+-二五〇の過去と未来 6
「ディー、コウヤを借りてもいいか?」
「コウヤだけなら構わねえが……気は付けろよ」
「えっ?」
「おら行くぞ」
未だ状況を飲み込めていないコウヤの腕を引っ張りながら、寝ているだけでも十分脅威なヒューリーの下へ向かう。途中でさっきの壁に阻まれたが、ここまで近付けば、声も届くだろう。
「あなた、さっきの。ライコウを知っていた」
「ああ。僕は、頼光の幼馴染だ」
薄々、気が付いてはいた。ライトニング・ラウンドに似ていると言われ、幼馴染みに似ていると言われたあの日には、珍しいこともあるもんだと、適当に流した。だが、後になって考えてみれば、銃や武器についてやたらと詳しかったライコウと、この世界に存在しえない技術を揮ったライトニングの正体が同じ、もしくは近しいものであることには、簡単に辿り着けた。
「マジで?」と言わんばかりの表情を俺に向けるリディアには、黙っているようにとジェスチャーしておいた。
「へえ、そう。なら、ライコウがどんな人間かも、知っているわね?」
「当たり前さ。僕は、あなたよりも長く、彼と一緒にいたんだ」
それから、コウヤはツブラ・ライコウの半生を語った。
同じ場所で生まれ、家が近く、幼い頃から一緒に遊んでいたこと。
ライコウは言葉足らずで、人に誤解ばかりされていたこと。その度に、コウヤが真意を伝えていたこと。
学校でライコウが武器に興味を持ち、コウヤもそれにつられて少しだけ武器に詳しくなったこと。
コウヤがもといた世界での二年前、ライコウは事故で死んでいたことを。
そして、ディーから聞いた、ライコウの人生を。
「僕が知るライコウは、人を傷付けるようなことをする奴じゃない。あなたは、勘違いしている」
「何? じゃあ、あなたは、私がライコウのことをよく知らないって言いたいわけ?」
「ああ、そうだ」
ヒューリーが右掌をコウヤに向けると同時に、俺がコウヤの前に立つ。すると、ヒューリーは諦めたように腕を下ろした。
「もういいわ。あんたに魔法が通じないのは分かってる」
今までとは打って変わって、落ち着いた口調、雰囲気で言ったヒューリーは、何もない虚空を見つめていた。まるで、ここにはない誰かを求めるように。
そんな彼女を見つめていたコウヤが、すっと瞼を閉じて呟いた。
「『君はもう、必要ない。どこかへ行け』」
「っ!? な、何で!? その言葉を……!?」
「あいつが言いそうなことを、言っただけだよ」
言葉通りの意味で受け取るなら、そりゃあもうブチギレられても仕方がないと言えるぐらいの乱暴さだ。それで人類滅亡とか企む方も頭おかしい。
コウヤとヒューリーの間ではシリアスが漂っているが、他五名は、この一連の事件の真相が見えてきたようで、冷えた視線をヒューリーに送っている。
仕方ない。それもう仕方ない。どんな罵倒も受け入れて然るべきだ。
「あいつは、『君はもう、俺と一緒にいる必要ない。別の場所で暮らせばいい』って、言いたかったんだ」
「嘘よ……! だって、あんな、冷たい声で……」
「あなたも、あいつの優しさは知っているだろう?」
仮に優しかったとして、その物言いは乱暴だろう。言葉足らずだとか、そういうレベルじゃあ断じてない。コミュニケーション自体ができていない。ヒューリーもヒューリーで、何故そんな男に惚れたんだ。
「……本当は、さっき、分かったのよ。あの子の顔を見た時に」
ヒューリーの視線が俺へと移った。俺は助けを求めてディーへと視線を移した。ディーは魔法の準備をやめて、横になっていた。
やめてくれ、俺をこのつまらない流れに巻き込むな。誰か助けてくれ。
「だって、愛がないのに、子供を育てられるわけないもの」
ヒューリーは泣いていた。泣きたいのはこっちだ。
たかが五〇〇年前の痴話喧嘩が、どうして人類の滅亡まで発展するんだ。どれだけライコウを愛していたんだ。痴話喧嘩に付き合わされて、死にかけたこっちの身にもなれ。
まあ、でも、痴話喧嘩を解決して二億もらえるなら、それに越したことはないか……
「あなた、名前はなんていうの?」
「………………ライブ」
答えるかどうかしばらく迷い、答えた方が得だと判断してから答えた。ここまで温度差があると、やりづらくて仕方がない。
「良い名前ね」
言うと思った。
「……ねえ、ティア」
「…………んうぇ? あ? 誰か今呼んだか?」
こいつ絶対寝てたぞ。名前を呼ばれてからかなり時間があった上に、どう見ても顔が寝惚けている。事態が収束に向かっているからといって、いくらなんでも気を緩めすぎだろ。
「ティア、私を殺しなさい」
「え? 何これ。ちょっと見ない間に、凄い綺麗になってる」
「殺しなさいって言ってるでしょ」
「やだよ。そもそも、今回だって殺すために来たわけじゃねえし」
「殺しなさいったら!」
「嫌だっつてんだろボケ! そうやって話を聞かねえから、今回みたいなことになんだろうが!」
また喧嘩が始まった。この二人のドンパチになると、俺たち凡人だとひとたまりもない。できるだけ早く避難を始めておこう。コウヤとリディアと共に、女子たちと合流する。入り口の近くに待機し、いつでも逃げられるようにだ。
「あんたはいつもそうね! 私が頼んでるのに無視して!!」
「頼んでるとか言って命令ばっかじゃねえか! お前が一度でも下から物言ったことがあったか!?」
空間魔法と超威力のオリジナル魔法が、それぞれ一定の時間が経つごとにぶつかり合う。完全に蚊帳の外になってしまったコウヤは、その光景を呆然と見つめていた。
ソピアはここ最近の疲れがたまっていたようで、俺の膝を枕にして眠っている。リディアは興味無さげにナイフの手入れをしている。
「腕、大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるなら、医者に診てもらった方が良いな」
「良かった。私の目は正常ですね」
クリアはやることがなくて暇なのか、俺に絡み始めた。
魔王討伐とは名ばかりの、俺の濃密な旅はなんだったのだろうと思いながら、炭となんら変わらない、左手を見つめた。




