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天藤チームVS岸田チーム

準決勝が終わった。

本命の岸田チームは期待通り圧倒的な勝利を収めた。

そして俺たち天藤チームも天藤の一人無双のおかげで決勝にコマを進めることができた。

決勝戦、対戦相手は優勝候補筆頭の岸田チーム。

例のホワイトボード裏のバトルエリアにて、両チームは向かい合って整列している。

まもなく最後の試合が始まる。


「おっ、桜小路じゃねえか。お前決勝まで残ってたのかよ。やるじゃねえか!」


岸田は俺に気づくと嬉しそうに声をかけてきた。


「天藤のおかげだ。今のところ天藤がすべての相手をノックアウトしているからな」


戦力にならない上杉と月島を0人とカウントすると、実質3vs5。

そんなどう見ても厳しい状況であるにも関わらず勝ち残れてこれたのは、間違いなく彼女の奮闘のおかげだ。


「すげえじゃん天藤! 勉強だけじゃなくて戦いもできるのかよ。水原じゃなくて天藤を誘えばよかったぜ」

「ちょっと岸田! それはどういうことよ!!」

「いででっ!」


岸田は悪気なく言ったつもりだったのだろうが、隣に立つの水原が怖い顔をして岸田の脇腹をどつく。

本気のグーパン。おお、女子怖え。

彼女を怒らせるのはやめておこう。

月島も水原の様子を見て、子犬のようにビクビクと震えている。

月島のような女の子にあの手のクラスメイトはしんどいだろうな。


「天藤さん、入学初日のときから君のことをすごいと思っていた」

「ふん、それは余計なお世話よ」

「このトーナメント戦、僕は天藤さんたちのチームが波乱を起こしてくれるんじゃないかと思っていたけれど、本当にその通りになった。だけど優勝は譲らないよ。勝つのは僕達だ!!」


