抱腹九死 8
「ちょっとちょっと。コウヤ、来ましたよ」
まず俺を見つけたのはうざったい聖女。こいつがいることは分かっていたが、やはりこいつがいると気が滅入る。きっと、根本的に相性が悪いのだ。
クリアがコウヤを呼ぶと、部屋の奥からコウヤが姿を現した。そして、こっちに来るようにと、ハンドジェスチャーを使った。俺たちが使っていた部屋の造りとまったく同じだったので、俺は先日使っていた窓際の椅子に腰を下ろした。
「……助かった。礼を言う」
助けられた時はまず礼を。母さんからしつこく言われ続けた教訓を思い出した。それを聞いた二人は頷く。クリアが何か、恩着せがましいことを言ってくるかと思ったが、それもなかった。
「君のお礼を無視するようで悪いけど、ひとつ、質問させてくれないか?」
いつも通りの穏やかな表情ではなく、神妙な面持ちで、コウヤは俺に問いかけてきた。そんな、問われるような謎は持ち合わせていないが、雰囲気に呑まれて縦に首を振った。
「ライブは、本当に人間かい?」
「は?」
何言ってんだこいつ。
「問われるまでもなく人間だ。普通だ、とは言わないが、ロイド・ラウンドと、シェリア・ラウンドの息子だ」
嘘が下手くそな両親に限って、俺が養子だということはあり得ない。親父と俺を見比べて、親子でないと言い切ることができる奴などいないだろう。三白眼から、姿勢、声に至るまでが俺と似通っている。人の子は人だ。
確かに、俺はおかしな点が、大きすぎる点が一点あるが、それだけだ。
「ストレートに言いますけど、あの夜に、貴方は死んでいるべきだったんですよ。ナイフで腹を裂かれ、足を貫かれ、夥しい血液を散らして、失血死で」
「もちろん、君が今生きている要因のひとつには、ディーさんの存在がある。でも、それを計算に加えても、君の命は、頑丈すぎる」
現場を客観的に見ることができなかった俺には、それがどれだけの特異性を孕んでいるのかが分からない。だがそれは、クリアの態度から推し量ることができた。
しばらく腕を組んで思慮に耽る。
そして、長い一呼吸。
「んなもん知るか」
一言の元に、コウヤの疑問を斬り伏せた。
俺が頑丈なのは今に始まったことではない。止まることを知らない俺の防御の数値が、防御の範囲が何処まで及んでいるのかは、俺すら把握しきれていない。死の淵を彷徨う、神と出会う、これらの経験を経て、俺のレベルは約一.五倍にまで跳ね上がったのだから。
知らないことをいつまでも追及されても、堂々巡りになってしまうだけなので、今度は俺から質問を投げかける。
「話を変えるが、あの日に新しい銃の機構を思いついたんだが、お前の故郷にあったかどうかを聞かせてくれ」
「どんな銃?」
コウヤは知っていると言っても、他人から又聞きしただけの素人なので、特徴や目的などをかいつまんで教えた。
「それ、本当に自力で考えたの?」
「当たり前だろうが。他人のものを丸ごと模倣して何になる」
武具の製作は、自分の案で作ってこそ意味がある。アレンジすらせずに、思考停止で鉄くずを叩いているだけでは、技術の進歩はない。まあ、俺はそんな大層なことを考えているわけではない。俺は、俺が旅をしやすいように、金を楽に稼ぐことができるようにと、自分の技術力を磨いているのだ。
「説明の通りなら、マシンガンだね。えっと、引き金を引いている間、連射できるんだよね?」
「ああ。俺の予測が正しいなら、砲身が長いだけ弾が速くなる」
「いくら銃という基盤があると言っても、それは十分な革新だよ!」
「そうかい」
前述の通りに、俺は技術革新には興味が薄い。金が入ればそれでいい。だから、コウヤのこの称賛はあまり意味のないものだ。褒めるぐらいなら金をくれ。
「そんなにすごいことなんですか?」
技術というものに触れる機会が少なかったであろうクリアが、話に置いていかれ、首を傾げる。俺は例を出そうとも思ったが、クリアの知る技術に何があるかが分からないため、口を噤んだ。
「すごいよ。魔法で例えるなら、新しい魔法を造ることと同義さ」
「ええっ!? こんな生気のない人がですか!?」
一度死にかけた人間に対する態度も相変わらず、罵倒は舞踏のようだった。
しかし、これでクリアの心境もおおよそ理解できた。魔法の開発が難しいとはソピアから聞いていたが、難度では武具の開発と同程度なのか。
まあ、一般人と才能人を比較するのはナンセンスだ。俺が武器を造る才能があるだけに、そんなに簡単に思えてしまうのだろう。
「じゃあ、俺は戻る」
「ああ」
今回、コウヤを訪ねた用はこれで済んだ。マシンガンとやらの説明は後で受ければいい。
そそくさと発とうとする俺の心境を察したのか、コウヤは短く返事をするのみだった。
いざ戸を前にして、最初に何と声をかけたものかという、くだらない思考が生まれる。「ごめん」でもなく、「ありがとう」でもない。だがしかし、開口一番に愛の言葉を投げるのもおかしい。俺は言わば、退院したのである。
ノブに手をかけたまま、しばらく思考の海に潜っていると、向こう側から戸が開いた。
「あっ」
何と格好の付かない一言目だろう。合わせる顔がなくなり、明後日の方角を向いてしまう。
苦い顔をする俺に、ソピアは薄い笑みを浮かべて、
「おかえり」
俺の右手をそっと握った。




