突撃訪問、白蛇さん
俺は昔から、不思議なモノが見えていた。
モノノケ、とでもいうのが正しいのだろうか
白くふわふわとした意思を持つ毛玉や、
全身が白い人型の小さな生き物。
とにかく、白いナニカが沢山見えていた。
そして、そんなものが見え始めたのは確かあの日からだ。
・
・
・
「はあ・・・」
僕は公園で一人、ため息を吐く。
別に、今のこの生活に退屈している訳では…
無いとは言い切れないが、今僕が思うのは
『刺激が足りない』
小学二年生にしてもうすでにこんなことを思っている。
我ながら大人びたものである。
「何か面白いこと、ないかなー」
そんなことをつぶやく。
僕は公園中を見渡しながらまた、
はあ、とため息を吐く。
そんな簡単に面白いことがある筈も無いのだ。
当たり前である。
僕はもう帰ろうとベンチから降りる。
「ん?」
ふと気付いた。
茂みの中から、白色の蛇がこっちをジーと見ているのだ。
この地域では昔から白い蛇は『神の使い』として崇められている。
僕は興味がもりもり湧いてきた。
僕は歩いて近付いて行く。
すると白い蛇は茂みの奥に行ってしまった。
僕も慌てて茂みの奥に進む。
白い蛇はにょろにょろと階段を登っている最中だった。
こんなところに階段なんてあっただろうか、
そんな疑問などもう湧いてもこなかった。
階段を登りきると神社があった。
なんというか、廃れた神社。
そのときに僕は正気に戻った。
怖い。
そんなことを思わせる不気味さがあった。
鳥肌が知らぬ間に立っているような気もする。
「か、帰ろう」
僕は行動を決めて後ろに振り返る。
「あ、あれ?」
無い。
無くなっている。
そこにはさっき自分が登ってきたはずの階段は無くなり木が生い茂っていた。
「何で・・・――――!?」
ふと、視線を感じた。
勢いよく振り返るが誰も居ない、
それがまた僕の恐怖を煽った。
僕はもしかしたら、あの白い蛇に誘き入れられたのかもしれない。
「ううっ」
突如僕の体を寒さが襲った。
今はまだ夏だ、恐怖によるモノなのかもしれない。
少し怖いが暖かい場所を探そう。
そう決意して僕は足を踏み出した。
「・・・んん」
僕は気付くと公園のベンチで横になっていた。
「え・・・」
僕は目をこする。
そこで僕の意識は覚醒した。
バッ、と公園のベンチの時計を見る。
約二時間ぐらい時計が進んでいる。
「ゆ、め?」
僕の記憶は一歩踏み出したときから抜け落ちている。
その空白の時間に何があったのかは、
分からないし、
誰も知らない。
もう、帰ろう。
・
・
・
これが俺の言う『あの日』。
「あの、どちら様で?」
「・・・?忘れちゃったんですか?」
「いや、忘れるも何も・・・」
「あー、そうでしたね、そうでした・・・」
「?」
「私は白神 巳鈴と言います。
はじめまして!」
「はあ、はじめまして」
自己紹介を終え、白神巳鈴と名乗った女性はそそくさと俺の家の中に入って・・・ってちょっとまてーい!
俺は女性の腕を掴む。
「何なんですか?」
「私ですか?」
「それ以外何が・・・?」
「うーん、強いて言うなら『運命の相手』ですかね!」
「・・・」
「ホラホラ!貴方のお母様にも許可貰ったんですよー!」
そういって『白神巳鈴ちゃんを透真の同居者として認める!因みに学校にも一緒に通ってもらうからよろしくね~ byお母さん』とかふざけたことが書かれている紙を俺の顔に押し付けてくる。
筆跡もしっかり母親のものと同じだ。
てかなに許可出してんだあんのババアまじ許さん。
「それ、どうやって手に入れたんですか?母さんは今海外に居るはずなんだが」
こいつに鎌をかけてみる。
母が海外に居るのは根も葉もない嘘だ。
これでコイツが「日本に居た」という趣旨の返事をしたらこの紙はかなりの確立で本物になってしまう。
さあ、海外まで行ったとか言ってくれ!
