#11 結集
「ヘックシュン!はぁ〜」
オレは、毛布を羽織って、暖炉に火をくべた。
昨夜、防寒服を身に纏い、掻き集めた布団に包まって石煉瓦の壁にもたれて丸まって寝たのだけど、どうやら風邪を引いてしまったらしい。
「ズズズ……」
う〜鼻が出る。これなら、ユエと一緒に寝た方が良かったかな。なんて想ってみたが、その図を考えると、危ない構図だと想い、頭を振った。これが、二、三歳だったら可笑しくも無いんだけどな。そう。もう、十五だ。ミネルバにバレたらそれこそ、大問題だ。
「不潔よ!」
なんて云われそうだ。
さて、ユエを起こさなければ。そう想った時、オレの部屋の扉がギシット軋み、ユエが起きてきた。
「おはよう」
「おはよう……あの、さっきクシャミしてたみたいだが、風邪を引いたんじゃないのか?」
耳ざといな。しっかり聴かれている。
「いや、誰かが噂でもしてるんじゃないかな。ミネルバ辺りがさ」
オレはユエに気を遣われると大変だからそう云った。ミネルバだと、有り得るだろうしね。
「それなら良いんだが……今日は、これからどうするんだ?」
そうだな。やる事は、日々の鍛錬くらいだけど、外は雪が降り積もっている。とにかく、その雪をどうにかしないといけない。
「まず、飯を食ってから、雪掻きだな」
オレは提案した。すると、ユエは判ったと云って、炊事場へと足を運ぶ。
「適当に作ったので良いのか?なら私が作るが」
と云っても、此処を出た後、蓄えた食材は限られている。このタナーシャの北の村は、食べることに神経質である。南方で育ったユエには考えられないであろうが……
「保存してる食材が無いから、オレやるよ」
オレは、急いで炊事場へと向う。
そこに居るユエは、色んな引き出しを開いて考え込んでいた。やはり、判らないのだろう。
「ほらほら、客人はあっちで寛いでろ。オレが作るから」
ユエは、少し申し訳ないという表情をして、
「足手纏いの様だから、そうさせて貰おう」
オレに頭を下げて暖炉のある部屋へと戻っていった。
オレは、謝らなくても良いのにとも想ったが、それがユエらしいとも想い、クスッと笑った。少しだけユエが作る料理と云うのも食べてみたいなんて考えてる自分。それが可笑しかったのも有ったり。
それから、食事を摂ったオレ達は、食後の運動も兼ねて、雪掻きをした。それは、身体を温めるには丁度良い運動だった。降り積もった雪は、全て、家の端に掻き寄せて、道さえも作る。
それから、ユエを相手に剣術の練習。
実践では負けたことが無いオレは、師範代が居ない今でも手加減無しに剣を打ち込む。
ユエは、剣の鋭さは変わらないが、やはり体力に欠けている。そこを突くのは容易い。
そして、朝錬を終えたオレ達は家に戻ろうとした所、ミネルバのはしゃぎ声で再び外に目をやった。
「ベンジャミン。還ってたんだね」
そう問いかけたのは、リケルであった。
「おお!リケル〜どうだ?調子は」
銀髪の髪を後ろで一括りにしている、目がパッチリ開いた可愛らしいリケルは、重そうな書物を携えて、ミネルバの横で手を振った。
「はい。好調ですよ。ミネルバがベンジャミン、還ってきてるって云って誘いに来たんだ。
ベンジャミンも、騎士の称号採れたみたいだね?」
そう、騎士の称号を採った採らないは、卒業式で貰う、胸に着ける気神を模した紋章で判る。オレはそれを見せて、
「勿論さ!これ見ろよ!」
鼻高々。オレはそれを誇りにしている。
「薬草学の方はどうだ。此処に居るって事は、博士号貰えたんだろう」
リケルは、ほころんだ笑顔で、
「ええ。採れましたよ」
「リケルってば、それからって云うもの、ずっと家で薬草楽の本もう一度お浚いしてたんだって!真面目すぎるのよ。詰んない男」
ミネルバの相変わらずの毒舌にオレは苦笑いした。ミネルバと同じ年のリケルであるが、落ち着いてるなといつも感心する。
そして、立ち話もなんだからと、二人を部屋に案内した。
「そうなんですね。騎士養成所で、お知り合いになられたのですね、ユエさんと。そして、ベンジャミンと同じ名前であるから、ヤンと呼べば良いんですね?」
