#19 決着そしてエピローグ
「さて、還るか……闘ったのに、傷一つ残って無いのな?」
オレは、この状態を善しと取って良いのか判らなくて思わずぼやいた。
「良いのでしょう。もう結界も無く、獣神も居ない。魔法は使えないのだから……ラスキンハートに押し寄せるグリーズコートの連中は居なくなるでしょう」
アーイシャは、ホッとした様子だった。
もしかして、彼女にとって一番許せなかったのはそこだったのかも知れない。
魔法。
それが、オレ達の村を焼き尽くしたのだから。
だから、恐れていたのであろう。アーイシャが魔法を一番。
「さて、還ったら、如何するかな〜?吟遊詩人としてデビューして、この聖戦の唄でも謳ってアイーラを回るか〜んでもって、可愛い嫁さん貰って、ウハウハ〜」
エドは、もう既にこの後の事に頭が回っているらしい。全くタフな奴。
そして、その話をしながら、アイーラを見て回ろうとか想っているのだろう。にしても、可愛い嫁さんね……そうなることを祈ろう。
「儂は、もっと力つけんとな!あのグリーズコートの町みたいな家建てんと。凄くがっしりしてて、住み心地良さそうやったやろ?ああいう家作れる職人を最終的に目指さな!」
此処にも未来を見詰めている奴が居る。でもこちらの方が堅実だ。
グリーズコートを回って、教えを請うとか?それもまた一考ではなかろうか。オレはクスリと笑った。この双子、顔は似てても考える事は本当に違うもんだ。
「リケルは?」
オレは、ちょっと気になって問いかけてみる。
「ボクは、このアイーラを回って、薬草学を磨こうかなと。で、医者になるんだ。でも、それには歩き回る足が必要で……」
と、後ろをチラリと見る。
「ミネルバの事好きなんだろう?」
オレは、こっそり耳打ちした。
リケルは、ボッと顔に火が付いたかの様な勢いで真っ赤になっていた。素直な奴。
「そ〜んなもの、自分で何とかしなさいよ〜それより聴いて?あたしはね!ベンジャミンと結婚するのよ〜」
ミネルバ……勝手なことをベラベラと。
リケルの顔は青ざめため、オレはもう、やってられんと、ユエを従えて階段を駆け下りた。
「ちょっと!何抜け駆けしてるのよ!ユエ!あたしのモノなのよ!ベンジャミンは〜!」
おいおい。ベンジャミンって、ユエもベンジャミンなんだけど?オレは、ユエの手を取り、
「ユエもベンジャミンだって覚えてるのか〜ミネルバ!さて、関係ない者は急ぐぞ!」
何て云ってみる。
「ちょっと待ちなさいよ!ひど〜い」
後方で、ミネルバが怒鳴っている。そしてそれをリケルが落ち着かそうとしていた。
だけどオレは、ユエと二人で話をしたかった。そう、色々と訊きたい事があったから。
ヤンは、怒るだろうか?もし、私を切らなかったら、この世界が闇に包まれてしまう事態になってしまうかも知れなかったと云う事を云わずにいたら。
こんな成りで、今ヤンと向き合うのが怖い私は、手を解くことも出来ない。今のヤンにとって、私の位置づけはどうなってしまったのであろうか……
まさか、自分が女になってしまうとは想っても居なかった。そう。男だと自分も想っていた。だから、余計に怖い。
母も、昔は男の子だったのか?祖母も。
私の名前を女名にしたのも、もしかすると、そうなることを知っていたからかもしれない。 だけど、ヤンはれっきとしたラスキンハートの男性だ。
私は、如何話せば良いのか?悩んでしまう。
きっと、ヤンは知りたがるだろう。あの時切れと云ったことに関しての詳細を。
私は助かりたかったからああ云った訳では無い。そうしないと、この世界が終わるからだった。それを判って貰えるであろうか?
それがとてつもなく怖かったのである。
「此処までくれば、もう大丈夫だろう?さて、訊きたいんだけど、お前は、オレが切ると想っていたか?」
あれ?なんか変だぞ。話の趣旨が違ってる気がするのは私の考えすぎなのだろうか……
「いや、切れないとオレ想ったんだ。だけど、あの時切らないといけないような気がした。勝手に体が動いてしまったんだ。本能みたいなものかな?あのな、オレは切ろうなんて想ってなかったんだけど、お前がそう云うし……」
って、オレ何を言い訳してるんだろう?
