どうしてこうなったのか意味不明すぎるー後編―
「ただいまー」
玄関からさも当然のように入ってきたのは詩竜と同じ黒髪の少年だった。
推定年齢12歳といった所だろうか。
少年はランドセルサイズの緑のリュックサックを背負ったまま暖炉の前まで進み、そこで初めて七尾の存在に気付いた。
「え、誰……?」
「ええっと、少し前に詩竜さんに助けて貰った者、です」
「ふぅん」
少年は緑が好きなのだろうか、新緑のような綺麗で深い色合いをした緑のガウンを着ており、ズボンも同色の防寒具だった。
少年はしばらく七尾をじっと見つめたが、しばらくして落ち着いた様子で自己紹介をしてくれた。
「俺は雄介。アンタの言う詩竜さんの弟だよ」
「よ、よろしく! あたしは七尾よ」
「ん、よろしく」
あまりに自然に受け入れられたため反応が遅れた七尾。
雄介と会話したのは本当に簡単な自己紹介だったが、よく考えれば12歳(仮)の少年が自宅に見覚えのない人がいた時の反応ではないように思えて仕方がなかった。
雄介の態度には最初こそ驚いた様子はあったが、困惑したり、慌てたりといった表情は出てこなかった。
それどころか暖炉の前でリュックサックからおもむろにノートパソコンを取り出し、何やら作業を初めてしまった。
「雄介君って、凄く冷静よね。反応薄くない?」
「……これでも驚いた方だよ。家に知らない人がいるんだから」
「ごもっともだわ」
何かの入力作業なのか、雄介はパソコンの画面から目線をそらさず、言葉だけで返事。
だけど少し間を開けて、今度は七尾へ目線を向けて言葉を発してくれた。
「……でも、あの人が誰かを拾ってくるのは初めてじゃないからね。部屋の中に他人が居たって不思議には思わないよ」
何を思ったのかそこからはずっと目を見て会話を続けてくれた。
どうやら雄介は過去にも似たような状況に出くわしていたようで、お陰でこんなにすんなり受け入れて貰えたのだから感謝しなくてはならない。
「それはそうと、この吹雪の中どこへ行っていたの?」
「妙な気配がしたからここら一帯を巡回してたんだよ。もしかしたらアンタの事だったのかもね」
「どういう意味よ」
自己紹介で七尾と名乗ったにも関わらずアンタと呼ばれたことよりも、妙な気配という雄介の発言が気になった。
「アンタは俺達とは違う空気をまとっている。おおかた異世界から飛ばされたとか、そういうのだろ」
「え、雄介君ってエスパーなの⁉」
「そんなわけないだろう。ただの推測」
「この世界って異世界とかに抵抗とかないの? ていうかよくある事だったりするのかしら」
どう考えてもおかしいと七尾は頭を抱えた。
一般人が見知らぬ人を迎えたら迷子と思うのが定石だろうが、少なくとも雄介の常識は違ったようだ。
「言っただろ、初めてじゃないって」
雄介は困惑している七尾を様子を考慮して、順を追って説明してくれた。
雄介が言うには、不規則だが数年単位で異世界から転生してくる人がこの小屋の周辺に出現しているらしい。
人の形を持っているが、一般人とは違う雰囲気をまとっている。
そして、何かしらの能力を持っている、人ならざる存在であることが多いという。
「人ならざる存在って……あたしも何か能力とか持っているのかな」
「それは生活してればわかる」
「雄介君はそういうの気にしないタイプなんだね。気味悪がったりしないの?」
「人間の姿で意思疎通が出来てる時点で、人として生きている事に変わりはないだろ。多少例外はいるが、少なくともアンタを気味悪がる理由にはならない」
雄介ははっきりとそう言い放って、再びパソコンの画面に視線を落とす。
どうやら、どっかの誰かが異世界転生者を呼び出しているという事は理解できた七尾。
ついでに、敵意のない雄介がメチャクチャ良いヤツってことも分かった。
しばらくは沈黙が続き、静かな部屋でカタカタとキーボードを打つ音だけが響いていた。
本日の配信はここまでです。
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