表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カウントアップが止まらない  作者: 白辺 衣介
一章 勇者の末裔と逸般人
8/33

勇者の末裔と逸般人 8

 確かに、この世界では、バランスに特化したステータスは雑魚中の雑魚だが、極めれば強大になるのは、どの特化型でも同じだ。

 オーバーキルしないことに安堵すべきか、一撃で倒せないことを危惧すべきか。


 まあいいさ。ボムダケの連続爆発を二回当てれば十分倒せるだろ。余りにも速くて当てられないなら、手元に五つ残っている分もある。二五万ルプをボンと使うのはいささか気が引けるが、ソピアには代えられない。腹をくくるしかない。


「開始の合図はどうする?」

「そんなもんどうでもいい。なんなら、先攻をくれてやってもいいぜ」

「いや、先攻を渡すなら僕からだ。レベル差もあるだろうからね。一撃だけなら躱さないと誓おう」


 ああ、願ったり叶ったりだ。

 俺はすっと、腰に提げたホルスターから、銃を取り出した。


「言ったぞ。言ったぜ。言ったからな」


 止まらせない。止まる気もない。毛頭だ。


 人は、何かに恐れると、前に出るか、後ろに下がるか、その二つの行動を取る場合が多い。今、目の前にいるコウヤはどうやら、前者だった。

 俺の異質な雰囲気を感じ取ったコウヤは、腰に帯剣していた剣に手をかけ、一歩前に出た。さっきの台詞の手前、躱すのは格好が付かないことを分かっているのだろう。コウヤはそれ以上前には出なかった。


「吹っ飛べ」


 一瞬、世界が圧し潰された。


 コウヤから数歩分離れたところに埋められていたボムダケが、初級の炎魔法を込めた銃弾により引火、及び発破。周囲一帯に爆音が轟いた。上級を超える魔法の威力すら凌駕しかねないその爆風は、俺や、傍観者であるはずの少女すら、巻き込み舞い上げた。


 爆炎が服に燃え移らなかったことに、自分の悪運の強さを感じながら、今回は何とか腕から落下した。

 やはり俺は、この防御力がなければ数度死んでいる。


 一方、馬鹿げた防御力を持っていない少女に視線を遣ると、中級辺りの風魔法で上手く着地していた。俺にはできない芸当だ。俺は咄嗟に魔法を使う、という判断を習得していない。

 少女の判断力に若干、羨望の思いを抱きながら、俺は両掌に付いた砂を払った。そして、爆心地を睨んだ。


「コウヤ!」


 少女が名を呼ぶ。だが、返事はない。煙に紛れて潜伏しているのか、それとも、一撃で葬れ――いや倒せたのか。一応、次の弾は装填しておく。慢心されるべき俺が油断していては、見える勝機も見えなくなる。

 次第に土埃も収まり、周囲が元の景色に戻ろうとしていく。その中で、影が見えた。その影は、立っていた。


「……死ぬかと、思った……っ!」


 堅牢な防具は砕け、煌めく剣は薄汚れ、それでも瞳には闘志を燃やしながら、そいつは立っていた。だが、素人の俺が見ても、まともに戦える状態でないのは分かる。あともう一度、ボムダケひとつ分の爆発でも受ければ、気絶するだろう。


「この辺りには、事前にボムダケを大量に埋めてある。それを踏まえて聞くぜ。もう一発いっとくか?」


 そう言って手元のボムダケをちらつかせると、ビビって大きく後退していた少女が口をはさんできた。


「貴方は今、ボムダケと言いましたか?」

「ああ、そうだ。今の俺のメインウェポンだ」


 魔王の首を取ったような表情になった少女は、俺が肯定の返答をすると、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「ボムダケの個人所有が認められているのは、鍛冶師だけです。貴方、それを分かっているのですか?」

