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カウントアップが止まらない  作者: 白辺 衣介
三章 勇者と末裔と異世界人と
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勇者と末裔と異世界人と 6

 魔法は基本的に、唱えた人物の攻撃力よりも低い威力になる。俺のように、銃に込めるなどの補助行為を行えば、その限りではない。だが、たとえ、どれだけ高性能な魔法でも、攻撃力掛ける一倍にしかならない。加えて魔法には防御無視の特性を付与することができない。特性は、実体を持つものにしか付与できないのだ。

 毒も薬も効かない以上、俺を脅かす魔法は存在しない。


「しかも、魔法で壁を造りやがるから、下手な物理攻撃は通らねえ。実際俺も膠着状態になっちまったからな」


 俺たちの中で火力が最も出るのは、間違いなくディーで、そのディーがどうにもならないと言ってしまえば、俺たちにはどうすることもできない。

 しかし、一度魔王と対面し、その異常性を目の当たりにしているはずのディーは、余裕の表情だ。


「手は、あるぜ」


 そう言ったディーは、普段のそれより一層意地の悪い笑みを浮かべていた。





 数日して、謹慎が終わると同時に、俺たちは出立のための準備を始めた。と言っても、ほとんどは俺たちの謹慎期間中に、コウヤたちが終わらせていたので、最終確認だけだ。

 俺は幾度となく行った、銃たちの最終調整を終わらせた。それら以外に荷物らしき荷物もないので、俺はただただ暇していた。


「しかし、手、ねえ……」


 ディーの言った手とは、「超難しい魔法で再度封印する」という、自分の過去の発言を忘れているとしか思えない、策ではないゴリ押しだった。魔法の製作は王都から魔王のいる場所までの間に終わらせ、命中させるために、魔王を捕まえておく役目を俺が受けることになっている。


 魔王のステータスはおおよそ見当がついている。速さのステータスも、もちろん俺より魔王の方が高いが、ディー曰く、魔王は俺を優先して狙う可能性が高いらしい。

 それで上手くいくのなら、あいつは馬鹿だ。

 大人数で何とかなるなら、五〇〇年前に決着を着けておけ。


 そう、城の門に背を預けながら考えていたところに、リディアがやって来る。ソピアはリディアから見えない角度で嫌な顔をした。


「いよう! 久々の娑婆は気持ちがいいなァ!」


 誰のせいだと思ってんだこいつは。

 鳥以下の記憶力である可能性が浮上し始めているリディアはやはり軽装で、俺以上に荷物は少なかった。


「おっ、結構集まってんな」


 意気揚々と現れたリディアに続いて、何のおふざけか、壁の中からディーが顔を出す。


「便利だな、時空間魔法ってやつァ」

「普通の属性が一切使えねえんだから、それぐらい便利じゃねえと困るってもんだ」


 ディーは、本当に重要なことを、本当にどうでもよく話す。常に聞き耳をそばだてていないと、聞き逃してしまう程に。

 神の祝福もない、あくまで突然変異でしかないディー――ティア・スピリティアが持つ才能の神髄は、時空間魔法ではなく、魔法作成のスキルにある。偶発的に持ち合わせた時空間魔法、先天的に失っていた基本属性、これらは踏まえて解ることは、ディーが扱う魔法のすべては、「ディー自身が一から創り上げたもの」であることだ。


 通常の魔法作成であれば、様々な魔法(ぜんれい)からヒントを受けることができる。俺の銃の製作もそうだった。ここが、魔法作成と魔法混合の難度の違いになる。

 しかし、時空間魔法にはその魔法(ぜんれい)がない。製造とも言うべき魔法作成と比べると、難易度が跳ね上がる。何せ、魔法を創造すると同義に近いのだから。


 へらへらした性格、態度、外見をしているが、その実、ティア・スピリティアという男は常人では決して味わうことのない苦悩を味わっている、はずだ。

 脳ミソ空っぽ能天気なら、苦悩を味わう頭もないだろうが。


「で、残ってんのはコウヤとクリアか。あの二人は入念にやってそうだな……」


 魔王を倒しに行くのだから、それは入念にもなるだろう。特に、あの二人は油断慢心によって、辛酸をがぶ飲みした経験もある。

 コウヤもクリアも、ここにいる四人とは違って、まともな防具も装備している。同じ準備時間で済むと思ってはいけない。そもそも、何の勇者七つ道具とかいう、わけのわからないものを所持した上で早いディーがおかしい。


「ねえ、ライブ」


 俺の隣で座り込んで土を弄っていたソピアが、唐突に声をかけてきた。

 視線をソピアに注ぐことを代替として、俺は応えた。


「魔王って、何がしたいのかな」


 そりゃあ、人類の滅亡だろ。と答える前に、ソピアは続けて言った。


「どうして、人間を滅ぼそうとするのかな。そんなに、そんなに……人が嫌いなのかな……」


 少しだけ考える。答えは既にあった。けれど、それが正解である気がしなくて、他の答えを探して、見つからなくて、結局、自信のない回答をする。


「嫌なことでも、あったんだろ」

「……なら、嫌なことをしてきた人だけ、殺せばいいのに……」


 物騒なことを呟くソピアだが、俺は内心賛成だった。加害者と被害者が存在するなら、被害者が加害者に、加害者が被害者になればいい。罪には罰で我慢が効かないのなら、罪には罪を与えてやるしかない。

 それが何をどうしたら、周りの人間を巻き込んだ仕返しになるのか、俺も分からなかった。

 人類の滅亡など知ったことではない天上の光は、いつも通りに地上を照らしている。


 ソピアのレベルは、七四だった。

 元々、感受性が豊かだったようには思えない。何事にも動じず、しかと目標を見据えているのが、ソピアの在り方だと思っていた。本人が言うには、俺と一緒にいろんなところに行くことが、見ることが楽しいと。

 それはそれで嬉しいものだが、ソピアの魅力は列挙できようと、俺は俺の魅力を並べることはできない。我ながら情けない限りだ。でも、それはきっと、ソピアも同じだろうと思いもする。

 強く握られた左手を眺めながら、そう信じた。


 土弄りに飽きたのか、ソピアが立ち上がる。そして、ぐぐっと伸びをする。季節と周りの目を気にしてほしいものだ。


「やっぱり僕らが最後だったみたいだね」

「だから早く行きましょうって言ってたじゃないですかあ」


 残りの二人が小走りでやって来る。ディーに平謝りしているコウヤは、軽く頭を小突かれていた。それを傍で見ているリディアは、その光景を鼻で笑っていた。


 冬の蒼天の下、俺たちの旅は再び始まる。悪ではない、災害を未然に防ぐために。

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