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カウントアップが止まらない  作者: 白辺 衣介
四章 +-二五〇の過去と未来
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+-二五〇の過去と未来 3

 一日目は魔物との遭遇はあれきりなく、その後は平穏だった。いつかと同じように、女は先に眠らせ、男が火、及び魔物の番を交代ですることになっている。今回は人数が多いので、二人一組での番だ。理由はもちろん、俺にまともな火力がないからだ。

 昼に中級魔法を二回使ってしまったことが響き、銃でさえも満足な残弾数が残っていない。


「いっやァ爽快だったなァ! あのクソトカゲがぶった斬られるところはよォ!」

「意識あったのかお前」

「たりめェよ! テメェとは体の出来が違ェンだ」


 それを言うのなら俺の台詞だ。お前の何倍防御力あると思ってんだ。


 リディアのステータスから察するに、落ちて無事だったのではなく、上手く着地したのだろう。そうでなければ、紙装甲のこいつが無傷だった理由が他にない。


 辺りはすっかり深黒に包まれている。見上げても、星の数は数え切れるほどしか浮かんでいない。今ここにある光は、目の前にある焚火だけだった。揺らめく炎を、じっと見つめながら、かねてよりの疑問をリディアに問うてみた。


「お前は、どうして何も言わずに飛び出したんだ?」


 普段から脳ミソ空っぽで、何も考えていないようなリディアだが、その時ばかりは何かを思っていたのかもしれないと、俺はここ数年間気がかりだった。

 干し肉を豪快に齧ったリディアは、それを咀嚼し、飲み込んでから、天を仰いだ。


「頼ってばっかだったからな。勉強も、ヤンチャする時も、ソピアと、テメェに」


 自嘲気味に笑ったリディアは直後に大きく欠伸をした。

 既知ではあったが、こいつは一八になっても緊張感を保つことができないのか。


「ま、でも、頼るのは当たり前だよなァ……ライブも、テメェ一人じゃあまともに戦えねェ。一人でいられンのは、正真正銘に強ェ奴だけだ」


 その、「正真正銘に強ェ奴」を、俺は二人ほど知っている。一人は先天的に、一人は後天的に、力を持った。その力の使い方は奇しくも同じで……いや、そこを含めて、強さなのかもしれない。

 誰かのために。と。そう思うことができるようになるまでが、強さだとするのなら。


「俺は一生、弱いままだな」

「卑屈だねェ、謙虚だなァ。慢心しないってェのは、いいことだがね」


 ソピアと俺。極論、それ以外どうでもよかった。

 不特定の誰かのために生きられるほど、俺は綺麗ではなかった。





 グロンドに入ってから、二度目の朝を迎える。

 二日目は近付いていることを示すかのように、竜型魔物が三体、亀の魔物が一体現れた。本来なら二日目に到着する算段だったらしいが、予想以上に魔物が襲ってきたために、三日まで日を跨いだ。魔王が眼前に迫っているのだ。それぐらいの用心は当たり前と言える。


 俺も、魔王に向かってやるべきことを整理する。言いたいことも、やりたいことも、数え上げればキリがない。その無数のなかから厳選し、吟味し、選び抜く。

 まったく、面倒な家系に生まれたものだ。


「もう目と鼻の先だ。ライブは一旦下がってろ。ここからはもう魔物は出ねえ」


 それほどまでに近付いているのか。一帯を見渡しても、それらしきものは見当たらないが、ディーがそう言うのならそうなのだろう。言われるままに後退する。


「ライブには連鎖鉄鎖と断絶の籠手を渡しとく。連鎖鉄鎖の使い方は知ってるな?」

「知ってるが、断絶の籠手ってなんだよ」

「物理魔法問わずに完全防御する、空間魔法を付呪した防具だ。万が一、あいつに攻撃されたらこれで防御しろ」


 完全防御の定義がいまいち分からないが、これも七つ道具とやらのうちのひとつだろう。右腕の分しかないが、それだけあれば十分だ。連鎖鉄鎖も魔力を消費しないだろうし、道具として使うなら、今の俺としては戦力たり得る。

