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カウントアップが止まらない  作者: 白辺 衣介
一章 勇者の末裔と逸般人
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勇者の末裔と逸般人 4

 流されるようにファングを二頭討伐した俺たちは、畑の主であるおっさんから多大な感謝を受けながら、ラインの街中へ戻って来た。


 左手の関係で報酬の受け取りはソピアに任せ、俺はギルドに来た時と同じように、入り口で突っ立っていた。しかしあの時とは違い、俺は一人で空を見上げていた。アクスはギルドの隅っこで、煙草を吸っていたからだ。俺が話しかけてまた怒られるのも可哀想なので、絡まないことにした。

 魔王が再び現れた、なんていう噂が噂止まりであることを願いながら、俺は大きな欠伸をした。


「眠いの?」


 手続きを終えたソピアが、俺の顔を覗き込んでくる。と言っても、身長差のためにあまり近くならない。

 ソピアの質問には、「もちろん」と答えた。出不精だった俺が、ラインの外れにまで出てきて、挙句激しい運動までしたんだ。そりゃあ疲労も溜まる。表面上は何食わぬ顔をしているが、内心早く休みたくて仕方がない。


「じゃあ、宿屋行く?」

「そうだな、今日はもう疲れた」


 ラインは冒険初心者が多く集まるだけあって、格安の宿屋が多い。ファングを追加で討伐したことで、予定以上の収入を得た俺たちは数ある宿屋の中でも、割と高めの宿屋に宿泊することができる。怪我の功名ならぬ、毒の功名だ。いやはや、自分のことながら、毒耐性までついているとは思っていなかった。


 まだ昼下がりということもあってか、宿屋街は未だ賑わいを見せていない。呼子も一人として見当たらない。

 その中でも、比較的成りのいい宿屋をソピアが見つけた。なんでも、ラインの中では評判も良く、料理も美味いらしい。一体ソピアはどこまで前情報を調べているのだろう。


「一部屋でいい?」

「ソピアがいいなら」


 いくら評判がいいといっても、各部屋に風呂はない。一部屋ごとに風呂があるのは高級店の証。こんなところにはない。それがかえって好都合だった。

 俺もソピアも一応は金持ちの家の出。風呂に入らないという選択肢は一日たりとも選ばない。特に、ソピアは女だ。自室に風呂があるなら二部屋借りるつもりだったが、ないのであれば一部屋で十分だ。


「当店は一部屋につき、ベッドはひとつしかございませんが……」


 受付の店員が言葉を濁す。まあ、普通の年頃の男女がひとつのベッドで宿泊すると聞いて、口を出すことはおかしくない。

 だが、答えは変わらない。


「気にしない」


 俺の心情を代弁するかのように、ソピアが答える。店員はその返答を聞いて、不承不承ながらも二〇三号室の鍵を取り出した。

 俺とソピアが、恋愛に関しての興味が薄いことは分かり切っている。流石に全裸や半裸を見せるのは躊躇うが、添い寝程度ならどうということはない。リディアは人並みにはあったが、本人のキャラクターがアレだったせいで、あまりモテていなかった。残念なイケメンというやつだ。


 二〇三号室の鍵を片手に、階段を登っていく。ソピアも、俺の後ろに着いて来ている。二階の階段前の壁には、左が二〇一~二〇五、右が二〇六~二〇九と記されていた。

 ホテルみたいな表記の仕方だなと思いつつ、もちろん左に曲がる。そして、中央の部屋の施錠を解いて内開きになっている戸を開けた。


「おお」


 あまり期待していなかったせいか、部屋の広さに思わず声が出た。ベッドがひとつしかない割に、二人で生活するにしてもまだ余裕がありそうだ。どうせなら、ベッドもふたつ用意しておけばいいものを。

 俺は部屋に入ってまず、洗面所へ向かった。そこで上着を脱いで左腕を全力で洗う。風呂場で洗うと、二次被害を起こしかねない。水道でも可能性はあるが、風呂よりは幾分かマシだ。


「これだけ洗えば大丈夫だろ」


 魔物の毒はあくまでも人間だけに害を成す。布では毒が洗い流せたか分からない。それでも十分すぎるほどに腕を擦ったんだからもう残っていないだろう。


「ん」


 左腕をタオルで拭いていると、ソピアが何の躊躇いもなく俺の左腕に触れた。いくら洗ったとはいえ、防御力が低めのソピアが触れるには危険だというのに、俺の腕を握ったり、撫でたりして様子を見ている。

 満足に確認したソピアは自身の両手を数度握って、異常がないか確かめる。


「大丈夫、かな」


 どこか不安の残る言葉だが、ソピアの手を見るになんともなさそうだ。毒の洗浄がこんなに面倒なら、次からは魔物の血液に触れないようにしておこう。

 毒の温床のようなものになってしまった俺の服は、受付で貰ってきた麻袋の中に入れておく。今度郊外に出た時にでも焼却しよう。


 服の隔離が済んだことで、俺は仕方なく重い腰を上げる。これからは寒くなっていく季節だ。そんな季節にこんな薄着でいる馬鹿はいない。死んでしまうからだ。

 この辺りの気候の変わりようを嘗めてはいけない。毎年、住民の忠告を聞かずに野宿をした冒険者の死人が出るほどに、ラインの冬は厳しいのだ。


「ついでにソピアの防寒具も買って来ようか?」

「うん。お願い」


 昼寝でもする算段が狂ってしまった。だが、移り行く季節に対応しなければ、待つのは死。春を迎えられずに死を迎えるのは、一部の野生動物と馬鹿な冒険者だけで十分だ。

 ソピアの部屋の番を預け、俺はラインの街へ繰り出した。

 冬が近づいているだけあって、薄手の服一枚では鳥肌が立つ。逸る気持ちがそのまま歩速となって表れる。ああくそ、冬も夏も大嫌いだ。


 武具屋が並んでいるということは、それだけ住民もいるということ。住宅街でもあるラインは、住居関連の店も多い。が、俺がいつも服を買いに行っている店は街から少し外れる。じめじめとした陰鬱な立地にある代わりに、安くて良いものが揃っている。営業に携わる者として売上高が気になるところだが、俺が生まれる前からあるらしいので、何とかなっているに違いない。

 幸い、宿屋からその店は近い。徐々に減っていく人気を意に介さずに、俺はただ陰鬱なその店に向かう。

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