続きの話 その2
私達を目の前にして可愛らしく微笑む隣国の第二王女プリキャス。
確かに人を惹きつける容姿を持っている。
しかしその前に座る私の妃、レイリラも負けてはいない。
カチャとカップを持ち上げる仕草。
見惚れてしまうな。
二人とも周りに気品が溢れ出す。
キラキラと輝いている。
横で控えている使用人達もうっとりと眺めている。
今はティータイム。
庭園で優雅にお茶…
って言う雰囲気ではなさそうだ。
「レイリラお姉様」
プリキャス王女が先に口を開いた。
…お姉様?!何だ?
「プリキャス王女様、何でしょうか」
受けて立つ…ってほどではないがレイの顔は若干戦闘モードになっている。
「突然こんなことをお話しすると驚いてしまわれると思いますが…」
「大丈夫ですのでおっしゃって下さい」
プリキャス王女はくすりと笑った。
「昨日も言いましたが、私は幼い時からあなたに憧れていました。」
?幼い時??はっ?
「お会いしたことはないわよね?」
「私はずっとあなたに会える日を心待ちにしておりました」
「へっ?」
あーあ。せっかく気をつけていたのにレイが間抜けな顔をした。
いつも見ていた玲斗の表情だ。
「おい!レイ…」
肘で彼女を突いた。
彼女はチラッと私を見たがすぐに表情を戻してプリキャス王女に視線を戻した。
「とは?どういうことでしょうか?」
「あなたは第二王子の婚約者でしたよね?本来なら第二王子が王太子のはず。そしてあのバカな第二王子がわけのわからない令嬢にふらついて、婚約破棄されて国外追放されるはずだったのよ。で、追放されるのは我が国だったはずなんです」
「「はい?」」
婚約破棄?!
国外追放?!
確かに本来レイリラは婚約破棄されて隣国に追放される。
身元引受人として何とかって言う公爵が名乗りを挙げてたな。
で、なぜ隣国の王女がそんなこと知っているんだ?
「お前は転生者なのか?」
「エイリ!」
鋭い目でプリキャス王女を見た。
隣でレイが慌てふためいている。
確かに確実でないことを言ってしまうと取り返しがつかない。
しかし…
「違うわよ」
さらりと答えられた。
「しかし…」
レイが王女と私を交互に見た。
「嫌だわ。私は違いわ。あら?あなたはそうなの?」
「「へっ?」」
俺としたことが焦ってしまった。
自分から転生者であることをバラしてしまったようだ。
「エイリ…」
心配そうに顔を覗き込むレイは可愛すぎる。
何やかんや言って俺のこと好きだろう。
あ、いやいや。いまはデレている場合ではない。
プリキャス王女はストーリーを知っている。
つまり彼女は転生者。
…そう考えるのが普通ではないか?
しかし違うと言う。
違うとなると…
「…別にいるのか?」
「ふふふ。やはりあなたは転生者なのね。ライダの言う通りね」
「ライダ?そいつが転生者なのか?」
「ふふふ。そうね。しかし残念だわ。レイリラお姉様が寂しい立場でいらっしゃるなら私達がさらって差し上げましたのに」
「はい?」
さらう…って?
私達…?
プリキャス王女は最上級の微笑みを返してきた。
「だって、ライダがレイリラお姉様が一推しだって小さい頃から何度も言うのです。レイリラ様は可愛くて美しい。」
「あら。美しいだなんて。ふふふ」
レイが頬を少し赤く染めた。
レイも褒められるとさすがに嬉しいんだ。
これから毎日言ってやろう。
「お姉様が素敵だって毎日聞かされたらいつの間にか…ふふっ。お会いして素敵すぎて更に好きになりました。」
…中身は前世男だなんて知ったらどうなるんだ?
夢は壊さない方が良さそうだ。
「馬鹿な王太子に婚約破棄された可哀想なお姉様をずっとお救いしたいと思ってしまいましたわ。しかしようやくお姉様にお会いできたと思ったら王太子は第一王子になっているし、お姉様が王太子妃になって溺愛されていまさしたから驚きました」
「で、溺愛…って」
赤くなった下を向くレイが更に可愛い。
そんなこと考えていたらプリキャス王女がすくりと立ち上がってレイの隣に座り手を取った。
「レイリラお姉様、あなたは幸せなのですか?」
目をうるうるさせて問いかけている。
「へっ?」
「無理矢理、第一王子に囲われているのではないですか?
弱味を握られているとか…」
「弱味…あ…ないことも無い…かな」
まあ、中身は前世男してましたって…かなりの衝撃的な弱味を握っているのは確かだ。
「私は…」
レイは私を見て微笑んだ。
「私は殿下をお慕いしております。この方の側にいたいと、この方の力になりたいと思っております。自らそう望んでおります。私の幸せは王太子殿下と共にあります」
「レイ…」
感動的な言葉を聞いてしまった。少しウルッときてしまう。
「プリキャス王女、私は幸せです。大丈夫です」
プリキャス王女は目を閉じて頷いた。
「だ、か、ら!やめろって!!」
「いやいや、今日は可愛がらせてあげたくて」
やはり昼間にあんなことを聞いてしまったら男として我慢できないだろう。
いつものように抵抗するレイの手を掴む。
まあ、抵抗するって言っても私達の間ではそろそろお決まりのパターンになっている。
レイも恥ずかしがっているだけ。慣れないだけなのだ。
「あれはだな、仕方なく!」
「仕方なく?じゃあレイは私のことを嫌いなの?」
「嫌いとかじゃなくて!あー!もうなんて言えばいいんだ!お前は親友で!」
「でも今は夫婦だ」
「そう!今は…俺は女で…。女の俺から見たらお前はすごくかっこよくて、非のうちどころがなくて…嫌いじゃなくて逆にすごく好き…で…あーっ!そんなこと…あっ、いや…」
「ようやく言ってくれたね。ほらほら可愛がってあげるから観念して」
風が窓から入ってきた。
隣で寒そうに肩を出すレイに布団をかける。
「エイリ…」
「起きてたのか?」
「ああ…」
「同じことを考えていたかな?」
「多分…」
ライダという転生者。
会って話してみたいなと思う一方でやはり会わないほうがいいだなんて考えていた。
隣でモゾモゾと布団に潜りながらくっ付いてくるレイを抱きしめた。
だってレイリラ推しなんだから会わせたくない。
ストーリーを知る転生者。
もしかして何か知っているかもしれない。
俺たちの秘密に気づくかもしれない。
レイリラ、玲斗を手に入れた喜びの後には不安にかられる。
「レイ、愛してる」
ふふふっと笑いながら顔を押し付けてきたレイを見ながら大丈夫だと自分に言い聞かせた。