すとーりーONE どこが好き?
『ねぇ…私のどこが好き?』
そんな事を突然、助手席から聞かれて少々戸惑う。
「え、ど、どうしたの、急に…?」
でも、コレってさ、恋人に突然聞かれて困るナンバーワンの質問じゃない?
付き合ってちょうど一年。
もしかして、これってテストか何か?違う答えを言ったりすると、ハイ減点、別れる理由の一つ、気持ちのすれ違いって奴になるの?
ヤメテくれよ、男は意外とハートが脆い生き物なんだから。
こんなコト聞かれると、気が気じゃ無くなる。
今まで気分良く運転していたハンドルがズッシリト重くなった。
彼女は横顔のまま、微かに微笑んで言い放つ。
「なんとなく、ね」
「ふ〜ん…ま、いいけど。そうだなぁ〜」
平静を装いながら、実は内心かなりドキドキだ。
手の平に汗がじっとりと滲み、気が付けば信号で止まる度に手の平を擦り合わせている。
ドコが好きって、いきなり聞かれても、さ。
何気ない会話で、無邪気に笑う顔が好き。
ハスキーでは無いけど、少し低い優しい声が好き。
後ろから抱きすくめると、すっぽり腕に収まる身体が好き。
怒った顔も、泣いた顔も、拗ねた顔も、好き。
俺だけじゃなく、女友達や俺の友達を大切にしている所も好き。
悲しい映画を見て泣いちゃうのも、アクション映画で騒ぐ姿も、好き。
全部、全部、彼女だから、好き。
どうして、一つに絞れるの?
こんなにも全部が好きなのに?
俺は仕方なく、無難路線を選ぶコトにした。あんまり答えないと、ソレも減点対象かな?
「そうだなぁ…やっぱり可愛い笑顔かな?」
そう言ってチラリと横目で盗み見た彼女は、瞼を閉じて静かな寝息を立てていた。
「………はぁ?」
オイオイ、自分で話を振っといて、寝るのは無いんじゃない?
でも、安心し切った無防備な子供の様な寝顔。
参ったな、こんな顔で寝られたら、怒れないでしょ?
俺はふ…と思わず笑みが零れた。
俺はそっとエアコンの温度を寝やすいように調節する。
もう少し、キミの寝顔を見て居たいから。
いいよね?
男と女の間には暗くて深い溝があるとかないとか…。でも実はソレって、結構以外に幸せな距離なのかもしれませんネ。