「え?日本に居ましたよ?」
「・・・」
Oh・・・。
「・・・どうやらそれは本物みたいだな・・・。
とりあえず、何でこうなったのか聞かせてもらうぞ」
「そんなものは幾らでも話してあげますよ。
おじゃましまーす」
「もう十分邪魔してるよ?」
「はい?」
リビングのテーブルに女を座らせて俺はその反対側に座る。
ふむ、コイツ、めっちゃ白い。
髪も白いし肌も白い、挙句の果てに服まで白いときた。
唯一白くないのは赤い目だけである。おまけに顔も美形だ。
胸がツルツルではあるが及第点である。
さて、コイツはというと、
なぜか笑顔で首を傾げこっちを眺めている。
はあ、不覚にもかわいいと思ってしまった。
「あの?」
「あーすまん、で?何で俺の母さんの居場所知ってんだ?」
「・・・いつか分かりますよ」
「じゃあ質問を変える。何で俺のトコに来た?」
「それもいつか分かります」
「はあ・・・、じゃあもう一個お前は誰だ?」
「それもいつか・・・」
「おい、まともな応答ねーじゃん」
「それは・・・」
「ふざけてんのか?」
「いえ!そんな訳では・・・」
白神はショボンと下を向き黙ってしまった。
流石に言い過ぎた・・・とは絶対になりはしない。
だって不明な点が多すぎるし、その不明な点を明らかにするためにしている質問にも答えられない。
あまりにもふざけている。
もしこれで納得して一緒に住むことを許す人間がいればそいつらは例外なく馬鹿だろう。
「・・・はあああ」
完全に黙ってしまった白神にうんざりして、大きなため息を吐く。
俺は別に黙って欲しいわけではない、
ただ、質問に答えて欲しいだけなのだ。
それなのに何故、それが出来ないのか。
俺には到底理解し得ないことだった。
何かまずい方法で調べたのか?
いや、それなら何故『いつか分かる』という言葉をチョイスした?
分からないなら聞けばいい、答えるかどうかは別として、だが。
「質問、お前は何故、『いつか分かる』と言った?それにその『いつか』とは何時の事だ。
「それは・・・あなたが・・・」
「ん?聞こえないんだけど?」
「・・・あ、貴方が私のことを覚えていないからです!『いつか』はいつかです!」
・・・コイツは今、訳の分からないことを言った。
「俺がお前を忘れている?」
「あ、今のは」
忘れている?
ということは、
「俺はお前と会っている?」
「・・・」
「だが、そんな記憶は・・・そうか忘れているなら記憶はあるわけが無い」
「・・・」
「なあ、俺とお前が会ったのはいつだ?」
「・・・それは、今はまだ・・・」
「そうか、分かった」
そう言うと俺は頭を回転させる。
そうやって辿り着いたのは、
四つの考察。
一つ、幼少期に叔父の家に行ったとき。
二つ、小学校時代一ヶ月ほど登校していた学校で出会っている。
三つ、俺は誰かに、もしくは自分自身でその記憶を封じている。
四つ、二つ目で語った小学校近くの公園で眠っていたと思っているがそうではなく、その空白の時間に会っている。それに、この日を境に俺は白いモノが見え始めたというのもある事から四つ目にこの考察。
現段階で、一番信憑性があるのは二つ目だろう。
一ヶ月しか通っていなかったのだから覚えていなくても仕方が無い。
だが、俺はもともとコイツとあったことも無い可能性はある。
そう考えると答えを一つに絞るのは至難の業だ。
ここは冷静になろう。
一つ目の考察、これは自分で言っておいてなんだが可能性は小さい。
「なあお前、年いくつだ?」
「・・・貴方とおんなじです」
「・・・」
同じということはその頃俺は三歳だ、そうするとコイツも当時三歳ということになる。
こいつが超記憶能力でも持っているのなら話は別だが、
これも可能性はゼロに等しい。
よってコイツは俺と同じく記憶を忘れていないとおかしい。
俺でも行ったという事実しか覚えていないのだ。
こんなヤツが覚えているわけが無い。
二つ目、これはさっき言った通り一番可能性が高い。
三つ目、これは何所で会ったか、とかではなく何故忘れているのか、
ということに着目して導き出した考察。
何故こうなったかというと、こいつの言葉、
『いつか分かる』
ここからである。
ということは思い出すことは出来る。
だが、コイツの口振りからして今はまだ思い出せないのではないかと思った結果こうなった。
四つ目、これは言ってしまえばただの勘である。ただ、白いモノが見えるようになった事と、コイツが訪ねてきたことが何処か引っ掛かるのだ。
・・・まあいい、今のところは二つ目が正解ということにしておこう。
それにさっきの質問で二つ目の信憑性も上がったことだし。
「じゃあ、部屋は無駄にあるから好きなところを使ってくれ」
「えっ・・・てことは?」
「別にここに住んでいいぞ」
そういった瞬間白神はとてつもない笑顔を見せるそれこそさっきまで暗い雰囲気を出していたやつとは到底思えないほどだ。
「だが、さっきした質問で答えられるものが出来たら、絶対に答えろよ?」
だが俺がそう口にした瞬間また顔が暗くなる。
感情が顔に出すぎるっていうのも面倒なものだと思う。
はあ・・・これからは、今まで以上にハードな日常が待っていそうだ・・・。
俺はまた一つ、ため息を吐く。
はい、息抜き程度にてきとーに書きました。