーだろうか。
向こうは俺のことを知っているようだが、俺は知らない。
「はい、1年F組の桜之宮幸成です。少し呼び出されてしまいまして。あなたは生徒会の方ですか?」
「うん、書記として今日生徒会入りしたばかりだよ」
新入りのメンバー。
ってことは彼女も俺と同じ1年生。
「1年A組の天藤桃香と言います」
「天藤……」
天藤と同じ苗字なのは偶然……なわけないよな。
乳の大きさ以外は雰囲気がそっくりだ。
「察しの通り紫苑とは姉妹関係にあるわ。私の方がお姉さん」
天藤のお姉さん。
同じ学年ということは双子ということか。
双子の姉が同じ学校に通っているなんて話、天藤からも聞かされたことがないぞ。
想定外の事実に困惑していると扉がガチャリとなる。
白鷺会長が戻ってきた。
「二人共待たせてしまったようだな。遅くなってすまない」
そう言うと会長は一番奥の生徒会長の机へ移動する。
席には座らず俺たちに背を向けて立ち、窓から外の景色を眺めている。
「お疲れさまです白鷺会長。桜之宮君が何か問題でも起こされたのでしょうか」
天藤姉は丁寧にペコリとお辞儀しながら質問する。
「いや、そういうわけじゃない。彼に少し興味がわいてな。桜之宮、お前岸田に何の魔法を使った?」
会長のするどい眼光が突き刺さる。
私はお見通しだ、隠しても無駄だぞ。
と言われてる気分だ。
言い逃れできる気がしないので、ここは正直に吐くしかない。
「《三位の加護》という補助魔法です」
「えっ!? それって確かAランク級の補助魔法じゃ」
天藤姉が目を見開いて驚いている。
「それだけじゃないだろう。桜之宮、私の眼はごまかせないぞ」
やはり気づかれていたのか。
認識阻害の魔法まで。
いずれの魔法も国軍に所属しているときに習った魔法だ。
「に、認識阻害の魔法を少々……」
まるで悪いことをしでかしたかのように、小さな声でそう呟く。
「認識阻害まで!?」
隣で天藤姉が頭を抱え、クラクラと立ちくらみを起こしている。
「最上級の魔法を2つも。一体どこで習った?」
「それは答えたくないです」
国軍時代のことは極力触れてほしくない。
「まあ簡単に習えるはずないか」
会長はそれ以上詮索することはなかった。
「ときに天藤桃香よ。彼を面白い男だとは思わないか? お前は同じクラスの一条という男子を庶務に推薦していた。取り下げてもらえないだろうか?」
おいまて、それはつまり。
「仰せの通りでございます。一条の枠を取り下げいたしましょう」
「どうしたものか、生徒会の枠が一つ空いてしまった。桜之宮幸成、お前にこの席を譲ってやってもいいぞ」
どうやら俺は生徒会に誘われてしまったらしい。
「俺にそのような器ありませんよ」
ここは丁重にお断りする。
俺は平穏主義。
学校の花形である生徒会に入るつもりなんてサラサラない。
「えっ桜之宮君!? 生徒会長直々の誘いを断るなんて!?」
天藤姉が再び目を丸くさせ驚いている。
「生徒会に入るくらいなら、バトル部に入部する方がまだマシです」
「わからんな。それほどの力を有しておきながら、どうして人の上に立とうとしない? どうしてコソコソと隠れながら使う? お前のやっていることは愚かなことだ。私には理解できない」
俺だって昔は転生チートで暴れてたんだぞ。
それで調子乗った結果、超厳しい軍隊施設に閉じ込められた。
毎日毎日、勉強勉強鍛錬鍛錬戦闘戦闘の繰り返し。
当時の俺は軍事利用されていた。
そしてなんやかんやあって、やっとの思いであそこから逃げ出し、この学校に通うことになったんだ。
「飛び抜けた力は発揮しすぎると、悪い大人に目をつけられ、都合のいいように利用されるということです。俺はもう目立ちたくないんです」
だから俺はこの学校で力を発揮することはない。
発揮するとしても表舞台には立たず、裏で動く。
「そこまで言うなら無理強いはしない。だが気が向いたらまた来い。私はいつでもお前を歓迎する。帰っていいぞ」
「はいそれじゃあ。お疲れさまでした」
ようやく解放された。
俺は会長に一礼し、経屋をあとにする。
「ちょっと待って桜之宮君。私と一緒に帰らない?」
そう言いながら、天藤姉が追いかけてきた。
