読書部の日常 4
「あっ」
「な、な、な、な! き、北野南!」
土曜日の夕方、夕飯のおかずを求める主婦や買い食い目当ての学生達がひしめき合う、駅前商店街で、右手にスーパーの袋をぶら下げた北野南は、学校の先輩で風紀委員長の渡辺にバッタリ出会した。
昔の少女漫画に出てくる高飛車なお嬢様を絵に描いたような、縦ロールの髪型が特徴的な彼女は、校内で風紀の乱れを感じると、どこからともなく現れて、見た目そのままのお嬢様口調で注意してくるのだが、校外でこうして会ったのは初めてだった。
「な、な、何をしているのか、か、かしら?」
何故か動揺している渡辺に、右手を掲げながら答える。
「いやー、普通に母親に夕飯の買い物を頼まれたんですよぉー。ドリルさ————じゃなかった、渡辺さん」
「誰が、ドリルさんよ!」
「すみません、いつもの癖でー。えっへへへ」
「いつも、そう呼んでますの!」
最初はビックリして一歩引いていたが、ドリルと呼ばれた事により、いつもの調子を取り戻したようで、偉そうに腕を組みを始める。
「それにしても、あなた! 普段から休みはそんな淫な格好をしているの!」
「へっ、みだら?」
そう言われて、自分の格好を見てみる。
ノースリーブの白シャツに、水色のミニスカートを合わせた非常に爽やかなスタイルだと自分的には感じるが・・・・・・。
「スカートが短すぎるわ! それでは下着が見えてしまいますわよ!」
「いやん、エッチ」
「何を急にしおらしくなっているのよ!」
「えっへへへへ」
「褒めてませんわ!」
まぁ、あんまりにも短いのは南もどうかと思うが、これくらいは許容範囲だろう。
「大丈夫ですよぉ! 私のパンツは愛しい東輝先輩にしか絶対見せませんからぁー、心配しなくても!」
そう言って、自らのスカートの裾を持ちヒラヒラと動かす。
「な、何をい、言っているのよ! に、西山東輝にみ、見せるなんて! ハ、ハレンチな! 淑女として恥ずべき事ですわ!」
南の発言に顔を真っ赤にしている風紀委員長を見て、少し可愛いと感じてしまった。
「————しかし渡辺さんも、もう少し可愛らしい格好をすれば、私までとはいかないものの、結構モテそうなのに・・・・・・」
髪型は・・・・・・やや古臭いが。顔立ちは非常に整っているし、背も高くスタイルも出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。
これなら、同級生から言い寄られそうなものだが・・・・・・。
「白いTシャツに、下はジャージって・・・・・・花の女子高生の名が泣きますよぉ」
「い、いいじゃない! 楽なのよ!」
しかも、シャツはヨレヨレでジャージには小さな穴まで見える。
お嬢様口調と相まって、物凄くおかしな感じが倍増していた。
「渡辺さんなら、なんか、もっとー、白のワンピースとか赤いドレスとかが似合いそうなのにぃ」
「・・・・・・ド、ドレスなんて買えないわよ」
急に口を尖らせる風紀委員長を見て、南は前に東輝から聞いた〝ある噂〟を思い出した。
「姉ちゃん、姉ちゃん。お腹空いたぁ」
「俺も! 俺も!」
そんな中突然、渡辺の足に二人の幼稚園生くらいの男の子達が飛び付いた。
どちらもボーズ頭で、白のランニングに黄色の短パンを着ており、一目で双子だと分かった。
「こら、空! 海! 向こうのベンチで大人しく待ってなさいと言ったじゃない!」
二人の前にしゃがみ込み、人差し指を立てて注意する、その姿を見て南は素直な感想を述べた。
「息子さんですか?」
「な、な、何を言っているのよ! 私、まだ結婚していません!」
「いやー、一夜の過ちを————」
「そんなわけないでしょ!」
ムキーと、地団駄を踏む彼女を嗜めつつ、南は二人の男の子達の前にしゃがみ込む。
「そんで、その子達が噂の渡辺さん家の弟さんですかな?」
「う、噂?」
お嬢様とは口調だけ。
渡辺の家は貧乏で毎日、弟や妹の面倒を見ている————と、以前東輝から教えてもらっていたのだ。
今までは、学校内でしか会ってなかったので、本当かどうか分からなかったが、実際に普段着と弟君達を見て、確信を持てた。
「姉ちゃん、この人誰ぇ?」
「可愛い人だねぇー、姉ちゃんの友達?」
「あらぁ、その歳で美しいものを正しく認識出来ているなんて、いいじゃない! そう、私はあなた達のお姉さんと同じ学校の友達で北野南って言うの! よろしくね!」
「誰が友達よ! あ! こら、勝手に頭を撫でるのはやめなさい!」
ジョリジョリとする、坊主頭を堪能して南は立ち上がる。
「君達、お姉さんはいつも優しい?」
「な、何をいきなり聞いてるの!」
「うん! すっげぇー、優しい! たまに怒られるけど、それは俺達が悪い事をしたからだし、なぁ? 海?」
「そうだよ! 料理も上手だし! それに、ここ見て、破けたズボンも直ぐ直しちゃうんだから、お姉ちゃんは凄いよ!」
海君が指し示した、左太腿部分には可愛らしい熊のアップリケが付けられていた。
「ほぉ、ほぉー」
ニヤニヤしながら、南が風紀委員長に目を向けると彼女は耳まで真っ赤にして、そっぽを向いてしまう。
しかし、その両手はしっかりと弟達の手を握っていた。
————グゥゥゥゥウウウ。
そんな両サイドから、小さなお腹の音が一斉に響いてくる。
「————では、名残惜しいが、そろそろ行きますね。うちも夕飯が遅くなっちゃうので」
「ちょっ! 話はまだ————」
「弟君達、お腹空いているみたいですよぉ」
「うっ!」
普段の学校生活では、ただの小うるさいドリル女と思っていたが、何だかほんわかしてしまった。
強気で高飛車なお嬢様(見た目)が、実は弟思いのお姉さんなんて、中々素敵じゃないか。
「じゃあねー、空君! 海君! また会おう!」
「南お姉ちゃん! バイバイ!」
「まったねー!」
二人の可愛らしい男の子が精一杯手を横に振り続ける姿に、南は微笑んで歩き出した。
「ふん!」
対照的に何だか、渡辺はムスッとした表情で片手を腰に当てている。
そんな優しい姉に南は敬意を表して、今後はドリルと呼ぶのは、やめてあげようと思った・・・なるべく。




