Hoshizora
「E・サティ……」
イヤホンで”ジムノペディ”を聴きながら、河川敷で一人小説を考えていた。ふと呟いたのは、”サティ”とはなんとも不思議な響きだなあ、と感じたからである。
「E・サティ……」
もう一度呟いてみる。……気に入った。
夕日は既に沈みかけていて、満月が淡い群青の空に見えてきている。それは、なかなかに幻想的であった。こういう物語はどうだろうか?
ある少女の物語。彼女は月世界からこの世界へやってきた。月世界といっても、月のことではないのだ。大きな月がぼんやりと浮かんでいる、青の世界。彼女は自分が平凡な女の子と思い込んでいて、いろんな人たちと交流を続ける。しかし、たくさんの悲しみ、苦しみを味わっていくうちに、ふと元の世界を思い出し、帰りたいと強く願う……。
なんともロマンチックな物語。まるで『竹取物語』みたいだ。ふふっと一人で苦笑いをした。
月を見上げ、なぜか複雑な気持ちになり、胸が痛くなってきた。あまりに月が綺麗なせいだろうか。
「Take me to……」
ふと思い出した。私を連れてって、という意味だっけな。
今はまだ7時。今日は、妙に時間が長く感じられる。