その言動から察するに、中山は天藤のことを入学早々かなり評価していたみたいだ。


「わあ天藤さんだー! すごい活躍してるじゃんー!」

「さ、沢村さん!?」


沢村は天藤にニコニコしながら手を振る。


「あー。アタシ達話すの初めてだったね。ヨロシクネー!」

「あ、うん。よろしく、沢村さん」


中山に続き沢村にも声をかけられる天藤。

トーナメント戦を通して、天藤が認められてきているということだ。

少しだけだが沢村と会話できて天藤も嬉しそうだ。

更にもう一人、天藤に絡むものが。

しかし、その態度は先の二人とは大きく異なっているようで――。


「天藤さん。ちょっと戦いができるからって調子に乗ってんじゃない?」

「はあ? そんなわけないでしょ」


水原がそんな嫌味をぶつける。

水原からの悪意を感じ取った天藤も負けじと強い口調で言い返す。


「いいよね〜。ちょーっと顔が可愛からって、男子からチヤホヤされちゃってさ」


そうだそうだーと観客席の外野からもやじが飛ぶ。

女子の団結力……いや同調圧力というものは恐ろしい。


「そんなの誤解よ! 男子たちとも特別仲がいいわけじゃないわ」

「どうだか。清楚系に見えるけど、裏で男遊びしてんじゃない?」

「それ以上勝手なこと言うのはやめて!」


天藤も必死に対抗する。

キレ散らかしたいところだが、怒りが爆発するのを懸命に堪えているように見える。


「流石にそりゃ言いすぎだろ! 水原!」

「ふん。あんたも天藤さんがブスだったら声なんてかけてないでしょ。ついさっきも鼻伸ばしてたくせに」

「ぐっ、それは……」


おい、男ならそこは否定しろよ岸田。


「あーヤダヤダ。これだから男子は」

「んだと、ゴラァ!!」


短気な岸田は水原の袖を強く掴んで威圧する。


「水原さん、岸田君をそこまで煽らないであげてもらえる?」

「なに、天藤さん?」


天藤は冷静に告げる。


「水原さんたちが私のことをよく思っていないのは承知しているわ。私と水原さん、どちらの主張が正しいかこの決勝戦で決めるのはどうかしら?」


そんな突拍子もない提案をする天藤。


「ふふ。それはいい案ね。乗ったわ。私のチームには岸田やエミィ、中山君がいるのよ。負けるはずがない」


水原も合意する。

チームメンバーにかなりのアドバンテージがあり、勝つ自信満々なようだ。

名前を呼ばれなかった吉野が「えっ、俺は?」と水原の方を見たが、完全に無視されてた。


天藤は俺たちのチームメンバーの方へ振り向くと、頭を下げる。


「ごめんなさい。せっかくの集団戦なのに、私情をもちこんでしまって」


天藤は申し訳無さそうにそう言う。


「大丈夫だよ天藤さん。ボクもできるだけの協力はするから。諦めないで!」

「ありがとう福西君」

「こんな大事なことになっているのに。私、何の役にも立てない……」

「気持ちだけで十分よ月島さん。私がいる限り勝ってみせるわ」


天藤が福西、月島にそう答えてやると、今度は俺の方に視線を移す。


「ねえ桜之宮君」

「わかってるわかってる。俺にも協力しろってことだろ。友達だからな。お前が勝てるよう全力でサポートする」


ふふっ、そうだな。

ここはチームメンバー全員に細工してやるか。

補助魔法、《三位さんみの加護》。

5分間味方の《パワー》、《魔力》、《速さ》をそれぞれ30%上昇させるAランクの補助魔法だ。

認識阻害の魔法も合わせれば、周囲にバレることなくチームにバフをかけることができる。

これさえあえば、天藤一人でも簡単に岸田チームを倒すことができる。

本当は100%のバフもかけることができるが、それだと天藤に勘づかれる。30%が気づかれない限界だ。


そんな計画を企てていると自然と顔がほころんでしまう。


「そうじゃないわ桜之宮君」

「えっ……?」

「あなたが優秀なのはわかってる。だから余計な邪魔はしないでってこと」


俺が悪知恵を働いているを察した天藤がそう付け加える。

それはつまり、俺の補助魔法がはいらないということか。

本当にそれで勝てるのか?