とは、リケルの言葉。リケルの包容のある言葉は、ミネルバと違いホッとさせてくれる。
ユエにはこういう人間の方が、仲良く出来そうだ。リケルって、あの騎士養成所での九竜の相方のミハエルと似ているような気がする。オレは余り言葉を交わしていないから、詳しくは判らないけれども。
「そうそう、さっきアーイシャにも声掛けておいたから、その内来ると想うよ!アーイシャって、ホントだらしが無いんだから〜」
って、ミネルバの口から聴くと、とんでもない人間のように取れる。でも、オレに云わせると、アーイシャの方がどれだけまともか知れない。確かに、変わった思考の持ち主ではあるが……
そんな話をしていると、戸口をドンドンと、叩く音が聴こえた。
「ベンジャミン。わたくしです」
どうやら、アーイシャがやって来たみたいだ。オレは、戸口に行ってその扉を開きアーイシャを招き入れた。
「こんにちは。ベンジャミン」
アーイシャは、落ち着き払ってそう云った。前下がりの金髪オカッパ頭のこの冷めた所がアーイシャの持ち味なのだが、オレ的にはやりづらい。
「こんにちは、アーイシャ。先に此処にきてる奴等だけで、話をしている。キミも、席について寛げよ」
オレは、取り敢えずの所を云った。
「そう。ではわたくしも……ベンジャミン。知らない方がいらしてますわよ?」
ミネルバは、ユエの事を話していないのか。オレはまた少しやりづらいなと想ったが、
「騎士養成所で、知り合ったオレ達の新しい仲間だよ。名前はオレと同じだから、ユエと
渾名で呼んでいる。宜しくしてくれ」
その言葉に、ユエが気を遣って、
「ユエと申します。宜しくお願いします」
と、礼儀正しく頭を下げた。
「ユエさん。ですね……こちらこそ宜しくお願いいたします」
そう云うと、スタスタとユエの横の席に坐った。
オレの席だったのに、アーイシャは気にせず坐って既に落ち着いている。オレは何だか、ユエを取られたかのような気がしてムッとしたが、考えてみれば、取られたなんて想うのが変なのだと打ち消し、仕方なくミネルバの隣の空いた席に坐った。
「アーイシャは、弓使い。弓を引くことに凄く長けてるんだ。狙いは外さない。腕前は凄いぜ。それに、指揮系統も彼女が仕切る。とにかく、頭が切れるんだ。こいつ。年上だから落ち着いても居るし」
「そうか。皆さん素晴らしいものを持ってるんですね」
ユエは、それぞれのオレの仲間の事を把握しているみたいだ。
そう、リケルは医療、アーイシャは指揮官。
オレ達の間では、補助的役割を担っている。
「後は、ルシードと、エドか。あいつら、未だ還ってないのか?」
オレは、ちょっと気になった。もしかすると、オレが一番最後になるかもと想っていたからだ。
「は〜い。エドと、ルシードには家の扉に貼紙しておきました〜!還ってきたら直ベンジャミンの家に来るように!ってね?」
ミネルバは、褒めて褒めて。って云ってのける。まあ、そうしてくれたのは有り難いが、それを主張されると何だかな〜である。
「ミネルバは本当に、気が利くね」
リケルは、そう云うミネルバが可愛いとでも云いたげににこやかに笑った。リケルは本当にミネルバに甘い。いや、ミネルバに係わらず甘いのだが、特にそう感じる。
「時々、煩いけれども」
アーイシャは、シラッと嫌味を云った。主張は良いから、実を出せと云ってるかのようだ。全くアーイシャらしい。
そんな時、また再び玄関の扉を叩く音がした。もしかして、還ってきたのかな。エドかルシードが。
オレは跳ねる様に、玄関へと急ぐ。そしてその扉を開いた。真っ白な景色の中、エドとルシードが揃って顔を並べていたのである。
「よ!ベンジャミン」
「ただいまや。ベンジャミン」
オレンジ頭の癖のある髪の二人は、にっこり笑って何も変わった風もなくオレの前に居る。
「おかえり。遅かったんだな二人とも。そうそう、こんな所で立ち話は辛いだろ?中に入れよ。ミネルバと、リケル、アーイシャも居るぞ」
オレは、吹雪き始めそうな空模様を見て外に居るエドとルシードの背中を押し、入れよと促した。
そして、全員がこのオレの家に揃った訳である。
「これで全員揃ったな!」
