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カウントアップが止まらない  作者: 白辺 衣介
一章 勇者の末裔と逸般人
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勇者の末裔と逸般人 1


「さー、よってらっしゃい見てらっしゃいー。安かないが、いいもん揃ってるよー」


 俺が声を上げて客寄せをしていると、ふいに後頭部を叩かれた。背後にはうちの店があるだけだから、犯人は両親のどちらかということになる。

 首を引っ込めつつ振り返れば、やはりそこには母がいた。母は額に青筋を浮かべていた。はて、何か俺はしでかしただろうか。思い当たる節が多すぎて特定ができない。


「客寄せはもっと声を張り上げる! やる気あんの!?」

「あるわけないだろ」


 即答に返って来たのはもう一度の張り手だった。


 旅人や冒険者が最初に立ち寄る街として有名なライン。その街に居を構える、鍛冶屋ラウンドが俺の実家だ。

 腕は悪くないのだが、何にせよ値が張る。技術を売っているのだから、最低限の線は端くれの俺にも分かる。それにしても高い。初心者がおいそれと買えるような値段では決してない。

 いつまでもこの街に居座っている変人が固定客としてついているが、それだけでは到底食っていけない。うちの主な収入は、大きな組織からの大量受注だ。それにはもちろん、客寄せなんぞ必要ない。ということで、俺は非常にやる気がないのである。


「あれだけ旅に出たいって言ってた悪ガキが家を継ぐって言い出したと思ったら……」

「俺だって出られるもんなら出たいっての」


 大昔の魔王の遺産、魔物。今の時世では、それを狩って生計を立てることが最も効率が良い。そうして生きていくには、もちろん攻撃力というものが必要で。

 レベル二〇の攻撃力は三〇〇から四〇〇が一般的だが、同じレベル二〇である俺の攻撃力は七〇。どこからどう見ても雑魚だ。その代わり、防御が一二万オーバーなんていう、見たことも聞いたこともない数値になっている。いや、まあ、俺自身のステータスなんだが。

 原因はレベルアップボーナスの存在にある。レベルが上がった時、ランダムなステータスに、一.五倍のボーナスがランダムにかかる。個人によってどれにかかるかの確率は変わってくるが、あくまでもランダムだ。


 俺は、防御にしかレベルアップボーナスがかからない。


「そりゃ運が悪かったね。ほれ、客引きしないなら引っ込んで新しい武具の開発でもしてな」

「あいよ」


 何をどう考えても異常な俺のステータスをただ一言、「運が悪い」と吐き捨てたお袋は、俺に代わって客引きを始めた。

 お袋に言われた通りに引っ込むと、営業用の空間から生活のための空間に部屋が切り替わる。家屋を改造して立ち上げた店らしいので、一階の半分は受付用になっている。店側は大通りに面し、家側は普通の通りに面している我が家は、それなりに立地が良いと言える。


 自室へと戻って来た俺は、早速机の上に放置されていた銃を手に取った。もちろんただの銃ではない。そもそも、鉛玉を打ち出す本家は危険だということで、お国から製造の禁止を食らっている。

 これは魔力を弾丸として撃ち出す銃だ。一部の金属部分を、魔力の伝導率が高い別の金属と、魔力と反発する金属に、そっくりそのまま挿げ替えただけの試作品だが、なかなかどうして完成度が高い。一定以上の魔力を込めると駄目になる欠点を差し置いても、性能は親父の墨付きだ。加えて、製作者の俺にしかできない芸当だが魔法を込めることも一応できる。


「さて、ここからどうするかな」


 完成品の隣に散らばった部品たちを眺めながら腕を組む。親父に頼んで魔力を込めてもらったところ、中級魔法よりも多く魔力を込めると、暴発することが分かった。キャパオーバーした分だけ、反動も大きくなると俺は見ている。

 しかし、これはこれで使い道があると俺は思う。例えば、馬鹿みたいに魔力が多い奴がこれを使えば、ちょっとした手榴弾になる。引き金をどうやって引くのかは知らん。


 せめて、銃そのものがもう少し研究されていれば話は進むのだが、誰も彼もお国を恐れてそれをやろうとしない。技術者としては屑以下だ。技術の発展は反逆から。そう言い切った昔の人は偉いな、まったく。

 とにもかくにも、動き出さなければ何も始まらない。金属の割合を増やすところから始めよう。


「ライブ! ソピアちゃんが来たよ!」


 袖をまくって意気込んだ出鼻を挫かれる。我が母のはずなのに、どうして息子のやる気を察することができないのか。母だからこそなのか? わざとやっているのか?

 まくった袖を早速戻しながら店側に戻ると、そこには母の言った通り、青い少女が立っていた。彼女はソピア・スピリティア。いわゆる勇者の末裔で、俺ほど尖ってはいないが攻撃よりのステータスだったはずだ。最後にソピアのステータスを見たのは二年ぐらい前だから、今はどうだか分からない。


 学校から帰って来たばかりなのか制服のままで、いつも通りのジト目だ。最近は忙しいのかあまり会っていなかったから、やけに新鮮に感じる。


「久しぶりだな」

「久しぶり」


 余計なこと以外を喋らないのは相変わらずのようだ。俺の言葉に返答したソピアは、そのまま続けて口を開いた。


「ライブ、私の旅に着いて来て」


 言葉を失った。人間は余りにも驚くと、何もできなくなるのだと知った。きっと、今の俺は口を開けて、目を見開いて、相当に阿呆な顔をしていることだろう。

 それは当然と言っても差し支えない。俺が旅に出てできることと言えば、(デコイ)になるか技術を売るかの二択だ。特に後者の才能が目まぐるしい俺は戦闘において置物同然だ。


 驚愕から少し落ち着き、どう返答すべきかの思考を遮ったのはまたしてもお袋だった。


「本当にこんなのでいいの!?」

「おい」


 言わんとすることは分かるが、腹を痛めて産んだ実の息子に対して「こんなの」とはなんだ。ソピアもソピアで、無言で頷かないでくれよ。せめて問題の発言は否定してくれよ。


「ライブじゃないと、駄目」


 はっきりと言い切ったソピアは、真っ直ぐに俺を見ていた。確かに、ソピアのステータスの伸びを予想して、前衛に置物がいると戦いやすいのは間違いない。

ソピアのこの申し出は、俺にとって願ったり叶ったりだ。三年間鍛冶屋をやってきたが、旅に出たい、冒険者になりたいという欲求が尽きることはなかった。

 しかし、一度家業を継ぐと言ってしまった以上、俺からの撤回は筋が通らない。それに、親にわがままを言うには俺は年を食いすぎている。俺は隣に立つお袋を一瞥した。


「条件を付けるけど、いい?」

「構わない」

「五年後のあんたら二人の貯蓄が、うちの貯蓄よりも上回っているならそのまま旅なり冒険なり好きにやりなさい。でも、下回ったならライブを連れて帰って来なさい。こんなのでも、武具を造る才能は人一倍以上にあるからね」


 今のうちの貯蓄、一億ルプを五年で貯めることすら不可能に近い。加えて、今は魔王が再臨云々で世間が騒ぎ立っている。下手をすると二億ルプを超えるなんていうこともあり得る。

 はっきり言って、いくら冒険者稼業でも不可能に近い。だが、ソピアは熟考することもなく頷いた。


 ……まあ、五年なら夢を見る時間には十分か。


「そういうわけだから、ライブ! しっかりソピアちゃんを守りなさいよ!」

「言われなくても、女は守る」

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