言っておくが負ける可能性の方が高いぞ。


「天藤家の娘としてプライドがある。水原さんたちとは正々堂々と戦わせて」


それが彼女なりの向き合い方なのだろう。

そこまで言うなら助太刀はしない。

俺はこの戦いを目だ立たずやり過ごすことにした。






いよいよ決勝戦が始まる。

そしてそれは試合開始直後のことだった。

上杉が天藤を呼び止める。


「リーダー。悪いが俺は抜けさせてもらう」


どうやらギブアップするつもりらしい。

代表チームを賭けた戦い。

同時に天藤と水原の主張を賭けた戦い。

そんな大切な試合を上杉はぶち壊そうとする。


「……かまわないわ。好きにしなさい」


勝手に巻き込んでしまったことに罪悪感を感じて強いるのか、天藤は否定しない。

しかし平然といられるわけもなく、少し悲しそうな顔をしている。

上杉は背を向け場外に向けて歩きはじめる。


「一つだけ聞いておく。誰か一人ノックアウトさせるとするなら誰がいい?」


上杉は足を止め、そんな奇妙なことを言う。

正直こいつが何を考えているのか、俺にはさっぱりわからない。


「そうね。一番厄介なのは中山君かな」

「よりにもよって中山かよ。わかった――」


言った瞬間、上杉はポケットからテニスボール大の白い球を取り出す。

そしてそれを地面に叩きつけた。

ボンッという衝撃音とともに白い煙が周囲に立ち込める。

グラウンド一面が霧に覆われた。


「おいおい、なんだこれは!? 一体何が起きたんだ!?」

「白くて周りが……よく見えない!」


岸田や吉野をはじめ、向こうのチームも困惑している様子。

外野のクラスメイトたちも突然の降り掛かったトラブルにキャーキャー叫んでいる。


「やれやれ。この能力を使うのはこの学校に来て初めてだな」


俺は転生の特典として貰っていた《魔眼》という能力を使い、深い霧の中移動する上杉を観察する。

俊敏で正確な動きは手練の《アサシン》そのものだった。

霧はほんの30秒くらいで消えた。

上杉が中山の背後を取っていた。


「おいおい嘘だろ。中山!?」

「中山君が……ノックアウトされた!?」


いち早く事態に気づいた岸田と沢村がほぼ同時に声を上げる。

中山が上杉に敗れる。

とんでもない波乱。

あまりの衝撃に外野は静まり返ってる。

俺は背後を取られた張本人である中山の方に視線を向ける。


「さすがだよ上杉君、やっぱり君は本当に優しい子なんだね」


他の人らと違って中山は特に驚いている様子はなく、むしろ懐かしそうにしていた。

そういえば中山は上杉と同じ中学らしい。中山は上杉の実力を知っていたのかもしれない。


「みんなごめんノックアウトされたよ。あとは任せた」


そう言って中山は退場した。

上杉が平然として自陣に戻ってくる。


「これで4VS4だ。最低限の仕事はさせてもらった。あとは好きなように戦え。それじゃ」


上杉はギブアップを宣言し退場した。

そしてグラウンドから姿を消した。





上杉の想定外の活躍によりクラスは困惑させられたが、それも落ち着いてきた。

両チーム残りの4人同士で戦いを続行する。


バトルが始まってから5分ほど経過した。

前衛を中心に戦いは拮抗している。

というか拮抗できていることがおかしい。

天藤と福西の二人で、岸田と沢村と吉野の猛攻をこれだけ凌げていることが異常だ。

天藤の戦闘センスと福西の耐久力はこのクラス、いや学年でもトップを争うレベルと言っても差し支えないだろう。

そしてもう一人、誰にも気づかれずその才能を発揮している少女がいた。


「はあはあ。私の攻撃じゃ全然力が足りない」


隣で相手チームの前衛に弓攻撃でサポートする月島。

本人は自分の無力さを嘆いているようだが、俺は彼女の持つ隠れた才能に気づいてしまった。

驚くべきことに、月島は戦いが始まって以来一度も攻撃をはずしてない。

数十メートル離れたところから岸田たちにペチペチと正確に攻撃をヒットさせている。

その集中力は、あの魔法で活きることになるだろう。


「月島は十分サポートできていると思うが」

「いやいやそんなことないよ。私弱いから……」

「確かに攻撃力は明らか不足しているな。だが、あれを見てみろ」


俺は岸田の方を指す。 


「くそお、月島のやつ。あんな遠いところからペチペチペチペチ嫌がらせしてきやがって!!」


月島は攻撃力が低すぎるので、攻撃を当てられたとしても小砂利を投げつけられた程度の威力しか出ない。

しかし効果は的面のようで。

岸田がめちゃめちゃイラついている。


「サポートという観点ではお前はほぼ満点に近い動きができている」

「そ、そうかな。エヘヘ」


月島が照れくさそうに笑う。


「もうちょっと自分に自信を持つといい。月島は自分が思っているよりもずっと才能がある」

「う、うん。まさか私に弓の才能があったなんて知らなかった。これも桜之宮君がさっき言ってくれたからだよ。私も全力を出さないと気がつけなかった。あの……ありがとうね」


月島は顔を赤くさせてそう言った。

だが月島、俺はお前に弓の才能があると思っていない。

お前にあるのは《回復魔法》の才能だ。

さて、月島もそろそろ限界のようだ。

彼女の腕がすでにプルプル震え、悲鳴を上げている。

普段使いしない弓で何本も矢を放ったのだから、そうなるのは必然だ。

程なくして月島は攻撃を中断する。


「月島さんが攻撃をやめた。今よ岸田!!」

「おう!」


水原の指示のもと、岸田が前衛を割ってものすごい勢いで迫ってくる。

天藤が岸田を止めようとするも、吉野と沢村に阻まれてしまう。


「岸田君がこっちに来る。せめて桜之宮君だけでも逃げて」

「悪いな、俺も戦わせてもらう。2対1だぞ。俺たちのほうが有利だ」


嘘だ。

月島がノックアウトされると、今度は俺が目立ってしまう。

それが嫌なので、俺は岸田に立ち向かった結果敗れた生徒Aという無難な結果で終わりたい。

それにあのルール(・・・・・)のことを念頭におけば、今代表チームに固執する必要もない。

だから俺はこの試合を捨てようと判断した。

チームメンバーの技量を測れただけで満足だ。


「ほう。桜小路も相手か。いいぜ二人まとめて倒してやる!!」


俺と月島は岸田にノックアウトされた。

俺と月島が退場し、2対4となった。


それまでは粘りを見せていたが、人数差でゴリ押され福西がノックアウトされた。

天藤は最後まで諦めなかった。

自慢の魔法を交えた剣撃で岸田チームに最後の最後まで食らいついた。

吉野をノックアウトさせ、沢村もあと一歩で倒せるといったところで、水原の水魔法攻撃が彼女に直撃し、天藤チームは全滅した。


試合後、クラスから岸田チームに拍手を送られた。

そして天藤の一生懸命な姿勢を見て、天藤にも拍手が送られた。

水原との戦いには敗れたが、今後天藤にもそれなりの支持が集まると思う。彼女の心配をする必要もないだろう。


さて、優勝した岸田チームが代表チームとして選ばれ、そのことを三崎先生に報告した。

疲れ切った俺たちは教室に戻った。休息に授業の残り時間を使った。


午前中は岸田のレポート課題の手助けをし、昼休みは天藤と形式的に友達になった。

そして午後、代表チームを目指しトーナメントを通してさまざまなクラスメイトと戦った。

本当に長い1日だったが、それなりに充実感もあった。


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