そう云って、ヤンは、私の方に視線を動かした。
この者達が仲間。そしてこれから、エドと云う者と、ルシードという者の紹介をしてくれるのだろう。
「こっちのオレンジ頭が、エド。で、こっちのオレンジ頭が、ルシード」
そう紹介してくれたのは有り難いが、実はその二人、瓜二つ。どうやら双子らしい。私は思わず見比べた。
「見分けはつかないか。でも性格が全く違うから、すぐ判るよ。後、言葉遣いくらいだろうな?」
と、二人を私の目の前の席に坐らせた。
「こいつ、ユエって云うんだ。本当の名前は、オレと同じベンジャミン・フリントってんだけど、紛らわしいから、ユエって渾名で。これからオレの事はヤンって統一して呼んでくれ。こいつとは、騎士養成所で気が合ってね。で、仲間に誘った。物静かな奴だけど、腕前は、オレと肩を並べる位凄いぞ?」
また、大げさな事を。私はそれでも何とか笑って二人に頭を軽く下げ、挨拶をした。
「宜しくお願いします」
すると、確かエドと云った者が、
「よっ!こちらこそ宜しく。この雑なベンジャ……じゃなくヤンにそう云わしめる腕前っての早く見たいよ。僕は、エドワード。でも、エドで良いからね。武器は槍を使うので、中距離戦向きなんだ。後は、吟遊詩人なんて者でもあったり。この竪琴で、曲を編んで、攻撃力を上げることが出来るんだ」
なんて、自慢気に、竪琴を机の上に置いた。私は初めて目にする竪琴という物をマジマジと見た。細身の木であしらわれている型に、何やら文字が刻まれている。これはルーン?そして、それに細い糸を張っている物だった。
「テンポによって、攻撃力だけでなく、守備力も上るんだったよな?」
ヤンは、それを不思議そうに問う。きっと、余り把握していないのであろう。
「その辺りは抜かりなく、だよ。色々勉強してきたからね。但し、魔力。魔法の類に対して効力が有るかは微妙だけど?」
そう、グリーズコートは魔法を使う種族。ラスキンハートもそれを研究しているらしいとは祖母に聴いたことは有るが、それを表立って公表はしていない。ならば、この曲を編むと云う行為で攻守の力を上げると云うのは、魔力と云う物の一つなのかも知れないが、それは云わずにおいた。
「で、ルシードは?」
ヤンは、今度は、もう一人の方に問いかけた。
「儂か?そんなん訊かんでもわかっとろ?この儂が試験に落ちるわけない。勿論、トップで卒業してきたわ」
かなり、テンポの良い口調でそう云った。何であろう?この気さくさ。と云うのか、開放感。ヤンを上回る。それに、双子と云うのに、明るい所は似てはいるが、ルシードと云う者は、力強さを感じさせる。エドはそれより少し神経が柔らかいと云う感じがする。見た目は一緒でも、全くの別人だ。
「訊くのは野暮だったと云う訳か。悪い、悪い。ルシードは、武道家。拳を使うのと、短剣を遣うのが得意だ。器用でもあるんだよ」
ヤンは、参ったといった表情で、ルシードの頭を軽くこついた。
「いって〜べ……ヤンお前叩くなや。ああ、名前変えられると、ややこいな〜」
ルシードは、ぶつくさ云ったが、
「あ、でもユエさんが悪いんやあらへんで、そう云う意味にとらんでや?」
と、まだ逢ったばかりで判らない私に気を遣ってくれた。ヤンの仲間は皆気が良い奴ばかりなのかも知れない。
「そうそう、ちゃんと謝っておけよ。実は誕生日まで一緒と来る。縁が有り過ぎたんだよな。ユエ?」
そう云って目配せする。ヤンも気を遣ってくれているみたいだ。私の生い立ちに関して全く触れようとはさせてない。それは有り難いことである。しかし、
「でもさ、何かユエって、ラスキンハートの匂いってしないんだよね。これで男だっていうしさ。あたし、赤い髪で、こんなルビーのような赤い瞳と灰色のオッドアイの人間って見たこと無いよ」
ズバリ、ミネルバは云ってのけた。それを私は言い訳できる訳もなくて……
「あら、赤い髪の種族も居ましてよ。ミネルバ。あなたが知らないだけですわ。それにオッドアイも」
私の隣に座っている、今迄一言も喋らなかったアーイシャがまるで対抗するかのように
云い放った。
もしかして、このミネルバとアーイシャは仲が悪いのであろうか?
