#13 ルカンダ
南の町、ルカンダに着いたのは、夕方であった。この町は、温暖であるがため、冬でも防寒具など必要は無い。私達は、直ぐ様服を着替える為に近くの宿屋を探す。外の戸口に掛けられた、宿屋の木彫り看板を目印に。
しかし宿屋と云っても、大通りに沿って一つ二つ在るかどうか?そんな町だが。
その内の一つ、気軽に泊まれそうな小さな宿屋に入る。
「とにかくこの宿屋で服を着替えて今日は休もう。明日から本格的に移動を開始する」
ヤンは、リーダーとして統率するために、そう云った。
南の町は、北のヤンの村とは違い夜が長い。飛び立つ前、そう、つい先ほどまで朝だっ
た。しかしもう夕方になっている。これが時差と云うものであり、北と南の違いであると私達は感じずには居られなかった。
もしこれが、自らの足で歩いたと云うのであれば、そこまで感じないだろう。それ程に、翼竜は役に立った。今は、ミネルバの指示があるまで、他者に迷惑が掛からないことを念頭に、翼竜達の好きなように遊ばせているらしい。
ここ、南の町、ルカンダは広い敷地を持っている訳ではなかったりする。それなりに、町として活動できる、赤レンガを敷いた道。そして、まばらではあるが、その煉瓦道に沿って、木造建築の家が建っている。
私はその風景を懐かしいとも想うが、それよりも、緊張感が走る。この道をずっと下って、そこを右に。そこからひたすら歩けば、私が住んでいた家があった場所がある。
しかし、その家はもう無い。そう、私が焼いてしまった。両親と共に……
「何を考えてるんだ。ユエ……」
ヤンが声を掛けてきた。きっと私が、皆が宿屋に入ろうとしているのに、町並みを佇んでボーっと見ていたからだろう。
「少し此処を想い出そうと想った。明日から必要だろう。考えてみれば、十年近く離れていた。町並みも変わっている」
私は、今の自分の意識を他の皆に触れさせるのは間違いだと改めなければならない。その事に、少なからずヤンは気付いた。だから、早く休もうとヤンに云う。そう、それがこれからの私にとっての試練となっていく。
何処まで自分が耐えられるだろう?それは判らないが、もっと毅然と振舞おう。それが、私の、これからの有り方なのだから。
「宿主、申し訳ないが、部屋を明日までの間借り切る。人数分借りられるか?」
オレは、戸板で出来た簡素なカウンターの所まで進むと、宿主である真っ白な髭がトレードマークのお爺さんに問いかけた。
「人数はと……七人のう」
そう、お爺さんは首を縦に振りながら数えると云った。
「ええ。そうです。宿代は如何ほどに?」
お爺さんは、オレの顔を一度眺めてから、腰に設えている剣を見た。
「騎士殿ですか。なら安心してお貸し出来ますわい。そうですな。お一人一泊、五グース。ですなぁ」
皆、手持ちの財布を取り出すと、数える。一ヶ月泊まっても充分余りある。皆頭を縦に振った。それにて、此処に決めたのである。
「朝食にスープは如何ですかな?」
「サービスかい?」
オレはここぞとばかりに朗らかに笑って問いかける。
「そうですわい」
「勿論、頂くよ」
オレ達は、教えてもらった部屋、二階へと階段を上っていく。ギシギシ揺れる階段だ。でも、休むだけなら充分だろう。明日から本番だ。それに見合う宿だと想った。
「じゃあ、個々で自由に休め。明日は朝日と共に出発する予定だ。リケル。薬草を積むのは、明日の早朝でも今日でも構わない。自分のペースに合う様にしておけよ」
そう、此処に来て一番の問題。薬草博士の個人的趣味として、動き回りたい所であろう。他の誰も、動くことは殆ど無いだろうが、リケルにはその可能性が高い。
「うん。その辺りは考えて行動させてもらうよ。えと、ユエさん。一緒に着いて来て貰えないかな?この辺りに、シータと云う薬草があると想うんだ。一緒に探して貰いたいなと想って」
