すとーりーFOUR 料理上手
もしも、自分の方が彼女よりずっと料理が上手かったら、どうします?
ぶっちゃけ、俺は料理が上手いし、作るのが好きだ。
そして将来の夢は、ヨメさんと二人で仲良く台所で料理する事だったりする。
でもそれってさ……ある程度、相手が自分と同じレベルであるから出来る事でしょ?
彼女が全くの料理オンチなんて、そんなの悲しいじゃないか。
イモを剥かせれば、手の平大のモノがほぼ直径三センチ。玉ねぎを剥かせれば、どこまでも剥いてしまう。
炒め物を頼めばナゼか焦げるし、煮物は汁が無くなる。
試しに卵焼きを作らせたら、見た事も無い……とても不思議な物体になっていた。
そして、極めつけ。
付き合い始めの頃、弁当を作ってくれたと云うので、蓋を恐る恐る開けてみると…………そこには、生米に生肉(恐らく豚の生姜焼き用と見た)が水に浸されていた。
添えられた手紙には“ちゃんと電子レンジでチンしてね♪”とあった。
あの時は思わず目頭を押さえてしまったネ、マジで。
何をどう食って生きてきたら、こんな発想に辿り着けるのか……謎だ。
からっきし、本当の本当に俺の彼女は料理が出来ない。
別に、いいケドね。
俺が出来るから。
しかし、ナゼか彼女は俺の為にと両手に絆創膏をベタベタ貼って頑張っている。
だから時々、心配になってしまう。
俺がやれば十分の工程を、彼女は一時間かけてやるのだ。
手を出そうかどうするか、正直言って迷うけど……結局のところ俺は彼女のやりたいようにやらせている。
『もう直ぐ出来るから!大丈夫だから!!あ、痛っ!』
『あと少しだから、本当に、あと少しだから!!きゃぁぁぁ!!』
『アツーイ!!え…あ、大丈夫だよ!!何でも無いよ、待ってて!』
台所から聞こえるプロレス実況中継さながらの声は迫力満点。
どんなに好きなテレビ番組だって、全然耳に入らない。
下手すりゃ、ちょっとしたバラエティ番組だ。
罰ゲームで料理してまーす、みたいな。
で。
出来上がる料理は……想像通り。
彼女の清々しい笑顔と共に出されるモノ。
ホカホカの白いご飯の横に並ぶ、得体の知れない物体、X。
味は押して計るべし。
でも、ナゼか俺はそれを不思議と美味しいと思ってしまうからオカシイのだ。
それは彼女の料理限定で起こる奇跡。
ホント、この時だけは狐か狸に化かされたみたいだ。
そして俺は満足の笑みと共に今日も彼女の手料理を平らげる。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
男は時々、自分でも気付かないほど努力してます…。