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カウントアップが止まらない  作者: 白辺 衣介
三章 勇者と末裔と異世界人と
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勇者と末裔と異世界人と 5

「ま、俺が前に立ってる限り、誰も怪我しないだろうさ」

「そう、だね」


 怪我という言葉に反応して、ソピアが小さく震えた。あまり表には出さないが、ソピアも先日の事件について思うところがあるのだろう。

 あれはあれだ。不意打ち、怠慢、防御無視の三要素が揃ったからだ。どれかが欠ければあの事故は未然に防げた。俺も流石に学習したので、あの夜は二度と起こらないと断言する。


「話を戻すぞ。銃を造るときにはまずキリナイトで持ち手を造るところからで――」


 それからしばらく、具体的に言えば晩飯が運ばれて来るまで、俺はソピアに銃の造り方を教えていた。

 延々頭を働かせていても、思う通りには覚えられないので、小休止を設けた。部屋から出て、城の中をふらふらと徘徊していた。謹慎はあくまでもの城の中なので、俺は城の構造でも覚えようと思い立ち、こうしてどこを目指すわけでもなく徘徊している。


 城に住み着き始めて日が経った俺は、従者に奇異の目で見られることはなくなった。が、しかし、代わりに白い目で見られるようになった。

 原因はトラブルメーカーの隣に常にいることだ。連日の騒ぎの渦中には、必ずスピリティアの男組と俺がいた。俺は巻き込まれているだけだということは、風評被害の言い訳にはならないらしい。「ライトニングに似てるから」とかいうふざけた理由で、俺はディーに連れ回されているのだ。


 ライトニング・ラウンドなる俺の先祖と、俺がどれだけ似ているかは知らないが、同一視はしないでもらいたい。

 どれだけ似ているかは、あの二人を並べてみれば推し量れることだが。

 定期的にため息を吐きながら、星と室内の明かりに照らされている廊下を歩いていると、前方から、あの場にいた中で唯一謹慎を食らっていない奴が来た。


「あれ、部屋から出て大丈夫なの?」


 天然か、それとも狙ってか、畜生染みた発言をするコウヤは、隣にクリアを連れ、袋を抱えていた。


「謹慎は城の中だけだ。で、お前のそれは何だよ」

「食糧さ。魔王討伐が発布されたことだし、仕入れておこうかと思ってね」

「誰かさんが馬鹿やってなきゃ、今日明日にでも出発できたんですがねえ」


 この発言は絶対に狙っている。狙撃だ。ライフルだ。

 前述の通りに、俺は原因ではない。俺は被害者だ。俺がマシンガンの試運転を提案しなければよかったのではないか。と言われればそれまでだが。


「そう言われると、頃合いかもな」


 旅に出てから年が半分も回り切らないうちに、魔王を討ちに出るとは夢にも思わなかった。そもそも、魔王という絵空事の存在にも思える悪役の実在すら、半信半疑だった。

 相変わらず俺は火力不足もいいところだ。もうレベルは五〇を超えているのに、大型の魔物を倒すために、丸一日消費しかねない雑魚だ。コウヤといい、ディーといい、リディアといい、俺は運が良い。


 魔王をはっ倒しに行くとなると、攻撃力の確認が必要だ。俺ほどではないにしろ、防御力が高い可能性がある魔王に対抗するためには、策を練っておく必要がある。


「そういえば、お前らのレベルって今いくつなんだ?」

「確か、六三ぐらいだったかな」

「私は四〇ですね」


 高すぎんだろこの異世界人。俺が死にかけて漸く五〇なのに、軽くそれを超えてるとか、俺が死の淵を彷徨ったのは何だったんだ。レベル上げに一生をかけた奴の公式記録が八八だ。上限がどこかは知らないが、実質の上限はそこ(・・)ということになっているが……こいつは普通に超えそうだな。


