第一話・異世界へ、お一人様(除け者様)ご案内
『ゴァァァァッ!!!!!!』
「っ!くそが!!」
目の前に迫るライオンとクマを合わせたような化け物の拳を、ギリギリになりながらも避ける。
……生憎とこの世界に来たばかりの俺には攻撃する方法が分からず、手段も無いため避けることしか出来ないが、避けている間にも化け物との距離を離そうと試みる。
だが、そんな事を知ってか知らずか、化け物はすぐに間を詰めて殴りかかってくる。
そんな事をかなりの時間続けていると、目の前に洞穴らしきものが見えてくる。入り口はかなり狭いが、俺が入れないわけではない。
化け物との距離を一気に離し、入り口後2mといったところでスライディングを決めながら洞穴に入る。
化け物が入り口をこじ開けようと何度も殴ってくるが、予想以上にこの洞穴の周りは堅いらしく、洞窟の中に揺れと音が響くだけですんでいる。
……しばらくすると、音は止み、揺れも無くなっていた。化け物がいなくなったのだろうか?
そんな事を考えながら入り口からそーっと頭を出し周りを見てみる。すると、思った通りに化け物の姿は見えなくなっていた。
「はぁ……、疲れたな……」
落ち着いたと分かると疲れがドッと押し寄せてきて、気づくとため息をつきながらそんな事をこぼしていた……こんな事になった原因を思い出しながら。
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俺の名前は『水野 雅也』17歳の高校2年生だ。学力はレベルの高い高校になんとか行ける程度であり、行った高校が高校だったために日々の勉強に頭を悩ましている毎日である。
それが起こったのは、HRが終わり、部活へと行こうとした時だった。
突然、床が光りだし、それに包まれた俺たちは気付いたら知らない場所にいたのだ。しかも、それは俺たちのクラスだけではなく学校全体のようで、かなりの人数がこの部屋、いや、ホール?の中に閉じ込められている。
中にはパニックになり、泣いてしまう者などもいた。しかしこの状況だ、怖くなるのは当たり前だ。
とりあえず、一人だけでも冷静になり、現状を整えようとした時だった。
『──いきなりで申し訳ありませんが、一旦落ち着いてください』
鈴の音を転がすような綺麗な声が響き渡る。その綺麗な声に、全員がどよめきを抑え、視点を一点に集める。
そこには、金髪碧眼のないすばでぃなお姉さんがいたのだ。
…………ちょっと待てちょっと待てお兄さん……いや、お姉さんか。どこから現れた?このホールには扉も何も無かったんだ。それに、あんなに目立つのなら、誰かが「あんた誰だ!!?」とか言うはずだ。
「あんたは誰だ!!?」
……今言ったね。誰だよ言った奴。……あぁ、体育教員の『ゴリラ』か……。え?本名は?いや、俺覚えてないし答えらんねぇよ。もはや生徒全員がゴリラゴリラ言ってっからコードネーム『ゴリラ』みたいなもんだろ。
「私は──『アスタルテ』の『神』。『マルティナ・ドレイグル』。気軽に『マルティナ』とでもお呼びください」
……何言ってんのこいつ?……とか思ったけど、この状態だと信じるしかねぇよな……。前、友人に見せてもらった異世界物の小説とかの展開でありそうだものな。
周りの奴は「何言ってんだ?」とか、「帰せよ!!」とか叫んでる。正直、うるさい。が、普通はそうだよな……。それに対して、あのゴリラはいくらか冷静のようだな。他の教師は狼狽えてるというのに……流石ゴリラと言っておこう。ドラミングを我慢してるんだよな、偉いぞ、ゴリラ!
「神が、我々のような人類に何の用ですか?」
そんな時、ある人物が神に話しかける。
その人物は生徒会長の『山瀬 沙耶華』。我らの学校が誇るアイドルで、3年生。全国模試1位で運動神経抜群。完璧という言葉はこの人のためにあるのだろうと友人が言っていたのを覚えている。
確かにその通りかもしれない。だが俺は知っている、ぬいぐるみが好きでよくゲームセンターに行っていることを。えぇ、俺のお財布は犠牲にしましたよ。たかが三千円で先輩の笑顔が見れるなら安いもんさ!!
