第一王子に転生した俺の話
絶望感しかなかった。
俺の親友が交通事故で亡くなった。
喪服を着たまま川辺でぼっーと空を見上げて座っていた。
その親友、玲斗は俺のあこがれだった。
さっぱりした性格、周りに気を遣える、スポーツができる。
何事にも真剣に向いあう。俺の他愛もない心配事なんか笑いでばしてしまう。彼といると自分が少し好きになれた。
彼は引っ込み思案な俺のことを肯定してくれる。
少し目元にシワがよる。
食べる時は必ず舌を一回出す。
そんな彼の癖までも愛しいと感じていた。
男のくせに俺は玲斗を恋愛対象として見ていた。
しかし玲斗にバレてはいけない。
彼は俺に対してそんな気持ちはこれっぽっちも思っていない。
川に石を投げた。
石は水面に波紋を作り沈んだ。
こんなことなら自分の気持ちを言っておけばよかったなんて思いながら顔を埋めた。
にゃー
猫が隣を通り過ぎ、道路の方に歩いて行った。
ってトラックきてるじゃないか!
俺は慌てて立ち上がりトラックの前に走り出した。
あー玲斗の後を追ったとか思われるんかな?
どうせ二人とも死んでしまったんなら今度も同じ世界に生まれ変われるといいな。
そして今度こそ自分の気持ちを届けたい。
玲斗が俺の手を取ってくれないかな?
今の人生は玲斗が変えてくれた。
できれば今度は玲斗を助けてあげればいいな。
俺が玲斗を守る立場がいいな。
まあそんな欲望ばかりの夢物語、死ぬ間際に考えるなんて俺はバカだな。
って…玲斗だろ?!
目の前に濃い茶色の艶のあるストレートの髪を風に靡かせながら水色の瞳をこっちに向ける少女がいた。
あちら様も少し切れ長の瞳が大きく見開いている。
「…瑛莉なのか?」
「玲斗?」
金髪、紫の瞳の第一王子に転生していた俺は弟の婚約者を前に立ち尽くしていた。
「レイリラ=エイグランです。以後お見知りおきを」
そう華麗に礼をとる彼女の姿は清廉された公爵令嬢だった。
俺は男、彼は女に転生していた。
それは神様が俺の願いを受け入れてくれたように感じた。
彼女と話をしていくうちに玲斗の話し方、表情が幾度となくレイリラに重なっていく。
今度こそ手に入れたい!
どうする?
彼女は弟ブロイトの婚約者だ。
しかし彼女はその地位を嫌がっている。
それなら協力するしかないだろう。
たしかに玲斗を重ねて見てしまうが実際彼女の容姿は非の打ちどころがない。
見惚れてしまうくらい美しかった。
笑うと周りが眩むほど魅力される。
声は少し高い。その話し方は心地よい。
中身が玲斗であろうとなかろうと俺は多分この人に惹かれてしまうだろうと思う。
絶対に譲りたくない。
そんな感情が自分の中にあるのを感じる。
「何で俺が女で、お前は男なんだ?」
「神様のいたずらだよ」
そんな玲斗の疑問に答えたかったがごまかしておく。
だって俺が願ったんだ。
今度こそお前に気持ちを伝えたい。
できるならお前を守りたいと…。
「ったく…どうしろって言うんだ。突然目が覚めたら女だなんて…」
「仕方ないよ。今の君は女なんだ。それは変わらない事実だ。ちゃんと自覚さえしていれば大丈夫じゃないか?」
「んー。でも男と結婚しなきゃならないんだろ?ちょっと…いやかなり抵抗あるぞ」
「ほら、公爵令嬢はあぐらなんてかかないんだから辞めなよ」
「さすがに他の奴の前ではやらないよ。お前の前だと気が抜けるんだ」
「それでもダメだよ。君はレイリラ、公爵令嬢なんだ。どこで誰が見てるか分からない。気をつけろよ」
「ったく、面倒だな」
「でもブロイトと結婚するんだろ?」
「無理だって!」
「どうするの?」
「…協力して欲しいんだが…」
俺はにやりと笑った。
やはりそう言ってきた。
俺は困ったような顔をしながら言葉を返した。
結局俺たちのシナリオは上手いくらいに進んだ。
ヒロインは第二王子のルートに入った。
ご飯を食べるときにうるさいほど話をしていた妹に感謝するよ。
でもそれじゃあレイリラ嬢の父親の宰相への印象は弱い。
あの人は私情と仕事をきっちり分けれる人だ。
もっと決定的に第二王子派から手を引かすには…。
「できちゃえばよくない?お父様は順番とかすごく気になさる方なの。娘の婚約者が他の人に靡くならまだしも、既成事実できてしまえばお怒りになるはず」