 二人に別れを告げた俺は、リディアの捜索を始める。この世界には、いつかコウヤが言っていた、携帯電話なるものが存在しないので、自力で探し当てるしかない。

 リディアとディーの二人に関しては、割り当てられた部屋の所在をしらない。特に、元より神出鬼没のディーは諦めている節がある。


 道行く従者たちに、嫌な顔をされながら二人の所在を問うものの、誰も彼も知らないと答えるばかりだ。

 俺個人では無害だと主張しても、きっと理解されないのだろうな。

 何の情報も得られないまま、時間が経過していく。明日になればあいつらも顔を出すだろうし、今日のところは帰るか。

 そう思っていた矢先。


「貴様、こんなところで何をしている」

「また何か、怪しいことをしでかそうとしているのではないでしょうね」


 シリアルキラーの疑い晴れやらぬ双子が現れた。しかも、都合の良いことに、二人の手には、また何かやらかしたのか。それぞれ首根っこを掴まれた馬鹿がぶら下がっていた。


「そこの二人を探してたんだよ」

「そうか。ならくれてやる」

「くれぐれも、厄介事のないように」


 相変わらず感情を感じさせない表情のまま、二人を突き出した双子は、そのまま後方へと消えて行った。執拗に、念を押してから。

 呻く二人を見下ろし、もしくは見下しながら、俺は二人に問いかけた。


「お前らのレベルはいくつだ?」

「……い、いや、その前に、聖女ちゃんのとこに頼む……あいつら、容赦を知らねェ……」


 どの面下げて言っているのか分からない。原因も原因、謹慎の原因の九割を占めるこいつのせいで、俺たちは出発できていないのだ。頼むのなら、しれっと自分にだけ時間魔法を使って、回復――厳密には復元――しているディーに頼め。


「答えたら回復魔法をかけてやる」

「俺は四九だ」

「即答できるならしろやボケ」


 一応、約束は約束なので、初級回復魔法、〈エンゼルパウダー〉をかけてやる。


「ケチな野郎だな」


 なけなしの魔力で回復してやったのに、礼もなしとはどういう魂胆だ。


「回復魔法は、かけたからな」

「あン? こっふァ!」


 脇腹に回し蹴りを叩き込む。間抜けな声を上げた馬鹿は、そのままその場で崩れ落ちた。

やはり攻撃力も速さもない俺だと、この程度が限界か。


「お前、リディアには容赦ねえな」

「幼馴染だからな」


 無理矢理止めないと止まらない。リディア・スピリティアという男とは、そういう男だ。

 今回は止まる止まらないではなく、単純に腹が立った。積もり積もった鬱憤が、さっきの一言で噴火したのだ。自業自得だ。


「で、お前のレベルは?」

「はっ、聞いて驚け。一一五だ」

「思ってたよりは低いな」

「えっ」


 なんせ五〇〇年も前の人間だ。歳を重ねるだけでも、前人未到故に十分な経験値が入る。加えて時代錯誤も経験値に入り得る。俺の予想では一五〇は固いと思っていたが……となると、魔王がそれぐらいだろうか。

 「嘘だろ……」とでも言いたげな表情のディーを見ていると滑稽だ。まったく、らしく(・・・)ない勇者だ。五〇〇歳を超えているのに、コウヤ以上に人間臭い。


「と、すると、攻撃力は何とかなるか」

「ん? 何の話だ」

「魔王の防御力が高かった時のことを考えててな」


 レベル一五〇なら確実だったが、まあ一一五でも何とかなるだろう。最悪、土下座してでもシリアルツインズから防御無視のナイフを借りて、リディアにアタッカーを任せればいいか。


「その心配なら御無用だぜ」


 何故か自慢げなディーは、胸を張りながら言った。


「魔王の防御力は、二三〇だ」

「……その実は?」

「攻撃と魔力ガン振りの、俺とまったく同じステータス配分で、俺よりレベルが高くて、俺より魔法作成に優れて、魔法名の宣言なしで魔法を放てる化け物だ。俺が魔法において、属性面でバグを起こしてるなら、あいつは純粋に魔法にバグが起こってる。そんな奴だ」


 詠唱キャンセルなら俺もできるが、魔法名の無宣言ができる奴がいるのか……そもそも、そんなことができること自体初耳だ。その脅威は、心を読まない限り、相手が事前に放つ魔法が読めないということか。

 俺からすれば、さして脅威じゃあないな。

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