「そうですね。では、説明いたしましょう」
おっとと、馬鹿な事を考えていられない。
咲耶華先輩が喋り始めた事によって静かになったホールを、神の言葉がこだまする。それによって俺の脳内も思考を真面目モードにチェンジ。
「あなた方には異世界にいって魔神を倒してもらいます。
……本来ならば私が行けばいいのですが、少し前まで封印された状態でしたので力が失われていて、あなた達を呼ぶだけでも半分ほど力を使ってしまいました。
あ、ちなみに魔神討伐中はあなた方の世界へ帰ることは出来ませんが、終わり次第あなた方の世界へと送り返しますし、それ相応の対価も用意します。
さらに、その世界に対応できるようにあなた方の世界でいう『チート』と呼ばれる能力も付けさせていたます」
すると、周りから「異世界チートktkr!!」や、「俺の時代が来たーーー!!!」などと叫んでる奴がいるが、それほどに騒ぐことなのだろうか?
しかし、騒いでいるのは一部の奴で、他の奴らは「帰らせてよ!」などと喚いている。
その様子の中、神は黙って俺たちを見渡した。すると、なぜか俺がいる方角で視線を固定、更には凝視してくる。
……もしかして俺、嫌そうな顔をしていたか……?いや、他の誰かが何かしてたんだよ、そう、俺は悪くない。
そう思いながら内心冷や汗ダラダラの俺。すると、神は先ほどとは違う微笑を浮かべながらとんでもない発言をする。
「ただし、1名を犠牲にしなければ『チート』は与えられません」
瞬間、場の空気が凍りついたような気がした。
「あ、犠牲って言っても死ぬわけではないですから安心してください。皆さんと違う場所にチート能力も持たずに1人だけ転移するだけです。……まぁ、その後に死ぬ確率はかなり高いですけどね。
では、今から5分以内です。よーい、ドン!」
……訳が分からない。何故こんな事をする必要があるんだ?魔神を倒したいんだったら、少しでも戦力は多いほうが良いはずだ……。チート能力も渡さないってことは殺しに行かせるようなものだろう。
……いや、これは脅しなんだ。言うこと聞かない奴は生贄と同じ運命を辿らせる。と、実際に生贄を目の前に出すことで選択肢を狭めさせてるんだ。絶対に「はい」と言わせるために……。
「……なぁ、聞いてくれるか?」
ざわついてきた場をおさめるように、友人である『武藤 真也』が声を出す。クラスどころか、同じ学年なら知らぬ人は無し、違う学年なら一目惚れ多発な、カリスマ性を帯びた人物のその声は不思議なほど響き、周りの奴らはすぐに静かになった。
「こういう場合は、普通は何も出来ない奴が選ばれる」
「だ、だったらそんなの選ばれるのは決まって──」
「いや、あえてそうしない。なぜならそうやって選ばれた奴は後で力を持って俺らに復讐にくるんだ」
「だったら、どうすれば……?」
……なぜだ?なぜ嫌な感じがするんだ?先ほどから背中を通る冷や汗が気持ち悪い。チリチリとした感覚が俺の足裏をくすぐり、力が入らなくなる。神の方をチラリと盗み見るが……あいつは何もしてはいない。ただニヤニヤしてるだけだ。じゃあ、何で──、
「それだったら、いたって普通の奴を選べば良い。
そう、例えば雅也とかな」
「──……は?」
全員が一斉にこちらを見てくる。嫌な目だ。自分が助かるために他人の事など構わない……そういった目。
「君達は何を言ってるんだ!」
俺が何も出来ずにいると、沙耶華先輩が怒った口調で声を上げる。やはり生徒会長という事もあるのだろうか、その表情は落ち着いている。
「何をって、犠牲者を決めてるだけですよ」
「君は雅也の友達だろう!?何でそんな簡単に友人を裏切れるんだ!?」
「は?会長こそ何を言ってるんですか?俺はこんな奴を友達だと思った事ありませんよ」
