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#8 疑惑

「で、ユエとはもう、普通に話せるようになったのか?」

 九竜は問いかけてきた。

 ローズの十日。あれから二ヶ月程経つ。

そして、二限目の演舞授業が終わって場所移動をする休み時間であった。いつもと同じ水飲み場で、九竜は枯れ木に体を預けている。

 九竜とは、気軽く話せる友人となった。それは多分馬が合うからだろう。

「うん。でも、過去の事とかは話さない。オレは話しても、ユエは話さないんだよな。その辺りかなり気になるんだけどさ」

 そう。あれから食堂に行って、九竜達と同じテーブルを囲み食事をした後、部屋に帰って、騎士論とか語り合った。そして、オレの過去も。

だけど、その過去に関する事に対して、ユエが何故か自分を貶すようなそんな態度を取っていたから、それ以上オレ自身の過去も話せない。だから、会話はごく普通に、世間話。

 ユエの過去に関しては、全く判らない。それは話そうとしないからだが。

「ユエって、女子の間で凄い人気みたいだよ。というか、男の間でも一目置いてる奴結構居るけど」

 確かに、目立つ存在だ。行動じゃ無い。持っている気だろう。

「オレも見たよ。ライラとか云うかなり美人の目立つ女子に告白されてるの。とにかくすげー人気。だけどあいつ、告白されても静かに断ってた。勿体ねぇ〜の。他にも多分憧れてる女子多いぜ」

 オレ自身、見かけで此処に来た時、ユエの事女かと間違うくらい綺麗だし、威厳もある。そんな奴を周りは放っておか無いだろうな。何て思っていた。それだけユエは凄く人を惹きつける。但し、話しは下手だが。

 今日の演舞演習で、ユエの剣さばき、流れを見たけれど、それは師範よりも素晴らしかった。見惚れると云うのはこう云う事なのかと思えるほどに……

 それに体型がスラリとしてるし背が高いのも手伝って、剣を構える時の姿勢一つ。それだけでも絵になるし、スッと弧を描く剣や、剣を振り抜くリズムも強弱も申し分が無い。

 それを見て、溜息が出る者達多数と云うのも頷ける。それだけ、ユエの剣舞は素晴らしい。

 そして、頭が良いのも事実。一限目の授業でのユエの発言からも窺えた。ただ、騎士となる者としてユエに無いのは、闘志だ。彼は優しすぎるのだろう。または、戸惑っているのかもしれない。心の何処かで制御をしているように見受けられる。

 何度もそれを感じた。力を出し切ってないように感じられる。何故制御をするのだろうか?まるで、傷つけるのを拒むかのように……

 確かに、負けたくは無いというのは感じられなくも無い。でも、それを上回る感情をそこに込めては居ない。オレはそれが気になった。力が無い訳ではあるまいに。

「なあ、ユエって……かなり前に何か隠し事してるって九竜、お前云ってたよな?何だと想う?」

 オレは、話をそっちに振った。もてる、もてないはこの際どうでも良い。それより、ユエ自身の事が気になるのである。

「ああ、そんなこと云ったっけ?」

 おいおい〜忘れてるよこの人は……オレは苦笑いしそうだったけど、

「ま、それは冗談だけど。ヤンの云い分だと、

過去に関係するんじゃないかな?調べることは出来るのかも知れないが、それもどうだろう?本人が語りたくないのだったら、勝手に調べるのもどうかと……」

 プライバシーを探ると云うのは避けるべきだと、九竜は云いたいらしい。

「そりゃそうだな。自分から話してくれるのを待つか……」

 そう云った時に、いつもの時間が来た。オレと九竜は、中央広場へと駆け込んだのである。


 それからと云うもの、この騎士養成所でのオレ達の毎日は授業授業と追われる。

またその合間の一時は楽しいものでもあり、友好を深めるものでもある。オレ達のこの騎士養成所での時間は日々こうして何事も無く過ぎ去っていった。


 そして、時は過ぎ、試験も終わり、後は卒業を待つばかりとなったレイズン十八日の事である。

 オレは、試験結果で、一つ赤点を取ってしまったおかげで、職員室と呼ばれる押し置き部屋に出頭を余儀なくされていた。

「ああ〜〜〜頭が痛い〜〜〜」

 オレは、その場所まで行き着くまでに、ブツブツ文句を云っていた。

その報告を受けた時、近くに居たユエは、当然の事としてオレに一瞥したが、初めみたいに、感情が無いようには感じられない。少なくとも、ご愁傷様とでも云いた気な表情だった。