レイリラ嬢には笑える。
割と宰相には厳しく育てられたのだろう。
宰相のことに関してはかなり丁寧な言葉を選ぶ。
で、第二王子もヒロインも思うように動いてくれた。
前もって父上には噂でどうも第二王子が男爵令嬢と通じて子供をつくってしまったようだと耳にいれておく。
数日後、隣国に外交に行くように言われて用意をしていた俺の元にすぐに父上のところに行くように言われた。
まあゲームならこの外交で隣国の女王に見染められて帰れなくなるんだが、間に合ってよかった。
って…途中で、ずらかる手筈もつけていたからあまり心配することはない。
で、案の定あの弟は男爵令嬢と結婚するといいだした。
父上も宰相もお怒りだ。
レイリラ嬢の言う通り、宰相的には先に子供を作ってしまったことが気に入らないらしい。
父上も短絡的な第二王子の行動に呆れている。
でも結婚式まであと1か月もない。
当然他国の王や貴族などに招待状も出してある。
街も結婚式お祝いムード一色だ。
第二王子とは言え王太子扱いされているからな。
それを他の女と通じて子供を作りましたので中止しますはないだろうな。
「父上、それは単にレイリラ嬢とセーシェを変えるだけでいいんじゃないですか?」
…バカ弟…。この結婚式の為にどんなに宰相が頑張っていたかしらないのか?
娘の為に宰相が寝ずに頑張っていたんだぞ!
それを…。
無理だろう。ほら、宰相の顔見てみろ!
怒りが頂点に達したぞ。
「父上、宰相。私の話を聞いていただけませんか?」
「何だ?」
「エイヴィリス殿下?どうされましたか?」
「私がレイリラ嬢と結婚させていただいてもいいでしょうか?」
「兄上!何を突然!!」
「いや、突然ではない。以前から私はレイリラ嬢に想いをよせておりました。しかし彼女はブロイトの婚約者。気持ちを押し込めてきました。」
「エイヴィリス殿下…」
「あんな可憐な女性ならブロイトが婚約破棄しても引き手数多なのはわかります。しかし私は彼女が欲しい。陛下、宰相、どうか私の願いを聞き入れていただけないでしょうか?」
二つ返事でOKを貰った。
ただしレイリラ嬢に話すのは当日。
逃げられては堪らないからね?
ふふふ…楽しみだ。
で、当日。目を丸くして驚き、頭が真っ白になったレイリラ嬢はきっとあまり自分がどうなっているかわからないだろう。
神の前で誓いの言葉を捧げる時も心ここにあらずだ。
まあ、それでいい。
反論しても、王命だ。無理だから。
ようやく夜を迎える時に事態が飲み込めたようだったが、時すでに遅しだ。
抵抗しても女の力では勝てない。
俺はカミングアウトをした。
しかし私はそのことについて彼に考える余地は与えなかった。
「レイ?どうした?」
「あ、エイリ様!いつ帰ってきたのですか?」
レイは窓際でうとうとしていたが私の姿を見てすぐに小走りで近づいてきた。
愛しい夫の帰りを待つ健気な妻だ。
「今日はどうだった?何かあったか?」
「何だか、毎日眠くて。体がだるいんです。」
「春になるからじゃないか?」
「窓際にいると暖かくて。ふふふ。体がだるいのは毎日やる事なく城にいるせいです」
「じゃあ明日は休みだから街にでも行こうか」
「行きたいところがたくさんあるんです」
「それはなりよりだ」
「外はまだ寒かったでしょう?」
私の脱いだコートを受け取り侍女に渡す。
「ああ、風が冷たかったな」
「暖かいお茶でもお持ちしますね」
「ありがとう」
小さく耳元で囁く。
「私の妃として板についてきたな」
「不本意でもこうなった以上やるしかないだろ」
ひきつった微笑みを返された。
しかし周りからはにこやかな微笑みを返す優しい妻に見えるのだろう。
「あ、君は下がっていいよ。お茶は妃に淹れてもらうよ。私は彼女の淹れた紅茶が1番好きなんだよ」
私は彼女を抱きしめた。
「本当に仲がよろしいんですね」
くすくす笑いながら侍女が部屋を後にした。
お読みいただきありがとうございます。
今まで割と長編ばかりだったので短い話に憧れていました。
短い中で話を纏めるのは難しいです。
まだまだ修行しなきゃいけないです。
なんやかんや新しい話が煮詰まるとすぐに横に逸れ始めてしまいます…