その言葉に俺の身体は動く。……俺は、自分でも何をしたかわからなかった。気づけば、友人と思っていたクズは地面に倒れていた。
「……ほら、皆も見ただろう?こいつは自分が犠牲になると分かったら友達でも殴るんだぜ」
こいつの言ってる意味が分からない。友達ではないと言っておきながら、友達でも殴るんだぜ。って、どんどけ俺を犠牲にしたいんだよ。
周りの奴もだ。なぜ納得するんだ?矛盾してるというのに何で俺の事をそんな目で見るんだ?……いや、それも違うか。ただ単に怯えているんだ。逆らえない恐怖から逃れようとしてるだけだ。何も考えずに、自分以外の誰かが犠牲になるのを待ってるだけだ。
「おい、真也は何を言ってるんだ!?ほら、他の先生も止めてくださいよ!!」
ゴリラが何か言っている。……そういえば、今更なんだが『熊谷 治郎』とかいう名前だったな。敬意を込めてただのゴリラじゃなくてこれからはクマ先生と呼ぶか……。今関係ないけどね。はは、俺も冷静じゃなくなってきてるぞ、マジ笑える。
しかしながら、クマ先生の言った言葉は他の先生に届きはしない。なぜならーー、
「そうだな、1人くらいなら別に……」
「これは仕方のないこと、これは仕方のないこと」
もうすでにおかしくなってるからな。
まともなのは沙耶華先輩とクマ先生ぐらいだろう。周りの雰囲気にビビっているから冷静ではないがな……。俺も多分狂ってきてると思う。屑を殴っても罪悪感がなかったあたりがそうだろう。てか、物事を客観的に見過ぎ、自分のことなんだからもう少しまともに考えようぜ俺。
纏まらない思考を必死に纏めようとふざけていると、目の前から話を聞いていた神がこちらに歩いてくる。
「じゃあ、賛成多数で水野 雅也君、あなたが犠牲でいいですか?拒否権は無いで「別にいいからニヤニヤしながらこっち来んな、気持ち悪い」へぇ……。その態度、やはり…… 」
「は?なんて言った?」
「いいえ、なんでも」
うわぁ、何この神。気持ち悪いって言ったら更にニヤニヤしだしたし、絶対小声でなんか言ってたし……もう最初の美人っていう印象が台無しだよ……。
あ、沙耶華先輩が近づいてきた。……守ってもらおうとしたのに勝手なことして本当に申し訳ないが、そうでもしないと先輩が危なかったからね。うん、結論は全部あのクズが悪い。
あ、あと言いたいことが数点。
「……先輩、クマ先生とあなただけがまだ狂ってはいないです。この後、俺がいなくなっても神の言うことは鵜呑みにしないでください」
「ク、クマ先生?」
「別名ゴリラのことです」
「あ、あぁ、分かった。熊谷先生にも伝えておこう」
あれれぇ、おっかしいなぁ?伝わってるぞぉ?まぁ仕方ないな、ゴリラだから。こうなったのも、全部あのクズが悪い(2回目)。
「あとは、他の生徒、先生が言うことも同様です。特に先輩なんて力を持った奴らが襲う可能性があります。そこは気を抜かない方がいいです」
「そうか……。ふふ、君は自分の心配はしないんだな」
「してないわけじゃないです。けど、何故か今は不思議と落ち着いてるんですよ。多分、こんな状態じゃなかったらここにいる全員を殴ってますよ」
だって脳内では某ちびっこ名探偵のマネをしてますし。ポイントは相手にイラっとさせるように鼻に着かせる感じで。これで君も少年探偵団だ!
さて、伝えることはこんなもんかな?クマ先生が不満そうに周りの奴らを見ている。俺のことを心配してくれているのだろう。……なんかごめんね、今までゴリラって呼んでて。でも生徒会長にはゴリラで伝わるんだよ、不思議。
「じゃあ、飛ばしますよ?」
「……え?ちょ、説明とかは?」
ちょっと待って、説明なし?所詮犠牲者である俺に説明する必要はないと?