ユエ、スッゴク不思議そうな顔してるし、やっぱ、不味いかな、この話題……
「あの時、切らなかったら世界が闇と化した。
だから、ヤンが切ったのは、私ではなく、闇の世界だ。気にするな」
って、私はこんな受け答えで良いのか?凄く悩む所だ。それは、私の都合も考えての話じゃないではないか。
「あのさ……」
「あのな……」
って二人同時に言葉を発している。それで、何だかもうどうでも良い気分になった。
「もう、この話は良いか?助かったんだし」
「……そうだな?」
そう、終わりよければ全て善し。なのかも知れない。そして、この世の中は全ての人にとって、良い世界になれば良いのだ。
始まりは、まさにこれからでもある。
罪を憎んでも人は憎めない。
そして、行動の先に、いつも新たなる世界を築ければ良い。
それは、簡単なように想えるけど、実はかなり難しい事。
ただ、云える事は、目標をもって取り組む事だ。
「そこのベンジャミン!待ちなさい〜〜〜〜!」
ミネルバが笛を吹いて呼び寄せたのか、翼竜に乗ってこちらに向ってきた。その竜にリケルも乗っている。で、その後ろから、エドとアーイシャ、ルシードが翼竜に乗ってオレ達に向って叫んだ。
「このまま歩いて還るんか?このアイーラに今は結界なんぞないんやで〜!」
「ほら、ヤンとユエの翼竜も居るから、乗りなさいよ!全く、あたしから逃げ遂せるなんて想ってるのかしら?失礼しちゃう!」
あれ?なんか変だぞ。ミネルバ、今何て云った?
「ヤン!待ってなさいよ!絶対、ユエより美人になって見せるから!後で後悔しても知らないから!」
あ、そうか……渾名で呼んでいるから奇妙だったんだ。
「ですよ。ヤン!」
と云って、リケルが、有り得ない事だが、ウィンクして見せた。何があった?
オレは目を白黒させる。
「何だか、不思議な事になっているようだな」
私も、今のこの状況をヤンと同じく不思議に想って見ていたが、
「ほら、乗ろうぜ、ユエ!還ったら、先ず祝杯と行こうじゃないか」
何はともあれ、この闘いは終わったんだ。それが今この様な明るさをこのアイーラに齎しているのだ。オレは、翼竜の背に乗り、ユエの腕を掴んで、導く。
「この先どうなるか判らんが、まあ、これからも宜しくな?」
ヤンは笑顔で云った。それに関しては、私も同意見。
「こちらこそ宜しくな。ヤン」
そう、これから先のことなど判らない。だけど、多分オレ達はいつまでも仲間だ。
この命が尽きるその時まで。
この後、アイーラ全土は繁栄を繰り返していく事となる。太古のような生活。それは廃れていった。
グリーズコート。ラスキンハートと云う国の堺も消え、人々は魔法という存在を忘れ去る。 だけど、融合して文明は、どんどんと、時代を超えるたびに栄えた。
それは、もっと先の出来事だが、オレ達のなした事が、後の時代へと引き継がれていった。
吟遊詩人のエド。
建築家のルシード。
医者のリケルとその嫁ミネルバ。
ルシードの建てた学校で、このアイーラの歴史を教えるアーイシャ。
そして、色々な問題も有ったが、ごく幸せな家庭を持ったベンジャミン・フリント夫妻。
この歴史はこのアイーラと共にいつまでも皆の希望の始まりとして残ったのである。
歴史は、未来は、ほんの僅かな幸せを求める為に存在するのだから……
好き勝手書いた小説でした。
ユエが女性になったりして、最期ちょっと不満な方いらしたら申し訳ありませんm(--)m
でも、まあそうゆうことで・・・^^;
個人的に、友情って愛にも似てると想います。
それが言いたかったのかも??ちょっと自分でも難しいなと想いました。ムムム・・・
少しでも何か心に残っていただければ幸いです。