外は暗く日は落ちた。
俺と天藤姉は帰り道の電車に揺られている。
帰宅ラッシュと重なっていたため、座席は空いておらずつり革に捕まって立っている。
「なあ天藤……桃香さん」
一体彼女をなんて呼べばいいんだ。
天藤だと天藤と被ってしまうし。
「あはは。桃香でいいよ」
「ああすまない桃香。最初の挨拶のとき、桃香は俺のことを知っている感じだったが?」
「あーそのこと? あれは入学式のときね、紫苑が珍しく友達連れてたから気になってたのよ」
入学式……そんな最初の段階から見られてたのか。
「入学式試験……点呼のときに紫苑の隣で呼ばれてたから。名前は覚えていたよ」
そういえばそんなこともあったな。
入学式試験、あそこで俺たちのクラスは酷い結果に終わったものだ。
「入学式試験、そういえばAクラスは満点だったな」
「まあね。入学式なのに先生が引率してくれない上に、席が自由席って言うので、なんだか怪しいと思ったもん! 念のため私がクラスのみんなにまとまって座るようによびかけたんだけどね。正解だったよ」
妹と比べて、姉の方は喜作。
試験の意図に気がついていても、天藤紫苑の方はクラス全体に呼びかけることはできなかった。
人望の差が明暗を分けたということか。
「いいよなAクラス。お昼もイタリアンとか食べてるし」
「クラスメイトのモチベーションは大事だからね。150ポイント分をお昼のグレードアップに使っちゃった」
Aクラスの所持ポイントは200ポイント。
そのうちのほとんどをそのために使ったということになる。
電車が寮の最寄り駅に停車する。
「1年生の寮って遠くて不便じゃない?」
駅を降りると、天藤姉が愚痴をこぼす。
「だから次の試験でポイント稼いだら、A組の寮を引っ越しさせるつもりなんだ」
寮を引っ越しだと?
「そんなことができるのか」
「ちょっと〜。ポイント制度について考えてる? マニュアル本はちゃんと読まなきゃダメだぞっ」
「いたっ」
軽くデコピンを食らった。
「250ポイントで学校からの徒歩圏内の寮に移転できるみたいよ。先輩はみんな移転済みだよ」
なるほど。
通りで通学路に上級生の姿がなかったわけだ。
みんな引っ越し済みだったのか。
「引っ越しか。俺も寮の場所については不便に思っていたんだ。エアコンのあとはそれが目標になるな」
「でしょでしょ? 君たちも早くマイナスポイントから脱却しないとだね」
俺たちは他クラスで敵同士。
普通ならこんなに気前よく情報をくれないはずだ。
しかし、この女はベラベラと情報提供してくれる。
それはつまり、最上位のAクラスにとって最下位のFクラスなど眼中にないということ。
だからこそ頼むとしたらこのクラスしかない。
「ところで桃香。俺の提案を聞いてもらっても構わないか?」
「ん、どうしたの?」
「次のバトル・ロワイアル大会、うちのクラスと結託しないか?」
「ふーん、なるほどね」
俺の提案を聞き、桃香はわずかに不敵な笑みを浮かべる。
「偶然だね。私も同じことを考えていたんだよ」
「偶然ではない。AとFは一番ライバルから遠い存在。協力関係になるには最高の組み合わせだからな」
代表チームメンバーの能力の高さ。
他クラスの代表チームメンバーの情報を入手し、対策を立てること。
それらよりも大事なこと。
このバトル・ロワイアル大会を攻略する最大の鍵は、他クラスとの結託である。
目の前にいる彼女もそのことに気づいている。
「そこまで考えていたんだ。桜之宮君はやっぱりすごいね。いいよ協力してあげる。AクラスとFクラスの同盟成立だね!」
「ありがとう。それとお願いなんだが、俺が提案したことを伏せてもらいたい」
「いいけど。それはさっき目立ちたくないって言ってたことに関係する?」
「全くその通りだ。うちのクラスリーダーは中山歩という男子。彼に桃香の方から接触してくれると助かる」
「わかったわ。来週くらいに動くね」
「よろしく頼む」
「おっ、寮に到着だね。それじゃ私はこれで」
桃香はにこやかな笑顔で別れの挨拶をし、A棟の方へ姿を消した。
さて、俺も部屋に戻るとするか。
明日は休日だしゴロゴロしよう。