リケルは、この辺りの地理に詳しいユエを名指しした。オレは当然の事なのに、一瞬動揺しそうになる。しかし、ユエは、何時かこう云う事になるのではと覚悟していたらしい。スッとオレの前に出て、
「良いですよ。リケルさん。お供します」
何事も無く頷いていた。表情も柔らかい。リケルだからこそ出来る業なのか?それとも、ユエ自身、振り切ってしまったのだろうか。否、もう覚悟は決めてるんだ。後は、ユエに任せよう。
そう、これはユエの問題なのだ。オレがどうこう云える立場なのでは無い。
「それじゃ、着替えたら部屋の前に居るから、声を掛けて下さいね。ユエさん」
リケルはにっこりと笑うと、好奇心旺盛にベコベコと音のする扉を開き閉じて中に入って行った。オレ達も、自分に宛がわれた部屋に入り寛ぐ。そう、今日は何事も起こらないそんな気持ちを胸に抱えて。
「シータ……そのような薬草がこの辺りにあるのだろうか。私は初耳だが」
私は、薬草にそこまでは詳しくない。少しだけ、祖母意教えてもらった事は有るが。だけどそれはもう想いでの一つとなり、私は只、道案内だけは出来るのみである。
「温暖な土地。ルカンダ地方って書かれてるんだ。で、程よく湿気がある、草原のある丘
らしい」
と、本を持って歩く辺り、リケルは本当に薬草楽を極めてしまいたいらしい。
この辺りで丘がある場所。それは、ルカンダとグリーズコートの境にあるタズナと云う丘しか想い浮ばない。そこに向うには、暫く歩く。
「なら、タズナだろう。で、どういう効用があるのだ?」
薬草ならば、効用が無ければ意味が無い。
「これを燃やした時に、その煙で相手に幻覚を見せると云う代物なんだ。戦闘するには、こう云うのも必要かなと想ってね」
なるほど。薬草と云うより、紫乱みたいなものか。薬草も奥が深い。只治療するためだけではなく、攻撃に用いる為に使用する。それもまた有りなのか。
「この道を真っ直ぐ行ったところにその丘がある。行って見よう」
私は、促した。リケルは本を眺めながら、「はい」と云った。本当に好きなのだな。調べることが。私は少しだけ微笑ましく感じられた。
タズナの丘に登ると、少し風を感じた。吹き抜ける風が、肌に心地よい。過去はどうあれ、懐かしい匂いがする。ルカンダの、乾いた空気と町の匂い。
此処に来るまでの間、見知った者と遭遇することはなかった。それで良かったと安心したは良いが、あの頃と変わらず人々の溢れんばかりの生活力を感じた。それが私にとって救いのように感じられた。
さて、後は、シータを探すのみ。湿気が多い所となると、影が出来る場所だろう。そう想い、木々が立ち並んでいる辺りを探す。
「リケルさん。有りましたか?」
私は、本にある絵を元にそれらしき物をいくらか取り上げて、持ち寄った。
「う〜んと、似てますが、違いますね。木の実の様な匂いとなっていますから」
リケルはその草の匂いを嗅ぎ分けているみたいだ。
それだけで判るものだろうか。私も嗅ぎ分けようとやってみたが、全く判らない。こういうのは専門家に任せるべきだろう。
「ボクはこちらを探してみます。ユエさんは、そちらを」
もう、太陽も地平線へと隠れようとしている頃である。そう、時間はかなり掛かった。でも、収穫は有った。リケルはそれを手柄であるかのように、大事に腰にかけているバックへと仕舞った。私もほっとした。そして、夜になる前に、この場から立ち去ったのであった。
歩いて戻る道程。既に夜となっていた。星々が夜空に埋め尽くされ煌いていた。辺
りは静かだ。まるで、人が居ないかのように。
この地方は、夜は静かである。休む時間が早いから。それは今でも変わっていなかった。
この世界を壊したくは無い。だけど、グリーズコートの全てを否定も出来ない。
それは、私の祖母との想い出の場所。
それを、この夕方、薬草を摘みながら、そんな想い出も有ったなと想いだしたのも手伝った。
如何すれば、このアイーラは一つになるであろう?否、そんな事は不可能なのか?
