勇者と末裔と異世界人と 3
「さあ、次は貴様だ。アマガサキ・コウヤ」
「えっ? 僕もですか?」
「当たり前だろう。ノイを撃退したとはいえ、貴様とクリアも襲われている。ライブだけでは不等であろう」
この王は、ともすればコウヤにも匹敵する、お人好しなのではないだろうか。
しかし、コウヤには願いらしき願いがあるようには思えない。強いて言うのなら、俺と同じ魔王の討伐許可だろうが、それは俺が願ってしまった。俺は、コウヤがどんな自分を出すのかが楽しみで、俺は耳を澄ませていた。
「ライブに、ライブが満足に武具の開発ができるような環境を与えてください」
「――は?」
何考えてんだこいつ。おかしいだろ。おかしい、おかしい。それは、自分の願いじゃない。
「僕には願いがないんだ。だったら、友達のためにその権利を使うのは当たり前だろう?」
「当たり前なわけあるか。たとえどれだけ仲が良くとも、たとい幼馴染だとしても、誰かのための欲望が、存在するはずがない」
「おいライブ。こいつもしかすっと、ホモか?」
取りあえず大馬鹿は蹴り上げた。
俺たちは元々敵だった。知り合って日が経っているわけでもない。どんな環境で育てば、どんな経験をすれば、そんな思考回路になるのかが、まったくもって理解できない。
俺の体が人間ではないのなら、お前の心は人間ではない。
「なんと言われようとも、これが僕の在り方だ。物心が付いてから、ずっと続けてきたんだ。だから、こうするしかない」
反吐が出る。自己犠牲の果てに何がある。今、ここで命果てるのなら分からないでもない。だが現実は違うだろう。これからも、アマガサキ・コウヤという人間は続いていく。なのに、どうして、自分に必要なものすら分からないんだ。
こいつにはこれ以上何を言っても無駄だ。それ以外に、願いの使い道が分からないと言うのなら、俺がとやかく口を出すべきじゃあない。自分で自分が分からない奴が、他人に諭されて自分を見つけられるはずがないからだ。
「それで、いいのだな」
「ええ。お願いします」
異世界人、アマガサキ・コウヤは、他人を思い遣るあまりに、他人すら見えていない。
◆
王、もといコウヤから鍛冶場と潤沢な材料を与えられた俺は、それはもう引きこもった。
日がな一日中、鍛冶場に籠り、ああでもない、こうでもないと独り言をぶつぶつと漏らしながら、ひたすら試作マシンガンを造り続けていた。
食事も一日一食、睡眠も二日に一回のみと、体をぶっ壊す気満々の生活リズムで開発に臨んでいる。そんな俺を、ソピアは仕方がないと割り切っているのか、文句のひとつも言ってこない。
正直、愛想を尽かされても仕方がないと、自分でも思う。
そんな生活を、しばらく続けていた。
「よォライブ。やってっか?」
「気が散るから帰れ」
時折、馬鹿の大元と、それを見事に遺伝した二人が、冷やかしにやって来る。と言っても、ディーはライトニングの影響で、リディアは俺の影響で、鍛冶においてはそこそこの技量を持っているので、真面目に手伝う気がある時は役に立つ。
「そろそろ完成ってとこかねェ。しかし、テメェの技量には恐れ入るぜ」
「俺が役に立つのは、これぐらいだろ」
「いンや、ソピアの相手もあるぜ。あいつ、お前がここに籠るようになってから、毎日毎日、俺にテメェの様子を聞きに来るからなァ……」
ソピアは割り切っているのではなく、リディアに偵察を頼んでいたのか。俺があまりにも無茶をするようなら、止めるようにも言っていたかもしれない。そう考えると、ほぼ毎日二人が来ていたのには、俺がいつ倒れてもいいように、という意味合いがあったのだろう。
自分が行っても何にも成らないことを分かっていたから、渋々この二人に任せた。
「しかし、久々に会った兄貴に対して、何の言葉もねェのは辛ェなァ……」
「自業自得だろ。お前はソピアに、一度でも兄貴らしいことをしたか?」