「あら、そう。居るのね。知らなかったわ」
ミネルバは、肩肘をテーブルに突いたままフンッと鼻を鳴らした。
「まあまあ、ミネルバ。ボクも、見かけたこと無いから、初めは驚いたけど、アーイシャがそう云っているんだし、ね?」
と、フォローする。もしかして、リケルは、ミネルバの事を?なんて事を考えて私は要らぬ詮索をしてしまったと反省した。
だけどミネルバの言葉は確かに波紋を広げるだろう。
「ヤン。仲間なんだろ?それは間違いないんだろ?」
エドは、う〜ん。と首を傾げて問いかけた。
「勿論だ。そうでなくてどうするよ……」
ヤンは、この不穏な空気をどうにかしようと、話を変える。
「さて諸君。これからの事に関しての相談だ。これだけの人数で、どう、グリーズコートを攻略するかだ。それに関して、指揮を執るアーイシャ、どう出る?」
ここで、真剣な話をするのは、私の生い立ちを知らせないためだろう。
此処に集っているのは、少なからずもグリーズコートへの反逆を企てる者達。それぞれの異なった想いを心に抱いているからであるからこそだろう。そうでないと、こんな少人数で、このアイーラの半分。中央部を攻めようなんて考えたりしない。
「そうですわね。まず、グリーズコートは、このアイーラの中央部にあります。ならば、
周りを固める事をまず、しないといけません。しかしそれをこの人数で出来る訳が無いのです。そこで、考えたのは、今までの事件を洗う事。わたくしは、それを元に、未だ荒らされていない地方を調べました」
と、オレンジ色の前開き服の懐に忍ばせていたのであろうか、そっと取り出し、テーブルにそれを広げた。それは、アイーラの地図であった。
「この×を付けている所が、過去にグリーズコートが攻めてきた場所になります。これを調べるのは、西の貯蔵図書館であり、わたくしが出向していた宰相訓練所での調べによります」
それを私達は覗き込んだ。それは、かなり事細かく調べていた。小さな事件。皆が知らないような事件までそれは詳細にその地図上に×が刻み込まれている。
「そして、ここ。此処は何故か、攻め込んではいないようです。そこから進入する事をお勧めします」
と地図に指を滑らせて、アーイシャは云った。
「此処は……」
私は思わず呟いてしまった。それもそのはず、私の生まれ故郷。そして、五歳まで育った場所。罪を背負った場所。南の町、ルカンダであるのだから。
オレは、思わずユエを見た。そして、蒼白な顔をしたユエにどう声を掛けようかと一瞬躊躇う。ルカンダは、ユエの故郷であり、辛い場所だ。そこから進入するなんて……
他に無いのか?オレはその隙間を探す。しかし、何処にも存在してはいないのだ。
「南の町なんやな。全く逆やん。此処からやとかなり回り道やな。グリーズコートを取り巻く結界は厄介やし」
ルシードは、あ〜あと、背伸びをした。
「良いんじゃない?その辺りの事は、ミネルバが何とかしてくれそうだし」
と、エドはミネルバを見た。猛獣使いであるミネルバには、空を飛ぶための翼竜を集めさせようと云う魂胆みたいだった。
「それは大丈夫。あたしに任せなさいな。翼龍の扱いは楽だから。ね、ベンジャミン?」
ミネルバは、乗り気のようだが、オレ的には……やはりユエが気になる。オレはもう一度ユエを見た。しかしユエは、
「私も、賛同します。此処は私の育った場所。庭のような所です。案内も出来ますゆえ」
そう、云い切ってしまった。
それで良いのかお前は……ルカンダに戻ったら、ユエを見知っている者も居るであろうに。
オレは思わず胸を締め付けられてしまった。その覚悟が、ユエ、お前にあるのか?と。
「へ〜ぇ。ユエはんは、ルカンダ育ちなんや。
それは、都合がええ。道案内が居ると、心強いがな」
ルシードは、ユエの経緯など知らないものだから、気軽に賛成って挙手していた。そんな時、ミネルバがオレの顔色を窺った。そして、口を開く。何を云う気だ?