私はそんな事を密かに考えてしまった。
そして、無事宿屋に戻ると私とリケルは、「おやすみ」
を云って各自の部屋に戻って身体を休めた。明日からの死闘となるであろう戦の事を考えながら……
朝は、清々しい晴天に見舞われた。それは、これからの復讐劇に相応しいとは云えないが、気分的には、晴れやかである。そう、勝利へと導く天候だとオレは感じた。
オレ達は食事を済ませると、宿主に「ありがとう」と云い荷物を抱えて目的の道を探す。
「ユエ。此処からどう行けば良い?結界を抜けられるのは、お前の祖母の家に繋がる」
オレは、こっそりと問いかけた。
「勿論そのつもりだ。その為の、道を行くつもりだからな」
ユエはもう既に云わなくても判っていた。それもそうだ。この話を受けた時に、判っ
ているはず。オレも要らない事を云ってしまったものだと、苦笑いした。しかし、ユエは気にはしていないらしい。
「此処から先は、どう行けば良いんや?」
そこで、すかさず問い掛けたのはルシードだった。
「それは私が案内しよう。この辺りで、一度グリーズコートの領地に迷い入ったことが有る。その抜け道を行こう」
ユエは、皆の前に立つと、こちらだと、先導する為にスタスタ歩き始めた。
それは、太陽を背に北へと進む。赤レンガの大通りを真っ直ぐ下り、そして左に折れた。
その先には、翠の小高い山が遠くに見える。左右に草原が広がっていた。
その草原にポツリポツリとまばらな位置に、家や小屋らしき物が見えた。タナーシャの村とは打って変わって、此処には生活感が存在していた。
そんな時、突如後ろから子供の声が聴こえた。
「待って〜お兄ちゃん!」
女の子の声だった。直後、オレの足に何かがぶつかった。
「いたっ!」
小さな男の子が、オレの後ろで転んでいた。
「オイ、大丈夫か?」
オレは、その男の子の手を取り、抱きかかえた。皆は、その様子を見守っていた。
「うん。ごめん。お兄ちゃん」
少年は、ソバカスのある鼻の頭を指で擦っていた。オレは、その様子に微笑ましい物を感じた。
「家は何処だ?」
オレはその子を肩車して問い掛ける。
「直そこ。この道を真っ直ぐ行って……ほら、あの煙突が見えるところ!」
少年は指をさした。オレは、
「じゃあ、お兄ちゃん達と一緒に行こう。このまま肩車しててやる」
「わ〜い」
少年は喜んで、腕をブンブン振り回した。その様子に、後ろから走ってきた少女が、
「お兄ちゃん良いな〜!ミーナも〜!」
少女は、それを羨ましいと、バタバタ足を地面に慣らして訴えていた。
「じゃあ、僕が、ミーナちゃんを肩車してあげよう」
エドが、にっこり笑って、少女の背の高さまでしゃがみこむと、手を握った。
「エド、お前……ロリコンに走るなよ?」
オレは、思わず大笑いして云ってやった。まるで、これから復讐の闘いに出る光景では無いことに思わず笑ってしまったのも手伝った。
それだけ今が幸福すぎるのだ。
「ヤン!莫迦云うんじゃないよ!何で僕が……人助けだろ?全く〜」
膨れるエドに、皆もクスクスと笑う。
そして、オレ達は、その家まで歩いて行ったのである。
しかし、それは逆にユエにとっての過去を先に暴く元凶になってしまったことを、オレは悔いる事になるのだった。
「おかあさ〜ん!」
家の近くまで来た時、少年と少女は手を振り、自分は此処に居るよと主張した。その先には、庭というのであろうか、少し草原を開拓し広場を作っている。その場所に木で支えたロープに洗濯物を干している女性が居た。きっと母親なのであろう。
オレ達は、その女性の元に子供達を肩車したまま共に足を運んだ。
「あらら、ピーターと、ミーナ。お兄ちゃん達にお世話になっていたの?駄目じゃ無い。この子達ったら……本当に済みませんね〜」
その女性は、申し訳ありません。とコクリと頭を下げた。
「いいえ。通りがかりでしたから、お気になさらずに」
すると、
「お茶でも中でいかがです?取っておきのをお出しいたしますわ?」
にこやかに応対してくれた。すると、奥から男性の声がこちらに近づいてきたのである。
「お前、一体誰と話をしてるんだ……」
その男性は、オレ達を一眺めした。そして、ある一点でその視線を止めた。その顔が見る見る蒼白になる。
「あら、あなた。ピーターとミーナをこの方達が送って下さったの。お茶でもお出ししようかと……」
母親は、その男に問い掛けていた時、それを遮るように、
「お前……フリントの息子か……」
オレは、フリントという名にエッと自分の事を云われているのかと驚いたが、そんな筈などない。そして、頭を切り替える。それは、ユンなのだと。
不味い……知り合いなのか!
