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聖母のタブー  作者: 千章 昌
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知らぬ幸福1


他人に悩みを相談したくなるとういうは、どんなときであろうか。

客観的な助言を求めている時かもしれないし、逆に相談を持ち掛けることで親身になりたい時というのもあるかもしれない。

ただただ誰でもいいから内心を吐き出して楽になりたいというのもあるだろうし、まずは悩みの種類でわけて考えるべきかもしれない。


他人にしか言えないことである場合、他人には言えないことである場合、そして誰にでも言えることである場合。


「それで、たぶん先輩は誤解してると思うのよね。私はそういうつもりじゃなかったけど、状況からして悪口言っているようにしか聞こえなかったと思うし、」


今回は3番目かな、と話を聞きながら麻里也は思った。


午後4時半、夕暮れ時の学食のテラス席。

授業があれば4限が開講されている時間帯ということもあって、テラスにも学食堂にも人は少ない。

そういう時間帯と場所を選んで、麻里也と岡井桜はコーヒーを飲んでいた。

麻里也が桜の話を聞くという形で。


昨日の夜に桜から相談したいことがあるというメールがあり、ならばということでこの時間と場所を選んだのは麻里也だ。

最近よく同じサークルの"三池くん"という人の話をするので、てっきりその相談かと思っていたが、意外にも深刻な方の相談であった。


問題が起こったのは昨日の午後、桜が所属する管弦楽団サークルの活動中でのことだ。

楽曲のパートの振り分けは、各パートのリーダーが行うらしいのだが、その3年のリーダーの振り分けに2年が不満を抱いたというのだ。

一時的にパートリーダーが席を外した時にリーダー以外で不満を言いまくったというのだから、もともと問題はありそうなパートだが、ともかく1年の桜はそのパートの中で宥め訳に終始していたらしい。

終始しようとしていたのだが、逆にそれが目立ってしまったのか、2年生の先輩方から「桜はどう思うわけ?」と名指しでパートリーダーに関して聞かれてしまった。


「パートリーダーの振り分けに賛成ですって言える雰囲気じゃなかったの。でも、だからってリーダーを悪く言うわけにもいかないし・・・だから、もう少し話し合いはするべきかもしれませんって言ったのね。」


「そうしたら?」


「そうよね、あの人いっつもパートの意見無視するし。勝手よね、桜のいう通りよってなって・・・そこにリーダーの島立先輩が帰ってきて・・・。」


「まるで桜がその先輩を勝手だと言ったみたいに?」


「島立先輩、絶対そう思ったと思うの。だって、すごい顔でこっち見た・・・」


運が悪かったとしか言いようがないアクシデントだと思う。

桜の言うことを信じるなら彼女に非はほとんど無いし、むしろ問題なのはパートの先輩たちの方だ。


本人のリーダーっぷりを直に知らないため何とも言えないが、悪口を聞いてしまったそのシマタチ先輩という人も可哀そうではある。


「その後は、どういった感じで解散まで過ごしたの?」


「島立先輩が・・・何事もなかったかのように練習するわよって号令かけて、いつも通り合わせからやったの。でも、絶対聞こえてた!だって島立先輩2時間ずっとしかめっ面だったし。」


「うん、まあ・・・聞こえてただろうね。」


「あーーーーーどうしよう。どうしたらいい???絶対私も一緒になって悪口言ったって思われてる!」


半分以上泣いている桜を前に、麻里也もつられて困った顔になる。

話を聞いてると一緒になってというより悪口の主犯格のように思われていてもおかしくはないが、さすがにそれを指摘するのははばかられた。

確かに自分の身におこったら泣きたくなるようなことだし、当人は運が悪かったでは流せないだろう。

さてどうしたものかと麻里也は自分の髪に手をやった。


なんてことはない。肩まで伸びた髪を軽く自分で梳くのは、考え事をするときの麻里也の癖だ。時々そうしている自覚もある。

そうしていると落ち着くからだと自分では思っているが、今回はたまたま発見があった。


黒く、長い髪。知り合いが、自分と同じような癖があることを、そういえば最近発見したのだった。


「シマタチ先輩って、島に立つって書く?」


「そうだけど・・・。」


「3年って言ってたわよね。黒いロングヘアーで、あの新設の・・・国際総合科学部?」


「そう、そう。知ってるの!?」


「バイト先の先輩だ・・・。」


3か月前にサークルの公演のチケットをくれた彼女は、桜のパートのリーダーその人だ。


世界は意外に狭い。


自分の世界だけでいうなら、6ステップすら必要ないかもしれなと麻里也は思った。




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