 まあ、ユエは結局、この騎士養成所では最期まで実践以外はトップの座を誰にも渡さなかった。だから、今は有意義にこの時間を楽しんでいることだろう。九竜の相方のミハエルとは仲が良く、多分オレを送り出した後、九竜の部屋に遊びに行っている筈だ。

 と云う訳で、オレは渋々一番苦手であった筆記試験の答案用紙を持って、この場所に来たと云うわけだ。

 しかし、その職員室に辿り着いたのは良いのだが、中には誰も居ない。

「全くなんだよ!呼びつけておいてあの先生は!」

 オレはぶつくさ云いながら、職員室の中に入る。

 乱雑なこの部屋は、積み重ねられた本と、埃まみれの床。ゴミ箱も一杯だ。ここで仕事をしているのかと考えると、全く信じられない感覚だ。忙しくても、片付け位しろよな。   

 オレは鼻をつまんで、どうしようかと考えていると、この部屋のもう一つ向こうにある部屋から声が聞こえてくるのに気がつき、耳をすませながら、その扉の所まで行った。

始め、声を掛けるべきかどうか悩んだが、ベンジャミン・フリントという名前にドキッとして、そのまま耳をその扉に寄せる。オレの事か?それとも、ユエの事なのか?ユエの訳は無いだろう。だってあいつはトップでこの騎士養成所を卒業できるのだから。ならオレと云うのが妥当だ。だから、聞き耳を立てた。

「あの、ベンジャミン・フリントをこのまま卒業させて良いものかどうか。それをお訊きしているのです。彼は、曲がりなりにも、あの事件の当事者ですよ!」

 やはりオレの事か……

「そうですね。そのお気持ちは判ります。しかし、この騎士養成所に来るように取り計らった私の意向をあなたは否定されるのですか?あの時あなたは、同意した。それは卒業をさせてもいいと云う判断の下でしょう?」

 ん?何だ、この展開は……オレは志願をした訳で、取り計らって貰った訳では無い。どう云うことだ。もしかしてこの話は、オレではなく、ユエの?

「彼は、グリーズコートと、ラスキンハートの種族()違い(ー)の()です!しかも、親を焼き殺した。あの赤い髪の毛にオッドアイ。おぞましい……確かに私は許可しました。しかし、そのような者を、この国の重要な職に就かせる訳には行かないと云う事を云っているのですよ」

 ユエが……グリーズコートと、ラスキンハートの種族間の子供……しかも、親殺し?