「犠牲にされたぼっち様、ごあんなーい!!」
悪意に満ちた声とともに、突然足元に開いた穴に俺は呑まれていってしまう。その時に、|クズゴミカスオタンコナスカポンタン《しんや》の顔が笑っているのに気づく。そのお返しにと、俺はこれまでの最高の笑顔で中指を立ててやった。
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そして、変な場所についてすぐ、イラつきをそのまま叫んでたらさっきの化け物が来て、追われてた。という訳だ。本当に何やってんだろうね、俺。
「……にしても、ここはどこなんだよ」
そう言いながら入口から顔を出し、辺りを見渡す。
「ジャングル……いや、森か?まぁ、どちらにしろ自然が多いから近くに食べ物と飲み物があるか探さないと……」
そして、洞窟の奥まで一旦戻り、使えそうな物を自分の鞄から探す。洞窟は思ったより明るいため、手元などがよく見える。
そして、鞄は即行で部活に行こうとしていた時なので、運良く持っていたのだ。他にも数名、持っていたのは見たが、それでも俺の方が有利だろう。なぜなら、
「いやー、天文部で良かったー」
そう、天文部だからである。鞄から取り出したのはランタンとマッチ。そして、軽食用のパンと2本用意してあったペットボトル。後は毛布なども入っている。
今日は金曜日だったため、学校に泊まって星を見ようという話になっていた。だから教科書などは机の中に入れ、必要な荷物だけ鞄に入れていたのだ。
本当に運が良いというか、悪いというかよく分からない状態である。
「いやー、本当に部長と天文部作った人には感謝だわー」
とりあえず、毛布を下に敷き、そこに座る。それだけで不思議と気持ちが落ち着くのだ。
「にしても、異世界か。確か、そういうのって大半は『チート』とか『能力』があるんだよな……。
あとは、『ステータス』だったっけか──って、何だこれ?」
かなり前に友人(屑ではない)が話してた内容を思い出していると、いきなり目の前に透明のプレートが出てくる。
「うわ、何だこれ?浮いてるし。『マサヤ・ミズノ』って、俺の名前じゃねぇか。しかも、Lv・HP・MP・攻撃力・防御力・素早さ・精神力・LUKって全部ゲームみたいじゃねぇかよ。……にしても、何なんだよこのステータスは……」
そこには、
『マサヤ・ミズノ』
Lv,1(固定) 職業:従魔師
HP:5000/5000
MP:infinity
攻撃力:F
防御力:D
素早さ:E
精神力:C
LUK:S(日によって変動)
魔法適正:テイム・補助魔法・???・???・???
【スキル】
・テイムLv,10 ・命令Lv,10 ・鑑定Lv,10
【オリジナルスキル】
・従魔擬人化+獣化 ・異世界言語+読み書き
【称号】
・世界に1人の従魔師
……これは、何というか……最低なんだろうな……。
どうも、帰ってきました。
本当にお久しぶりの方はいらっしゃるのでしょうか?大多数が初めましてだと思います。その方達は前作を見てください。自分のカスっぷりが分かるので。
とまぁ、あまり書くこともないので、軽く事情を説明します。活動報告を見てください!以上!!
嘘ですよ?いや、見て欲しいことは見て欲しいですが、これはちゃんと言うことなので書かせてもらいます。
自身は前作の更新を停止してから一年以上もの間ダラダラしてました。結果、ロクな改稿もせずに初期となんら変わらない形でリメイクといって出すことになりましたが、それでもこの作品は最後まで書き続けることを約束します。
どれだけ時間がかかろうが、時に失踪しようが私のアカウントは永久に不滅です。それと感想もお待ちしてます。
最後に、このお話を見ていただいた方に敬意を払わせていただきまして、あとがきを終わりとさせていただきます。それでは、また次のお話で!!