お前が欲しい
「好きなの。あの人が好きなの」
お前はポロポロと泣いていた。
透明な玉が落ちていく。それはとても綺麗だった。
「どうしたらいい?」
そんな事ーー
「俺が知るか」
「どうしよう、私、夢みたい」
「その夢が叶ったんだろ」
身分が違う。立場が違う。
それでもお前は諦めなかった。努力した。綺麗になった。
そして、見初められた。
「うん、私とっても幸せよ」
赤く熟れた頬を1つの雫が滑り落ちていった。
「あっそ」
その雫に触れたいと、思った。
「どうしよう、私、どうしたらいい?」
ぼろぼろと零れる涙はお前の目を赤く染めていく。
「あの人に、好きな人が出来たって、身分があって美しい人。だから、私はもういらないって」
止まらないそれを拭えば、熱い何かが身を焼いた。
「まだ、あの男が好きか」
「···ええ、好きよ。ずっと前から好きなんだもの」
躊躇いのない応え。その一途な思いを綺麗だと思った。
「なら、諦めるな」
残る涙ごと手を握りしめた。
「えっと、私ね、捨てられたみたいなの」
ぎこちない笑顔でお前は笑う。
「手切れ金だって言われたけど、ドレスなんか置く場所も着て行く先もないから置いてきちゃった」
赤い頬がお前の悲しみの跡を示している。
「あ、でもアクセサリーは持ってきたのよ。ほら、宝石って高く売れるし、これなら私でも持てるでしょう?」
カバン一つ身一つで放り出されて、どうして笑っていられるんだ。
「それで良かったのか」
「···ええ、すぎた夢、だったのよ。私には重すぎたし遠すぎた」
それだけの事だとお前は笑う。
無性に、お前の涙が見たくなった。
「良かったな。あの男がクズで」
それだけで、お前の顔が歪む。
「そんな事言わないで!あの人は私を愛してくれていた!」
お前の声はまるで悲鳴のようで。
「私が、私に身分がないのがいけなかったのよ!私がただの女だったからっ、あの人に何もあげられなかったからっ」
その頬は、何の赤?
「私がっ」
その、零れ落ちそうな滴を、黙って舐めとった。
「な、なにっ···」
「女に価値を求めるなんてクズだろ」
憎らしい程に辛い味。
「俺がお前を笑わせて、綺麗にさせて、幸せにさせればいい。俺がお前の価値を作ればいい」
あの男がお前を泣かせた。努力させた。綺麗にした。幸せにした。そして、不幸にした。
「お前は泣いてばっかりだ」
お前が泣くのはあの男のことだけだった。
「お前は、悲しくても嬉しくても泣くんだろ」
その雫にお前の愛が詰まっているというのなら。
「俺の為だけに泣けよ」
涙ごとお前が欲しい。
強欲な幼馴染はお好きですか?(質問に意味は無い)
短いのを書こうとすると、とてつもなく短くなるんですよね···程々を書こうとするとすごく長くなるし···難しいです(ぼそっ