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すとーりーEIGHT ケンカ

 ケンカ、しちゃいました。



「バッカじゃないの!?」

「お前の方がバカだろう!!そんなに俺の事を信じられないのかよ!?」


 そう言われて、つい、売り言葉に買い言葉。


「そうよ!!アンタみたいな……軽い男、信じられないわよ!もう、大っ嫌い!!顔も見たくない!」


 あ、言っちゃった。


 どうしよう、そんな言葉は絶対にウソなのに。


 つい勢いで出てしまった、私にとっては小さなウソ。



 でも、口を飛び出した言葉は彼の表情を険しくさせた。



「……そうかよ。じゃ、一緒に居ても仕方ないよな」


 彼はそう言って、私に謝るチャンスもくれずに背中を向けて去っていった。



 ポツリ、と残された夜の暗がり。



 後少しで私の部屋。



 なのに、彼は帰ってしまった。



 そう…私の不用意な一言で、彼はいとも簡単に私の元から去って行った。


「うそ……」


 だって、ケンカの原因は…些細な事なのに。


 最近、彼が私に冷たくなったように感じたから。

 それを私が問い詰めた、ソレが始まり。


 だって、電話を掛けても何かを気にするように直ぐに切りたがるし、会う回数も減っていたから。

 私としては、もっとたくさん構って欲しかったの。

 今までみたいに、もっと一緒に居たかっただけなの。



 それなのに。



 彼はさっき、私にこう言ったのだ。


「ワリィんだけど。これから一週間、俺、お前に会えないし。電話も出れないし、掛けれないからさ」


 一週間も?流石に、私は頭に来た。



 だって、フツーは何ソレ!?でしょ?



 理由も言わないで…そんな風に言うだけなんて…酷い。





 けれど、結果はそれ以上に酷かった。





 涙が零れた。



 何で、こうなっちゃったんだろう…?私はただ、もう少し一緒に居たかっただけなのに。どうしてこんなになっちゃったの?



 バカなのは私だ。



 トボトボト夜道を歩いて、一人で部屋に帰る。

 何もする気が起きなくて…彼の為に作っておいたプリンすら…忘れたまま冷蔵庫に入れっぱなしで。


 私は六日間もの間、大学を休んで部屋で泣き続けてしまった。




 自分から謝る勇気も無くて…彼からの連絡も無くて。




 本当に何にもする気が起きなかった。



 できれば、消えてなくなってしまいたい。



 けれど七日目の朝、流石に心配した学校の友人たちが私を部屋から引きずり出した。


「バッカじゃない!?たかが男一人で、青春を青カビだらけにする気なの?ホラ、その湿った根性と体を天日干しするのだ!!」


 渋々と向かった教室。

 久しぶりで、ちょっと新鮮だった。



 けれど…気分は晴れないよ。

 だって、私…。


 ちょっとのコトで、彼を思い出してしまって涙が零れる。

 アレだけ泣いて、涸れない涙が恨めしい。


 結局、全部の授業を受ける前に私は家に戻った。


 一週間前と同じ様に、下を向いたままトボトボト道を歩く。

 どんなに涙を拭っても、やっぱり涙は止まらない。


「あぁ…もう、ほんとに……最悪だぁ〜…」



 謝る勇気が無い自分。

 彼を信じられなかった自分。

 連絡すら貰えない、情けない自分。





 全部、全部、紙にくるんで丸めて捨ててしまいたい。





 気が付けば、見慣れた部屋の前。


 無駄にゆっくりした動作で、鞄の中から鍵を取り出す。

 以前は良く彼にノロイと言われていたんだよね。でも、きっと今の私の動きは、どの時よりも遅いに違いない。



「相変わらず、お前はノロイなぁ」


 そう、確かにこんな風によく言われてたっけ。


「え……?」


 なにコレ、幻聴?

 とうとうソコまで私の頭はダメダメになっちゃったのかな。


 ゆっくりと今日、初めて顔を上げる。

 泣き腫れた重たい瞼が邪魔だ。


「ヒデー顔。…そんなんじゃ、記念写真とか撮れねぇーじゃん」


 ソコには…部屋のドアの直ぐ横には…彼が困ったような、少し笑ったような顔で立っていた。


「なんで……」

「だってお前、今日って誕生日だろ?」

「うそ…」

「ホラ、これ」

「え?」

「開けて見ろよ」


 ポン、と渡された真っ白な小さな箱。


「返すなよ?そんなコトされたら、マジへこむ」


 中には…中には……。


「直ぐじゃ無いけど、お前が大学卒業して、そうしたいって思ってくれた時でいい。俺、大学とか行ってねぇーし、頭ワリィけど…頑張るから」


 私が雑誌で欲しいと言った指輪。

 小さなダイヤがいっぱい付いてて、真ん中にピンクのダイヤが一粒付いてるヤツ。


『こんなのが、婚約指輪だったらいいなぁ〜』

『ふ〜ん…』


 あの時、値段見て二人でビックリした。

 ゼロの数が凄かった。

 二人でこんな高いのムリだねって、笑ったのを覚えている。



 ソレが今、私の掌の中に在る。



 彼は一週間前より、少し痩せて、日に焼けていた。見れば、作業着のままで、埃だらけで、汗臭くて、顔に汚れだって付いたまま。


 この数日、どれだけムリをしたんだろう?

 私の為に、必死に働いて…この日に間に合わせる為に…。


「ばかぁ…」


 また涙が溢れ出した。


 嬉しくって、嬉しくって、涙が止まらなかった。



 指輪が嬉しくて、ソレよりもっと彼の気持ちが嬉しくて。



 泣き続ける私を彼はオロオロと抱き締めてくれた。



 後で、涙が乾いたら…ちゃんと謝るから。

 その時はちゃんと、返事をするから。



 だから、もう少しこのままで居させてね?


若い感じの話を久々に書きたくなりました。

ちょっといつもより長いかも…?

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