まだつづくのー? もうあきたにゃ
子分一号の筋肉バカの腕に抱かれて、いざ敵陣のもとへ!
筋肉バカのニャーシャへの疑いはあの一件で完璧に晴れた。もうヒロインがどんにゃ嘘をつこうが、婚約破棄にはにゃらにゃいだろうけど、私はヒロインをまだ許してにゃい。
私のごはんを! ニャーシャ手製の美味しいごはんを! 下劣にゃ欲望に任せて奪おうとした! 許せん、万死に値する!
「にゃー!」
「……ああ。猫の言った通り、言われてみればメグの周りは男ばっかりだな」
まずは筋肉バカと一緒に物陰からヒロインを観察。今は攻略対象である第三王子と楽しく談話中らしい。
このヒロイン、細かいところは頭が回るのか、逆ハーといえども攻略対象を一緒の場に集めたりはしない。一人一人別の場所で好感度を上げにかかってくる。浮気とか二股とか、むだにゃ疑いを植え付けにゃいためだ。
実際は二股どころじゃなく四股五股ぐらいしてるんだけどね! キーっ! 逆ハーは自分でやるのは楽しいけど、見るのはムカつくにゃ! にゃんで私猫にゃんだ! 私も恋とかしてみたいー!
「猫、どうした。どうどう」
「フーッ」
私は暴れ馬じゃないにゃ! まったく失礼にゃ男だにゃ!
ばしばし尻尾で筋肉バカを叩く。笑いながら大げさに痛がる筋肉バカ。にゃんてことをやってたら王子に気づかれた! しまった!
「ヴォル! 何やってるんだ、こんなところで。……猫」
「テオドール殿下。失礼します。懐いて離れないものですから、つい」
にゃんだこの王子、猫のことじっと見て。見物料でも払っていけにゃ。
あー、でも確かコイツってファンブックには猫好きって書いてあったにゃ。だから猫系のグッズが好感度をアップさせるプレゼントにゃんだ。
しょーじき攻略対象のにゃかではコイツが一番どうでもいいキャラだったけどにゃ! 金髪キラキラ王子にゃんて好みじゃにゃい! 紳士的にゃ性格にゃんてスリルにかけるわ! 私の好みはもうちょっとやさぐれた感じのツンデレキャラにゃ。
「そっ、その猫をどこで拾ったんだ? そ、そそそそれは我が校のマドンナだぞ! ヴォル、お前といえども独り占めは許されん!」
「はぁ」
にゃ?! い、いつから私はマドンニャににゃったの?! そ、そんにゃ~、て、照れるにゃ~。
いやまぁ、ニャーシャ以外からも結構可愛がられてるけどね。いろんにゃ名前で呼ばれてるけどね。
でもマドンニャにゃんて本当のこと言われても……でへへ。
「……殿下。猫は照れてる様子です」
「かっ……かわいい……! ヴォル、私にも抱かせろ!」
「はぁ。どうぞ」
むっ! こんにゃろ筋肉バカ! 気安く私をほかの人間に渡すんじゃにゃい! 私はマドンニャだぞ! ……ぐへへ。
ということで筋肉バカから王子の腕に。筋肉隆々の腕からふっつうの一般人男性の腕に収まったから、にゃんというか、ちょっと不安定だ。
間近で王子を見上げる。猫を抱けたことがよほど嬉しいのか、どんにゃスチルでも見たことにゃいだらしにゃい顔で笑ってた。
うわ。気持ち悪いんだけどこの王子。
「にゃ……」
「ひ、悲願だ……悲願がかなった……!」
「にゃー!」
ぎゃーっ! ほっぺたすりすりするんじゃにゃい! 気持ち悪いにゃ!
あんたの顔好みじゃにゃいって言ってんでしょうが! まだ筋肉バカにすりすりされる方がましじゃい!
というかにゃに、この目は。さっきまであった理性の光が消えてる。これはあれだ、春ににゃると雌猫がにゃおんにゃおん言いにゃがら雄猫にすり寄ってくやつ。
えっ、発情?
「王子、猫が嫌がってます」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「王子、猫が怯えてます」
「駄目だ、我慢できない……一度この手に抱いたら歯止めが利かなくなることはわかっていたのに……! この猫を私だけのものにしたい……!」
「ぎにゃああ!!」
にゃに言ってるんだこのクソ王子?! アホか! アホにゃんか!
身の危険を感じた私は盛大に叫びにゃがら王子の腕から逃れようともがいた。ダメだ、すんごいきっちり拘束されてる!
爪を立ててみるけど王子はにゃが袖と手袋を完備しているからあんまり効果がにゃい。そんにゃ間にも王子はふふふふふと不気味にゃ笑い声をあげにゃがら私を危にゃい目で見ている。
やばい! こいつやばいにゃ! 猫にゃのに貞操の危機を感じるにゃ! ひいいいぃぃぃ! 筋肉バカ助けろー!
「あの、王子。猫が本当に嫌がってますので」
「にゃああ!」
「あっ、猫……!」
筋肉バカ! ありがとう! お前にゃら助けてくれるって信じてた! お礼に明日のごはん半分あげるにゃ! ……半分だと多いから4分の1でいいかにゃ?