 オレは耳を疑った。こんな事を聴いてしまって良かったのか?オレは動揺を隠し切れず、思わずドアに寄り掛かってしまった。

 すると、キチンと閉まりきってなかったそのボロイ木の扉は、ギシっという鈍い音と共に俺をその中に招き入れたのである。

「うわっ!」

 中には、先生と、師範代。そして、此処を統率する校長、教頭がテーブルを囲み議論をしていた。

「あ、忘れてました……ヤン!お前こっちに来なさい!」

 オレは、未だ胸がドキドキ云っている。先生にその襟首を掴まれそして、その部屋から摘み出された。

 先生は、

「今までの話を聴いていたのか?」

 と問いかけた。ここで嘘をつくのは簡単だろう。でも、オレは嘘の付けない性格だったから、

「済みません。聴こうと想ったわけでは無いのですが、オレの名前が出たから、思わず……」

 そう。嘘じゃ無い。

「はあ……誰にも云うんじゃ無いぞ。何処まで聴いていたのかは判らないが、滅多なことを云えない事だからな」

 真剣だった。それは、国家機密だと云わんばかりに。

「はい。判りました」

 気になる。だから訊いてはいけないと想いつつ、

「ユエは……卒業できないのですか?」

 オレは口を開いてしまっていた。

「仕方ない奴だな……普通、はい。と云ったら、訊かないぞ。そう云うことは……」

 先生はそう云って、溜息をつく。

「私は、卒業しても良いと思っている。が、しかし、反対する者も確かに居てね。こう云う事は、難しい問題なのだよ」

 種族に関係する事だから?それとも国の面子?それなら、ふざけるなと云いたい。

「ユエが、親を殺したってのは本当ですか……」

 その言葉は、先生の目を曇らせた。それもそうだ。殺したとなると、国と云うよりも、事件として扱われる。今頃牢獄だ。

「不可抗力。彼に殺す動機等なかったのだから。私はそう、校長からは聴かされている。確か、ユエが五歳の時だったそうだ。家が発火してね。その為焼け死んだ両親。その発火がユエの力だという説が濃いと云う訳だ」

 魔法。グリーズコートの連中は、魔法を使う。それが、ユエの遺伝子の中に有るグリーズコートの血で有るならば、有り得る話だ。

 だけど、僅か五歳でそんなことが起こるであろうか?この先生の云うとおり、不可抗力だ。オレはそう信じたい。

「で、どうやって、ユエは今まで生活していたのですか?」

 そう。五歳で家と両親を失ったならば、その後は。否、オレみたいに、親戚の下でと云う事も有り得る。でも、オレの場合、もっと大きくなってからだから、五歳のユエにそれはかなり酷だ。

「たった一人の祖母の家に預けられたと云うことだ。その祖母の口添えで、此処の校長が騎士に成る道を促していたらしい。そして、今回彼はここにやってきた」

 祖母。それはグリーズコートの?それともラスキンハートの?もう疑問ばかりである。

「さあ、もうこれ以上話すことは出来ない。判るな?もし知りたいのなら、本人に直接訊き給え」

 そう云って、職員室の一部を借り切るように、椅子を動かした。机の上にある沢山の埃まみれの本をも退かせて。

「今から、追試験だ。お前だけだぞ、こんな点を採ったのは!」

 机の上に、俺が持ってきた赤点答案用紙を取り上げバンっと置く先生。それをもう一度確認させてオレに新たなる問題用紙と答案を渡した。

 ウゲっ!そうだった。これがあるから此処に呼ばれたんだった……オレは渋々机に着く。

 しかし、気になることが沢山あり、追試験どころでは無い。だけどこれを乗り切らないと、オレの目的もパーになる。だから、なるべく頭を集中させた。そう、オレは絶対騎士に成るのだから……


「まあ、これなら何とか合格点だな」

 追試験を終え、疲れ切ったオレに、先生は少し渋い顔をしたが、合格点と云う言葉はオレを安心させた。と云うか、もうこれで勉強しなくても済むと云うのが嬉しい。

「もう、戻っても良いぞ。あと一つ。ヤン」

 先生は何かを伝えたがっているようだった。それをオレは、

「何ですか?」

 まだ何かオレの点数に不満が有るのかと、ぶっきら棒に問い返したが、伝えたかったのはそんなことではなかった。

「お前をユエと同室にしたのは校長だ。只それを伝えておきたかった。察しが着く、着かないはお前の頭で考えろ。私はそれなりにお前を評価している。卒業式で逢おう」

 そう云って、先生は隣の部屋へと足を運ぶ。隣の部屋。そこで、未だあの話の続きは行

われているのであろうか?オレは、気になった。だけど、さっき先生がオレに云った台詞(ことば)はオレにその経過を知れと云う事では無い。

 そう、先生は、ユエを知れ。そして、オレにユエの力になれ。そう云いたかったんだとオレは察したのであった。それが出来るのは、きっと世界広しと云えど、同室になった名前と誕生日が同じオレだけかも知れないのだから。

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