「未だ生きていたのか……この、災いをもたらすラスキンハートの敵、悪魔め!」
男性は突如、近くに積み重ねてある薪を投げつけて来たのである。
「ちょっと何をするのよ!信じらんない!」
それが、ユエの前に控えていたミネルバに当たりそうになった為、その薪を腰に装着している鞭で素早くクルクルッと受け止めた。
「お前達も、グリーズコートの回し者か!」
男は、目をギラギラとさせて、怒りを露にしていた。それはもう、何かを納得させる言葉を掛けられたものではなかった。
「あなた、何をするの!この人達は……」
母親は訳が判らないと、その男の腕にしがみつく。すると、
「そこに居る、赤頭!混血だか何だか知らんが、もう二度とルカンダには戻らないと想っていたのに……去れ!今、すぐ!」
血が上り、手がつけられる状態では無いまま、ユエを指差した。いや、指をささなくとも、此処に居る者に、赤い頭をしているのは、ユエしかいないのだ。だから、皆がユエに注目したのは云うまでも無い。
オレはシマッタと想った。が、もうこうなってしまったらどうしようもない。オレは、
「ちょっと、それは無いんじゃないか?ユエが、此処に戻ってきてはいけないなんてオレは想わない。それに、一方的な感情をぶつけるな。これから、オレ達は、そのグリーズコートに闘いを挑みに行くのだからな。それが終わってから、ユエに文句なり何なり云ってもらおうか!」
云いたい事を云ってスッキリした。
でも、そのオレの前に、ユエがわざわざ出てきた。オレは、出てくるなとそう云う気持ちでこう云い切ったのに、この莫迦が……
「済みません。私が、あの時したことの償いを、これからしてきます。そして、もう此処には戻りません。ですから、此処はお納めください……」
ユエは、地に頭をつけてそう云った。土下座。これを目の当たりにしたオレは、二の句を告げなかった。
此処にいる者達は、その様子に、沈黙する。否、何も知らない子供達の笑い声が響くのみだった。
「あなた。大人気ないわ……およしなさい。そして……」
その女性は、ユエの頭を撫でて、
「頭をお上げ下さいな。私は、此処に来てそう時間が経ってる訳では無く、あなたを見知ってるわけでも無い。でも、今のあなたに、何か出来るとは想えないわ。私達は何も見なかった。そう、此処に有るのは、ラスキンハートに吹く風。その風に乗せられた木の葉が通り過ぎただけ。さあ、お行きなさい」
そう云って、その母親は、子供達を抱えて、笑った。
オレは少しだけ救われた気がした。しかし、男の方は、納得いってない様子だった。
でも、そのままその女性の言葉で家の中へと引き返していく。玄関の扉が閉じる。その後、立ち尽くすオレ達の間に、一陣の風が通り過ぎて行った。
そんなことが有り、何が起きたのか判らない状態のユエとオレ以外の仲間で一番に声を発したのは、アーイシャだった。
「こんな所で、立ち止まるつもりでしょうか?わたくしは、先を急ぎたいのですが」
それは、今のオレの代弁者。そう、助けの言葉だった。
「ちょっ……でも、ユエって混血って今云ってたじゃ無い〜!そんな奴、この仲間の中にいて良いの?あたしは冗談じゃ無いわ!」
ミネルバは、只でさえユエを気に入っていない。その上、グリーズコートの血を受け継いでいるという事が重なり、より、拒絶を表していた。憎い者を見る目。それが、ミネルバの碧い瞳に揺らいでいた。
「ミネルバ。混血で有って、純血では無いだけだ。半分はラスキンハートの血を継いでいる。あなたの頭で判るかしら?それは、わたくし達にとって有利なの。頭から、グリーズコートばかりを見るのは短絡的過ぎる」
アーイシャは、まるで凍った人形の様な目でミネルバを直視し、戦力を他に使えと云いたげにしていた。
この言葉は、策士のものだ。オレにはこんな云い方は出来ないし、考えない。
「儂は、かまへんで。アーイシャの云う通りやと想うし、ユエはんが何をしたんかなんて興味ない。ただ、グリーズコートを叩きたいだけや」
ルシードは、あっさりしていた。只グリーズコートを叩くために来ているのだと。
その双子の片割れであるエドは、
「そうそう。一つ、気になるのは、ユエさんが、グリーズコートに寝返らないと約束できるかどうかだね?その辺りどうなの」
エドは、それを突きつけた。きつい言葉だと想う。ユエにとってグリーズコートと云う所。それは祖母との想い出も有るはず。二つの故郷。ユエはどう応えるのであろうか?