「もちろんだとも」

「捕まっても、文句は言えませんよ」


 見たところ、聖女然とした風貌の少女だが、その風貌に似合わず、嫌らしい笑みを浮かべている。コウヤにギフトを授けた神とやらに、怒られるんじゃないだろうか。

 それは神の管轄として、勝った気でいる少女に言ってやらないといけないことがある。


「いいや、文句は言わせてもらうぜ」

「犯罪者が何を言って!」

「俺、鍛冶師だからな」


 俺の一言に呆気に取られている少女に続けて言う。


「そもそも、今回の戦いにルールはない。俺が負けたら、お前たちがソピアを連れて行くという、一点以外な」


 この戦いは俺にメリットがない。勝っても何の報酬もない。ただ、日常を続けられるだけ。だったら、少しぐらい自分の立場を有効活用しないと、フェアじゃあない。

 そう、こんこんと説く。杖代わりに剣を使っているコウヤを、口を開けたままの少女を尻目に。


「じゃあ、改めて聞くが、もう一発いっとくか?」


 二人とも、首を横へ振った。

 かくして、俺のレベルは六、上がったのだった。





 あの後、埋めてあったボムダケをすべて掘り返し、回収してから帰路についた。手元に土を掘る道具がなかったので、コウヤから剣を借りて掘り返した。その光景を、少女――クリアは微妙な表情で見つめていた。

 今はコウヤに肩を貸しながら、適当に休める場所を探している。怪我自体は、クリアが得意とするところの治癒魔法で治ったが、体力気力はそうもいかない。治癒魔法はあくまで、傷を治すだけのものだ。


「悪いね。僕の力不足と、都合でこうなっただけなのに」

「ああそうだ。その通りだ。飯のひとつでも奢ってもらわないと、気が済まない」

「そうだね。今日の夕ご飯は、僕が持とう」


 よし、これで今夜の飯代が浮いた。金を稼ぐことが第一目標である俺たちにとって、節約できる分は節約しておきたい。

 問題は金をどうやって増やすかだ。お袋は、五年後の鍛冶屋ラウンドの資産を超えろ、という指令を課した。現在ラウンドの資産は一億ルプ。五年先までの資産を見ることができないのなら、多く見積もって約二倍は稼いでおきたい。


 二億ルプ。いくら実の良い冒険者業でも、五年でそれは無理だ。ギャンブルに関しては俺もソピアもずぶの素人だ。カモられるのが見えている。下手をすれば、一獲千金どころか借金を背負いかねない。

 何か、一獲千金できるような、何かは――


「どうかしたかい? 僕の顔をじっと見つめて」

「……もしかして、そっちの人ですか?」


 流れるような罵倒を、流水の如く受け流し、俺は言う。


「魔王って、倒したら金入るか?」


 魔王の復活が本当だとして、それを秘密裏に処理しようとしているのなら、何らかの報酬があるだろう。無いのに粉骨砕身する馬鹿はいない。こいつにも、何か理由があって、その使命を背負っているはずだ。そこにつけ入る隙がある。


「貴方、本当に欲深いですね」

「欲あってこその人間だろ」

「私たちは、見返りを求めて打倒魔王を掲げているわけではありません。私は天啓に導かれ、コウヤは『魔王を倒すべき人間』として旅をしているのです」

「人生面白いのか? それで」


 自己意思の欠片もなく、世界のパーツとして生きているだけなんて、つまらなすぎて吐き気がする。そんな人生、願い下げだ。


「僕は人助けが趣味みたいなものだからね。これはこれで、楽しいんだ」

「今時そんな奴がいるとはな」


 頭の中に、早くも春が訪れているのかもしれない。自分が頑張ることで、誰かが救われるのならそれでいいと、本気で考えられるような奴は、絶対に一般人と感覚がずれている。普通の人間に、自然と自己犠牲精神が芽生えるはずはない。

 こいつもこいつで、何かあったんだろうと、自己完結させる。他人の過去を突いても、メリットはない。だったら、蛇に出会わないようにするが良し。


「で、金は出ないのか?」

「出ませんよ。でも、フィグさんに頼めば、もしかするかもしれないですね。あの人は、優しいですから」


 フィグ。頭の出来が良くない俺でも、その名前は知っている。ていうか、自分の住んでる国の、長の名前を忘れるのは人間性を疑う。

 クリアの口ぶりからすると、こいつらはフィグ王と面識があるようだ。世界を救おうとしているのなら、それもおかしくはない。むしろ好都合だ。

 ふむ。それなら、そうだな。


「なあ、コウヤ。俺と、交渉しないか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