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政府よりの使者

※短編です

ある朝、冒険者志望のクルトが通う学校、『冒険者学校』に黒服の男が三人訪問した。言動、身だしなみ、何もかもが真面目な彼らは一目で政府の高官という印象を生徒全員に植え付ける。


 職員室前を通る生徒は珍しいものを見るかのようにまじまじと彼らを見つめていく。そんな中、ゴーン、ゴーンという鐘の音とともに普段あまり機能しない校内放送が流れた。




「生徒諸君、おはよう。みんな気になっていると思うが、今日、政府の高官が学校に来ている。詳しいことは彼らから話してもらうがこちらからも簡単に説明しておく。我々の国、モールスにてゴブリンが大量に繁殖している。そこで、諸君らに冒険者としての経験を積ませるために学校を一時休校し、ゴブリン狩りを行う」




 ぶつり、と魔道具の拡声器から声が聞こえなくなるが、すぐに先ほどとは別の声が拡声される。




「はい。私は本日、政府の遣いとしてこちらにやってきました。校長先生がおっしゃった通り、現在モールスではゴブリンの異常繁殖が確認されています。各国の冒険者にも協力を仰いではいますが、入国手続きなどで時間をとられたりとあまり期待はできません。そこでモールス政府は全国の冒険者学校に『ゴブリン討伐令』を発令しました。大まかな内容はゴブリンの総数を基準値以下にしてください。期限は半年です。ゴブリンの総数を基準値まで減らした暁にはある程度の報酬がでます。けがなどをした場合は国の医療機関が対応にあたります。こういったものです。なお、この『ゴブリン討伐令』は最優先でこなしてもらいます。


 たかがゴブリンとなめてかからず、全力で殲滅に臨んでください」




 拡声器から音声が途絶え、政府の高官たちは次の学校に行かなければならないからと早々に学校を後にしていった。その後姿を生徒全員が若干興奮した様子で見つめている。




「生徒諸君、そういうことで今からゴブリン狩りを行う。武器を持ち、自然に囲まれたこの学校をゴブリンの脅威から守り切るぞ」




 校長の声が学園内に響き渡り、それに呼応するようにゴブリン狩りに大きな期待をする生徒が鬨の声を上げる。我先にと武器を持ち、周囲の森へと生徒が駆け出していく。




「ほら、クルト俺らも早く行くぞ」


「う、うん」




 槍や長剣を持って出ていく生徒が多い中、クルトは自身が唯一使える短剣をもって親友のラーガに連れ出されてきた。クルトの表情はどこか不安げに眉が寄せられている。




「ラーガは前でみんなと戦っていいよ。僕は少しずつ倒していくからさ」


「それだと俺は楽かもしれないけどクルトが辛いだろ。一緒に狩ろうぜ」




 白い歯を剝き出しにして獰猛に笑うラーガを見てクルトはいたたまれない気持ちになるが、そんなことを微塵も表情に出さずにクルトは「頑張るよ」と言った。


 そうして二人はゴブリン狩りを開始した。




「いけるいける!」


 五つの首を同時に刎ね、ラーガは次のゴブリンを探しに再び木の上に上がる。




「うおおおおお!」




 そうして次のゴブリンを見つけては雄叫びを上げながら一匹の脳天へ両手に持った鉄剣を振り下ろす。集団でまとまっていたゴブリンは突然の出来事に体を止める。その瞬間、ラーガの鉄剣がゴブリンを鮮やかに斬って捨てる。




「さ、流石だね」




 その光景をクルトは後ろからただ眺めているだけだった。


 クルトの誉め言葉に対して嬉しそうな表情を見せず、ラーガは森のさらに奥へと足を進める。




「あ、待ってよ」




 クルトは戦ってみたいという感情を押し殺し、ペットのようにラーガの背中を追いかけた。




 森の奥からはゴブリンの断末魔と先にゴブリン狩りを始めていた生徒の哄笑が絶え間なく聞こえていた。

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