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アオハル中学生の正体は56歳アルバイト  作者: おさしみりょう
2/2

忘れていた家族の味

「…っ……うっうぅ…なんだか重い…」




――「すーーっ…すーーっ……」


「んえっ…!?!」


 私は目前に広がる光景に開いた口がふさがらなかった。

 額は冷や汗でびっしょりだ。

 どうしてこうなった…?

 動きようにも動けない。

 今何が起きているかって??




 あまりにも信じがたい光景だが…


 私の右腕を枕に、先ほど抱きついてきた女の子がスヤスヤと気持ちよさそうに眠っているのだ……


 どうしてこの子はこんなにもくっついてくるのだ…!

 そんなに私のことが気に入っているのか??


 ああ…腕が痺れてきたな…


「…んん……おにいちゃん…おきたぁ…?」


 おきたぁ…?じゃないぞ…!早く起きてくれ!腕がもう限界突破しそうだ!


 …それよりこの子。よく見ると可愛いな… 

 赤らんだ頬に優しそうなたれ目…やはり目には性格が表れるのだろうか。

 こんな表情を見ると抱きしめたくなる…


 って何を考えているんだ私は…!

 さすがにキモいぞ!キモい!キモジジイだ!この野郎!

 小学生の女の子に変な気を起こすなんて最低だ!キモジジイ!!

 さっきのお姉ちゃんにこの光景を見られたら死ぬほど罵倒されるのだろうな…

 「このクズ!キモジジイ!クズ!クズ!」

 なんて言っているあの顔、あの目が思い浮かぶ…

 あぁ、早く起きよう。


「おきたよう…腕が痺れてきちゃった…ハ、ハハハ…」

「わっ!ごめんねえ、痺れちゃったの…?」


 ツンツン…と痺れた右腕を優しくつついてくる。


「や、やめて!!ビリビリするから…!!」

「えへへへへ!!おもしろーい!!」

「いっ、いたっ…!やめてってば…!!」

「なんでー?おにいちゃん楽しそうだよ」

「いやっ全然楽しくなんか…」


 気づいたら私は自然と笑みがこぼれていた。


「梓お腹すいたー、お菓子食べてくるー」


 いや急すぎるだろっっ!

 小学生の気まぐれさは計り知れないな…恐ろしい。


 梓は部屋を飛び出していき、ドアは半開きになっている。

 その隙間から何やら冷たい視線が…!


「何騒いでんのよ、気持ち悪い」


 そこにはあの鋭い目つきでこちらを睨みつける楓の姿が…


「こ、怖っ…」


 ボソッと呟く。


 つい口に出してしまった…聞こえてないよな?


 恐る恐るドアノブへ手を伸ばし扉を閉めた。


 一安心。何が起こるかわからないから用心しておかなくては。

 そういえば…あのお母さん、私のことを見て「薫」と呼んでいたな。

 鏡に映った少年は薫…?

 あの感じだと薫はこの家族の一員という訳か…

 私は倒れたあの日から記憶がないのだがこの状況、薫に転生?転移?しているとしか考えようがない…

 最近流行りの転生が私の身に起こるなんて…


 だが不思議とこの状況を否定するような感情は湧いてこなかった。


 部屋が暗い。電気はー…っと、あったあった。


 男子中学生の制服が掛かっている。


 ん、この部屋は薫の部屋って感じだな。


 勉強机には教科書が山積みにされていた。

 その教科書の名前欄を見てみると…


「1-4 15番 菫ヶ丘(すみれがおか) かおる


 すみれがおか…?で会ってるよな…?

 何とも金持ちそうな名前だ。この部屋も結構広いし、金持ち説濃厚…?

 生徒手帳の中を見てみたところ薫は、大吉おおよし中学校に通う1年生。4組、出席番号15番。サッカー部に所属しているらしい。

 そういえば明日から新学期だって…2年生へ進級か…

 青春の「せ」の字も感じさせないほど退屈な学生生活を送ってきた私。そんな時期もあったなーと昔のことを思い出す。

 勉強ばっかで友達と遊んだことなんて2、3回ほどしかなかったような…


――「ピコリン♪」


 ん?スマホ??


 薫宛にメッセージが来たようだ。


――桐島きりしま 笑里えみり「やっほー薫♪新学期ワクワクだね!いつも通り朝8:30頃に皆で薫の家行くからちゃんと起きててね!寝坊ゼッタイダメ(笑)」


 友達?何だか文字だけでも騒がしいのが伝わってくる…

 しかも寝坊ゼッタイダメってなんだよ!薫は寝坊常習犯なのか?

 一応返信しておいたほうがいいよな。最近の子たちはすぐ返信しないと喧嘩になるって聞いたし…

 薫はこの子のことなんて呼んでいたんだ?

 そうだ、履歴を漁れば……


 普通に「笑里」か、名前呼びってことは相当仲が良いのだろうな。


「笑里わかったよー。」っと


 こんなもんでいいよな。


「ピコリン♪ピコリン♪ピコリン♪」


 返信はやっ!!こんなペースでやり取りしているのか…連続で3つ来たし…しんどい…


「かっ!薫から30分以内に返信が来るなんて…ありえない…」

「明日は雪だ!!どうしよう!!桜満開だけど!雪が降るよ!」

「しかも返信素っ気ないし!元気出してこう!!」

 

 30分って…薫返信しなさすぎるだろ…喧嘩にならないのか?