キリナイトを溶かしながら、リディアを諭す。家庭内のことは詳しく知らないにしても、家庭外、それもリディアがいた間のことなら、知らないことはないと言ってもいい。幼馴染という称号は伊達ではない。
そして、この馬鹿はそういったことを一度もしていない。口が悪く、トラブルメーカーで、うるさくて、それでも悪は見逃せず、弱者を見過ごさない。勇者らしくはあっても、兄ではなかった。
「なーァー、ライブからも言ってやってくれよォ。『兄貴は大切にしろよ』ってェー」
「何を今更シスコン拗らせてんだ」
旅で再開した幼馴染がシスコンになってた方の気持ちも考えろ。
「シスコンじゃねェよ。健全な兄貴だ」
「はいはい健全健全」
「かーっ! 世知辛ェ! 世知辛ェなァ!」
騒ぐだけ騒いで、リディアは鍛冶場を出て行った。
あいつ、マジで何しに来たんだ。
まあいい。あいつがいなくなったおかげで、開発に集中できる。俺の防御力が高くとも、他人はそうではない。万が一にも、液体になっている金属を浴びれば大惨事だ。
◆
王が世界中のギルドに魔王討伐の依頼を発布したのと、俺がマシンガンを完成させたのは同日だった。俺がマシンガンの開発を始めてから、実に二〇日以上が経過していた。発布はもう少し早くならなかったのかと思ったが、他の国との兼ね合いもあったのだろうと、俺は一人で納得した。
俺は完成したマシンガンをまずコウヤに見せた。曰く、俺の造ったマシンガンはコウヤの世界のものとほとんど形状が変わらないらしい。やはり、技術を突き詰めると同じ所へ行きつくのだろう。
「てわけで、三人は射撃訓練に付き合ってくれ」
「ああ、いいよ」
「アン? テメェ、俺に当てられると思ってンのか?」
「弾止めたら当たらないって、分かるか?」
男三人に、マシンガンの練習台になってもらおうと声をかけると、この返しだった。口調こそ違えど、馬鹿二人の中身はほとんど同じものだと気付いたのはこの時だ。
得体の知れないものに対する自信が、どこから湧いてくるのか。ましてや、ディーは銃すら知らないだろうに。
「じゃあ、三数えたら撃ち始めるから、準備しとけよ」
三。コウヤは魔法を発動する準備を始め、リディアは屈伸、ディーは欠伸をした。
二。コウヤは発動準備を終え、リディアは軽く跳び、ディーは伸びをした。
一。コウヤは深呼吸をし、リディアはいつでも動けるように、ディーは舌を出して煽った。
そして、〇。
「は? えっちょっ、弾多っ!?」
最初に狼狽えたのは、やはりと言うまでもなくディー。何の準備もできていなかったのはもちろん、時空間魔法の特性がマシンガンとは非常に相性が悪い。
時空間魔法、正確には、時間魔法と空間魔法。確かに強力な魔法だが、いくつか欠点もある。まず、ディーはその二つの魔法以外を使えないということ。そして、もうひとつ。時空間魔法はひとつの魔法につき、対象をひとつにしか限定できない。一対一のアドバンテージ以外、取りようがないのだ。
だから、マシンガンのような、物量で圧す攻撃は奴の弱点と言える。
「それ銃!? マジ!? 俺が知ってる銃と違う!」
「最新式だ」
特に狙いを付けずに、ディーの行動を予測して銃口を向ける。コウヤ曰く、偏差撃ちなる技術らしい。ディーが本気の速さで回避行動を取れば、俺の目では追えなくなる。なんせ、俺の速さは一三〇。対してディーはレベルが俺と文字通り桁違いで、防御にボーナスが振られない型だ。それでも、適当に残像から位置を予測すればいいだろう。
特に狙われていない二人は、離れたところから傍観している。
「はー、最近の武器はスゲェな」
「……今更だけど、マシンガンに射撃訓練っているのかな……」
まあ、それは俺も薄々気付いている。この射撃訓練の真の目的は、鍛冶場に騒ぎに来た馬鹿に対する報復だからな。だからもちろん、他人事だと思って棒立ちでいるリディアにも、銃口を向ける。
「そう言うなら、訓練らしい訓練を始めようか」
「……え?」
マシンガンは、二つある。