「グリーズコートに私が還るところなどない。今は、ラスキンハートで、騎士になった。居場所は私がこれから作る。それは、このアイーラを一つにできる世界。そう想っている」
オレは、ユエがそんな世界を考えているなどとは想っていなかった。そして、この決断をいつしたのか?それさえも知らされていなかった。呆然とするしかない。
「一つの世界……そんな事、出来るんだろうか。出来たら、それに越したことは無いよ。只単に、グリーズコートへの復讐を考えてたボク達に可能性が有れば良いけど……」
リケルは躊躇いがちに云った。今、オレ達は闘いに行くという気持ち。それだけで動いている。そう、その先の事など考えてなどいなかった。
「それは、わたくし達の闘い方次第。ヤン。あなたはどう想っていらっしゃる?」
ここで、オレに振ってきた。リーダーはオレだ。そして、この決断は、ユエにではなく、このオレが全責任を負わなければならない。
大変な事になった。そこでオレは考える。どうすれば、どう云えば、これを収められるであろうか?
ユエを考える。国を考える。そして、自分を考える。そして出した答えは、
「これは……この戦いは、復讐ではなく、聖戦だ!」
そう、国の事なんてどうでも良い。そう想ってきた。だけど、この世界を、周りの考えを変えるのは、オレ達のような境遇を持った者達でなければならないのではなかろうか。
それは、周りから見たら、ちっぽけな願いや、想いであるかもしれない。だけど、今のユエに対するあの男の態度を見て、逆にそうしなければ世界は変えられないと判った。ならば、敢えてやってやろうじゃないか。
「これは、聖戦。リーダー。それで良いのですね?」
アーイシャは、静かに云った。それを望んでいるかの如く。
もしかして、アーイシャは気付いていたのかも知れない。こうなる事を。その為には、復讐と云う形を取るのは間違っていた。だから敢えて静かに見守っていた。負けたよ。
「ミネルバ。多数決を取りましょうか?」
唯一反対意見を出していたミネルバに問い掛ける。しかし、返って来る言葉は判っていたのだろう。
「多数決を採る必要なんて無いわよ!あたしが求めるのは、リーダーである、ベンジャミンの言葉が全てですもん。だけど、ユエがあたし達に仇名す様だったら、その時は、あたし許さないから!」
そう云って、ユエを見た。ユエは、一段と落ち着いた表情で、それを受け止めて頷く。
「さ〜て、話は纏まったわ。んじゃ、道先案内人さん?この続き宜しゅうな〜」
ユエの肩をポンと叩いて、ルシードは、この先を進んでいく。その後に、エドが駆けて行く。オレ達の道に大きな壁が立ちはだかろうと、それは受けて立ち、ぶち壊さねばならない。もう引き返せないのだから。
「ユエ。行くぞ」
「ああ」
皆が進んでいくその後をオレ達は駆け出した。
そして、二人肩を並べて歩く。そう、此処からの道は、この仲間達との約束で紡がれた。
オレは、少し見上げるようにユエを見た。ユエは、微笑んでいるように見えた。それが凄く印象的で、オレは少しだけ救われた気分になった。