「そうね〜何か役に立ちそうだし、あたしも賛成ね。どう想う?賛成の人挙手!」
勝手に仕切り始めた。オレの顔色をどう取ったのか?それは大体判る。ユエに絡んでいる何か。それを善しとするかどうかだ。是が非でもユエを追い込む算段らしい。この時ほど、ミネルバを身勝手な奴と想わない時は無かった。
「ベンジャミン?あなたはどうなのよ?」
賛成の挙手がこの部屋の天井に五本伸びている。と云う事は、オレ以外の皆は賛成と云う事になる訳だ。
勿論、ユエは自ら云い出したことなので、挙手をする立場では無い。なのに、此処でオレが反対すると、それは、或る意味ユエに対しての信頼を裏切ることになる。それを出来る訳がない。
「ああ……」
オレは、今気が付いたとでもいうかのごとく、軽く手を上げた。そして、この話は、いつから旅立つのか?に移る。
旅に必要な物。それが揃わないと旅は始まらない。しかし、卒業したばかりのオレ達に武器と云う物は備わっている。後は、それをどう扱うかだ。
「オレは、剣をもう少し厚く大きな物に変えたい。騎士養成所であつらって貰った物では物足りないからな」
少し時間を作ろう。その間に、ユエと話がしたい。そう想って話を持ち込んだ。
「そうですわね。わたくしも、弓の強化と、調整をしておきたいですわ」
都合よく、アーイシャも賛同してくれた。「そうですね。ボクも、もう少し薬草に関して知りたい事があります。特に、南のルカンダで、どう云った物が取れるのか?詳しく知りたいものですから」
良いぞリケル!オレは、これで何とかなると想った。他の皆ももう少し何とかしたいと想っているらしい。色々と語り始めた。
オレは、ユエをもう一度見た。そこに居るユエは、感情を押さえ込んでいるが如く、静かな眼差しで、そんな皆を見ている。
やりきれなさがオレの中に渦を巻いた。オレは、ユエをこの闘いに招いたのは間違っていたのかも知れないと、たった今後悔している。ただ傍に……と思っていただけなのに。
そして、最終的には、明後日ここを離れることで話は収まった。
それはミネルバが、翼竜をこのタナーシャに集めるまでの時間と重なる。
「では、これにて、作戦会議を終える。皆、
それまでに全てを整えくれ。後は、ただ行動を起こすのみだ」
そう締め括った。
その後皆は、それぞれこのオレの家から去っていく。但しミネルバは、
「ご苦労さんね。まあ、もう少し時間くらい上げるわよ。その、不思議な生き物に知恵を授けるくらい許してあ・げ・る」
等と意味ありげに云ってよこした。それを、アーイシャは、
「あなたも、ずいぶん不思議な生き物ですけど?さて、お暇しますわ。ヤン。当日……」
ユエを一目確認して頭を下げ、オレに目配せをしてから、ミネルバの腕を取って出て行った