王子の腕から強引に引きはがされた私はマジにゃきモードで筋肉バカの腕に縋りつく。怖かったよぉぉぉ! すりすりすりすり筋肉バカの胸に額を擦り付けるのを、王子はどこか恨めしげに見ていた。
「ヴォル……今なら厳罰には問わない。その猫をこちらに」
「何言ってるんですか殿下……。今までの前科を思い出してください。猫は可愛がりすぎると嫌われるんですよ」
「ない! 嫌われてなどない! 一度も逃げられたことなんてないぞ!」
逃げられたことあるんだ……。確かにあんにゃあぶにゃい目で溺愛されたら猫はストレス過多で死ぬ。かまってもらえにゃいのも嫌だけど、かまわれすぎるのも嫌っていう、難しい生き物にゃんだ、猫は。
あの王子、すんごい猫好きにゃのは分かったけど……猫には嫌われそうにゃ人だにゃ……。
「あ、あの、テオドール殿下? それにヴォルフラム様……」
にゃ! 空気過ぎて忘れてた!
ヒロインもそういえばこの場にいたんだっけね。談笑中にいきにゃり王子が戦線離脱、猫にかまい始めてさぞびっくりしたんだろう。
ちょっと顔を引きつらせながら寄ってきた。
「何のお話を……あっ、その猫!」
ヒロインが私を見て目を吊り上げる。え、にゃに? 不思議そうに傾げると王子が鼻血を出してのけぞった。もうヤダこいつ。
……あっ! そういや私ヒロインのブローチ掻っ攫って捨ててきたよね。もしかしてヒロイン、私の顔見た?!
にゃー! これは緊急事態! 違いますよー。私は盗みにゃんてやってません。猫違いですよー。
「この……っ、ヴォ、ヴォルフラム様? その猫、実は私のなんです。迷ってるところを保護していただいたんですね。ありがとうございます。返していただけませんか?」
「にゃーっ! にゃにゃにゃ!」
違うよ筋肉バカ! 絶対引き渡しちゃダメだかんね! 引き渡したら最後、この怖いおんにゃが私を拷問にかけて、最後には猫にゃべにして食べちゃうよー!
私は野良だから! ヒロインの飼い猫にゃんかじゃにゃいから!
「……だが猫は野良だと言ってる。それに君がこの猫と一緒にいる姿を見たことがない」
「ふふふ、猫が野良って言ってるって、ヴォルフラム様はご冗談がお好きなんですね。いつもは部屋にいれてるので姿を見かけないだけです。この猫は私の猫ですわ」
「ん? いや、それはおかしいぞメグ。この猫は学園のマドンナだ。中庭で日向ぼっこしているのを私は遠目から毎日観察していたのだ。そして今日からは私の膝で眠る猫を見ることができるのだ……!」
ねーよ。つかフォローはいいけど鼻血止めろよ王子。
おーいヒロイン。こんにゃやつ攻略してにゃにが楽しいんだよー。いい加減現実見て逆ハーにゃんてやめとけって。
「そ、そうでしたっけ……。ああ、ほんとだ! よく見れば私の飼い猫じゃない、ただの野良ですね。でもヴォルフラム様、私はどうしてもその猫に聞きたいことがあるんです」
「聞きたいこと?」
「ええ。実はその猫、今日のお昼に母の形見のブローチを私から奪って走っていっちゃったんです。きっとどこかに隠してしまったんだわ……。それを見つけ出さないといけないんです」
うるうると目を潤ませにゃがら筋肉バカを見上げるヒロイン。くっそ、あざといにゃ! でもその技は私も得意にゃんだぞ!
筋肉バカ……私、形見のブローチなんて全然知らにゃいよ……? ホントダヨ……?
「……わかってるからそう睨むな」
「シャーッ」
睨んでにゃんかにゃいやい! あざとい顔したんだい!
うるうる攻撃では惜敗を喫したが、筋肉バカは私を引き渡す気はにゃいらしい。へんっ、ざまーみろヒロイン!
「……メグ。悪いが嘘をつく人間にこの猫を預けることはできない」
「嘘? 私、嘘なんて……」
「形見のブローチは、ナーシャに盗られたんじゃなかったのか? それを何故君が持っていて、君から猫が盗んだというんだ」
「あっ、そ、それは……」
でかした筋肉バカ! にゃんだ多少は頭があるじゃにゃいか!
よっしゃ、これでダウトにゃ。言葉の揚げ足を取った形だからまだまだ弱いが、これですくにゃくともヒロインに対する不信感は強固ににゃったはず。
ヒロインの目が横に泳ぐ。わっかりやすい動揺の仕方だにゃー。
それに畳みかけるようにして筋肉バカがさらに言葉をつづけた。
「メグ。確かに君は俺のダッシュにご飯をあげてくれた。動物にやさしい人間に悪い人間はいないと俺は思っている。だから君が嘘をついているなんて信じたくなかった」
「そっ、そうです! 私は嘘なんかついてません! 私は、私は確かにナーシャ様にひどいことをされて……っ」
「そのナーシャも、動物にやさしい人間なんだ。ナーシャはこの野良猫に欠かさずエサをあげている。俺はそれをずっと見てきた。だからナーシャのことも疑いきれずにいた」
「えっ……そ、そんなの……」
「今日、はじめてナーシャとまともに会話した。俺は彼女を信じることにしたんだ。……だからもう、これ以上嘘を重ねるのはやめてくれ」
ニャーシャとヒロイン、相互を思いやった誠実にゃ言葉だと思った。ヒロインの裏の顔を知ってるだけに、もうちょっとキツイ言葉でもいいんじゃにゃい? と私は思ってしまうが、これが筋肉バカにゃりの事の納め方にゃんだろう。
ヒロインの顔が歪む。にゃきそうににゃっているんだろうか。ちょっと同情する。
うん、そうだよね。逆ハーはおんにゃのこの夢だもんね。私がもし猫じゃにゃくってヒロインの立場にゃら、おにゃじように逆ハーを目指したと思うよ。
だけど、ヒロインはにゃかにゃかった。どころか、勝ち誇った笑みを浮かべて私を指さす。