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#7 実践

「ヤンに、云っておいて頂けるかな」

 そう、私は仲が良いと判断した、九竜という者に躊躇いがちになりながらも、云ってしまった。

 初めはどうしようか?考えた。それは、自分が介入して大丈夫なものなのか?それが気掛かりであったからである。しかし、九竜は、一瞬驚いてはいるようでは有ったが、そう云うことか。と何かを納得しつつ、

「オーケー。伝えとくよ。あ、でも次回からは僕を通さずに、自分で云うんだぜ?」

 と肯定した。それは、私が忠告することであったのか?

 確かに、私がヤンの相方になる訳であり、こう云う事は当人同士の問題なのかも知れない。持ちつ持たれつ。それが、此処での有り方。だけど、未だその勇気は私には無い。それを納得したと云うのだろうか。あの九竜は。

 それに感謝しつつ、私は次の課外授業、実践場へと足を二人よりも先に向けた。

 

 実践場。そこは、敷地内の中央に位置する場所にある。足元は石畳ではなく、敷地外と同じ砂。それが足に纏わり付く。まるで、動きを封じ込めるかのように。

 そんな中、私達クラスメイトは、二人一組となり、動けるだけのスペースを持ち、剣を交える体勢を取らされた。

 勿論私の相手はヤンである。

 基本的にどうなれば負けか?それは剣で相手を切る寸前迄となるのだが、与えられてる剣は本物で、一つ間違えると、切りかねない。

 でもそれをキープできる者こそ、本当の剣術者であると師範代は云った。それもそうかも知れない。

 ヤンは、今か今かと、この授業を待っていたわけで、顔がイキイキしていた。

「はじめ!」

 師範代が、二人が向き合った状態で、剣を重ね合わせた所で、そう云い放つ。そして、両者は初めて、剣を弾いた。

 私は、ヤンの動向を見る。この足元に纏わり付く砂を全く気にせず、足を横にスライドさせている。まるで、この場所が、石畳でもあるかのように。それが、印象的だった。

 私は、一瞬喉を鳴らせた。負けると想った。何であろう?この威圧感は。あのヤンが凄く大きく見える。

私は、実践を苦手としているわけでは無い。だけど、このヤンの前では、負けると想った。

 そんなことを考えている一瞬を突き、ヤンが一気に前へと飛び込んできた。私は、その振り下ろされる剣を間一髪弾き返す。受け止めるにはその剣は重すぎた。私の身体では止められない。

 そして、何度も打ち込んでくるヤンの剣。それは、弾くだけで精一杯である。何処にこんな力があるのであろうか。私は、後ろへと後退をしながら、とにかく防ごうとした。だけどこのままでは、どうしようもない。私も前に出なくては。

 そう想って、左に身体を傾け飛び退く。そして、方向を少し変えた。

 それに反応するのが速いヤンは、剣を上から振り下ろすのを瞬時変えて、右から左へと振り払った。何て、瞬発力のある奴だろう。動体視力も並外れている。

 私は、追い込まれるだけ追い込まれた。全く攻め込む余地が無いのだから。

 そして、今度は右に身体をずらす。しかし、ヤンはそれをも見切る。どうすれば良いのだろうか?考えるだけ考えて、こうなったら、前に出るしかないという考えに及んだ。

ヤンは、剣を振る事に躍起になっている。それを逆手に取るしかない。だから……

 私は、剣を振り下ろすその瞬間を先取りし、それを掻い潜って、前に出る。すると、至近距離にヤンが見えた。私は持っている剣を胸元に突いた。これで決まった。と想った。

 しかし、ヤンはそれを間一髪後ろに飛びのく事で交わしたのである。何?私は前に出たその足を砂に着けると、足を取られ、前屈みになる体勢になった。それをヤンが見逃す訳が無い。

片足を突いた私の右肩に剣を振り下ろし、寸前で止めた。

 勝負は決まった。ヤンは、私の肩に手を乗せると、

「大丈夫か?」

 いつもの調子で問いかけた。私は、

「ああ……」

 と、その手を取り立ち上がる。その時回りで、どよめきが起こっている事に気がついた。

そのどよめきが何で有るのか。その時の私には理解が出来なかったのである。

 そして、この授業は終わりを告げた。


「さて、飯だ〜〜〜!」

 オレは、夕飯のベルがカランカランと鳴るのを楽しみに、部屋で待っていた。

 と云うのも、この部屋に帰って来てからというもの、ユエと会話らしい会話が出来なかったからである。

 本当は、謝らないといけないなと思っていた。自分勝手なことを今日はして来たのだから。でも、そう云う雰囲気にならない。ユエはただ黙々と、教科書を読んでいた。何だか話しかけるのに戸惑う。オレが実践で勝ってしまったというのも実は話しかけられない要因だったりして……

 トップでここに入り、未だ一回しか剣を交えていない訳だけど、仮にも負けた訳で。プライドの高い奴かどうかは判らないが、普段が普段なだけに話し掛けづらい。だけど、飯くらい楽しみたい物である。だから想いっきり独り言を云ってみた。

 すると、

「ちょっと話があるのだが……」

 と、今まで読んでいた教科書を置き、ユエから話しかけてきたのである。

 オレは、一瞬面食らった。どういう心境の変化なのであろうか。

「あ、ごめん。オレ今日勝手しすぎた!」

 ユエが先に何かを云う前に、オレは謝ってしまった。何だろ。怒られると想ったからか。

「あ、その……私が。謝るべきなのだと想うが?」

「へ?」

 オレは、ユエの口から零れ出た言葉にまたまた面食らった。ユエが謝る事は無いであろうに……

 そしてユエは視線を真っ直ぐオレに向けてこう云った。

「九竜さんに、私が言付けた事……大変申し訳ないと想う。直に私が云うべきだった」

 ユエは、それを今まで気にしていたのか?何だ……オレはフウっと息を吐き、そして、胸を撫で下ろした。

「そんなことか……オレ何も気にしてないよ。だって、お前云いづらかったんだろう?口下手そうだもんな。それ直した方が良いかと想うけど、そう簡単に出来ることでも無いものな?オレてっきり愛想つかされてるか、怒ってるのかと想ったぜ?」

 オレは、ニッと笑って見せた。

 それを見たユエは、大きく目を見開いて、それから視線を外した。

「そうか。今度からはそうする事にしよう」

 ボソッとそう云った。何だか立場が逆の気がする。オレはクククと笑いが込み上げてきた。そしてワハハハハと大声を上げて笑った。

 お腹が痛い。この笑いは、卑下してるものでは無い。そう、このユエと云う個性が何だか判った気がしたからだ。

「おい。飯食いに行こうぜ!と云うか、お前も笑え!」

 オレは、背の高いユエの肩を抱いて、食堂へと導く。未だオレは腹から笑っていた。

「何故、私が笑わなければならない?」

 ユエは、不思議そうにそう云った。

「可笑しいから笑うんだろう。お前感情表現下手!笑ったらかなりもてるぜ」

 そう、笑って欲しいものだ。きっと貴重だぜ。こいつの笑顔って。

見てみたい。見たい。 

 此処に来て、そう想う。只でさえ一目置かれているのだ。きっと人気者になる。そう云う友人を持てるのも良い事だ。

「さあ、さあ、あの埃まみれの食事食いに行こうぜ!」

 オレは、食堂までこいつと肩を並べて歩く。それを、食堂に行くまでに出会った者達は呆気に取られるかのように見ていた。

 へへへ。オレは、鼻を擦りながら食堂を目指す。こいつとこんな風に話が出来るオレ。羨ましいだろう?そんな気分だった。


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