 まあ焦って返信することも無くなったし、薫。ありがとう。おっさんの気を遣ってくれて。

 とりあえず笑里は置いといて… 

 メッセージ履歴から普段どんな人とやり取りしているのか見てみよう。




 えっっっ…………




 少な!


 1週間以内のやり取りが笑里含めて3件のみ……

 

 そのうちの1つはグループ??グループ名は…


「スーパー5(ファイブ)


 スーパー5?なんだそれ、見てみよう。

 あ、笑里が入ってる…他は…


 「斉藤さいとう 拓也たくや」「笹島ささじま 凛太りんた、」「吉岡よしおか 睦美むつみ


 薫含めた5人のグループだった。


 トーク内容は雑談っぽいし、仲良しグループって感じかな?

 グループ名のダサさが凄く気になるが…考えたのは何となく笑里な気がする…センス無さすぎ……

 明日の朝はこの「スーパー5」が迎えに来てくれるってことだし、どう接したらいいか分からないっていう不安はあるけど新学期はなんとかなりそうな気がする!


 「昔はちゃんと青春できなかったんだ!おっさんの2回目の青春!これが本番ってことで!!エンジョイしてやるぞ!!!おー!!!!」


――バンバンバン


 扉を強く叩く音が鳴り響く。


――ガチャ


「1人で騒がしいわねお兄ちゃん、1日中寝て頭おかしくなったんじゃないの?ご飯出来たってママが呼んでるからこっち来なさい」


 相変わらず当たりが強いなぁ…口を開けば罵倒してきて…


「お、おう…!楓」


 ご飯ってもうそんな時間か、19時…

 起きたのは確か12時頃でそこからまた倒れて眠ってたんだよな…

 楓からしたら本当に1日中寝てるやつだ。

 親のご飯食べるのなんて何年振りだろうか、最近はほとんどコンビニ弁当をテレビと一緒に食べていたからなぁ。なんだか緊張してしまう。


「薫~~早くしないと父さんが全部食っちまうぞ~」

「パパダメだよ!お兄ちゃんのご飯も取っておいてあげてよ」

「え~どうしようかな~」

「お兄ちゃん泣いちゃうよ!」

「梓はお兄ちゃんのことが本当に大好きなんだな!」

「もっちろーん!」


お兄ちゃん愛が凄いな……


「い、今行く~」


 部屋を出て声のする方へ向かう。  

 そこには豪華な料理がズラーっと並べられており、それを囲む4人の姿が。そして1つ空いているイス。 

 これを全部あのお母さんが作ったのか…とても手の込んだ料理だ。


「梓、ママの唐揚げが1番好き!サラダも!たまごも!1番好き!おいしい!」

「そうだろ~、ママは昔から家事と料理は世界一なんだ、最強ママなんだよ」

「私はこれくらいしかできることがないから~ンフフ♪」

「ママはこれ以外ほんとなんもできないもんね、花すぐ枯らすし」

「ガハハハッ!!この前買った花は気合入れてたのに1週間で枯れてたっけな?」

「楓~そのことはもう忘れてよ~!パパも~」


 なんて仲の良い家族なんだ。こんなの私の入る隙が………


「それより明日から新学期ね、薫」

「ん、そ、そうだね…あははは…」

「準備はできたー?初日から忘れ物したらかっこ悪いからね」

「まあ平気かなー…??」

「ほんとー?去年は上履き忘れて筆箱も忘れて、目立ってたらしいじゃない」

「あんたってほんとアホね…」


 薫はそんなおっちょこちょいなアホなのか…そりゃあ心配されるだろうな。


「へ、平気だよ!もうバッグ入れてあるから!」

「あらそう~?悪目立ちしてたって笑里ちゃんから聞いたから…」

「えっ笑里?」


 お母さんと繋がっているなんて笑里は結構グイグイ来るタイプなんだろうな。


「そういえば明日、笑里達が朝迎えに来るって…」

「あらそうなの~新学期初日から仲いいわね、スーパー5だっけ??」


 そこまで知っているのか。


「そ、そうそうスーパー5、ダサいよね…」

「ほんとお兄ちゃんっぽいよね、ダサすぎ」

「え?」

「お兄ちゃんが考えたんでしょ、それ」

「薫が考えたって笑里ちゃんから聞いたわよ~!」

「お兄ちゃんかっこいー!リーダーみたい!!」


 か、か、薫かよ!!!!!!

 どうした薫!センスが無さすぎやしないか?大丈夫か?

 おっちょこちょいでセンス無いって…


「んえぇ!?そうだっけ??忘れた~…ハハ…」

「ていうか薫はやくたべなよ~ほんとにパパが全部食べちゃいそうよ」

「あ、うん。いただきます」


 梓イチオシの唐揚げを1つ頬張る。





――え??涙?





「お兄ちゃん泣いてる!パパが残してあげないからだよ!」

「はぁ?ってほんとに泣いてるし…」

「わ、悪かった薫…父さん食べすぎたな…」

「またつくってあげるから~!唐揚げは得意料理なんだから♪」






 私は溢れ出てくる涙を必死に拭いながら、ひたすら唐揚げを頬張った。






「…ごちそうさまでした!!!」






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