 他の面々、ソピアとクリアが少し心配になる。後方に下がって、俺が魔王を引きつければ大丈夫だろうか。


「んじゃま、ダンジョンケイブへレッツゴー!」


 途轍もなく軽いノリで再出発する。ダンジョンケイブとは言うが、そんなものはどこにもない。首を傾げながらディーの後に着いて行く。


「「ええっ!?」」

「!?」


 ソピアを除く全員が驚嘆の声を上げ、ソピアも声を出さないまでも目を剥いて驚いていた。それもそうだ。俺も自分の目を疑った。今の今まで森林だった空間が、突如として洞窟に変わったのだから。


 空間魔法の類いだろうか。もしそうだとするのなら、俺の防御力が役立たずになり、断絶の籠手とやらに頼るしかなくなってしまう。空間魔法は対象が人や物ではなく、空間そのもの。故に、攻撃魔法であればあらゆるものを、紙を切るように切断することができる。


「これは火、水、風の混合魔法だ。指定した範囲に、自分の設定した景色を映し出すことができる魔法だ。幻術とかじゃねえから心配すんな」

「心配するところが変わっただけなんですけど……」


 魔法に聡いクリアが、ため息混じりに愚痴を零した。二つの魔法を混ぜるだけでも相当な技術力を求められるというのに、三つともなれば想像もつかない。魔王も、ライトニングとは違う方向で、オーバーテクノロジーの塊だ。


 洞窟の中は何の変哲もなかった。罠やおどろおどろしい装飾があるわけでもなく、至って普通の洞窟だ。それだけに、奥から感じる重い雰囲気は異様だった。

 隣にいるソピアに視線を送ると、正面だけを見据えていた。雰囲気に呑まれまいと、踏ん張っているようで、その実それに囚われているように見えた。魔王の正体に、半ば気付いている俺には雰囲気など、気にかけるようなことではなかった。だから、薄っすらと汗を浮かべ、握り拳を作っているソピアの手を、そっと解いた。


「大丈夫。何とかなる」

「っ、うん」


 殺す殺さずどちらにせよ、ことはグッドエンディングへ運んでみせる。


「俺が、何とかする」


 きっと、似たような決意を、ディーとコウヤもしているに違いにない。リディアはあくまでソピアがいるから、クリアは天啓、もとい暇潰しだ。芯のある決意は二人にない。

 ディーは「子供と、後輩と、友達のため」に、コウヤは「趣味」で、俺は、そうだな、「反抗期(・・・)」と評するのが一番しっくりくる。そして、ソピアはきっと、いや、確実に「俺のため」、ひいては「俺と一緒にいるため」だ。


 奥へと進んで行くほどに、俺の中に燻る火が外に出せと焔を上げる。まだだ。まだ、こんなところで吐き出すのは早いだろう?

 炎が何の燃料もなしに大きくなっていく。それが最高潮に達したのと洞窟には似合わない、木製の扉が現れたのは同時だった。


「全員一斉に入れ。魔法が飛んで来たらコウヤが前に出ろ。あいつが突っ込んで来たら俺が止める」


 緊張感も同じく最高潮。全員が全員、リディアでさえも、黙ったまま頷いた。

 そして、リディアがカウントダウンを始める。3、2、1、と。

 扉が開け放たれる。六人全員が、多少のずれはあれど、一斉に扉の向こうへ転がり込む。先陣を切る必要がある可能性を持つ俺は怯まず、臆せず、そこにいるであろう、一人の女を視界に捉えた。


 俺たち――否、そいつは俺を視認すると、目を剥いた。それから間髪入れずに地を蹴る。余りの速さに、俺の体が着いていけない。このままでは捕まると理解しつつ、このままではないという確信を抱き、俺は一歩踏み出した。


「ノックをするべきだったか?」

「ここに来るのは、あんた達だって分かってたわ」

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