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辺境警備隊のお医者さん(仮)  作者: リンダ 鈴
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砦 2

「まあいい、今回は見逃してやる、次はねえぞ」

隊長執務室のドアを壁にぶち当たるまで力任せに開きシダは去っていった。

ズンズンズンと砦の廊下を進む。丁度巡回交代の時間の為警備隊の連中はこの辺りにいない。

シダの歩みから勢いがなくなる。廊下の窓(ここは2階)から待機班が中庭を通り待機所に向かうのが見えた。

さらにシダの歩みが鈍くなりとぼとぼと俯き加減で救護所に着いた。

そっと救護所の戸を開けると誰もいないことを確かめる。内側から鍵を閉め診察机の前の椅子にすわる。

「はあ〜、またやっちゃった」

ゴン、と机におデコをぶつける様に倒れこむシダ。

「うううぅ」

リド砦の専任治療師シダ=フローティア

本名シルダリア=フローティア=ザナストは今日も人知れず落ち込むのであった。

「なんでオルガの前に出ると、いつもああなっちゃうんだろ、もう2年も経つのに全然うまくいかない…」

ふう、とため息をつく。困った様な情けない様な落ち込む今のシダの姿は、見た目だけは憂いに沈む女神の様相、潤んだ瞳を向けられれば、落ちない男はいないだろう。

10年前、学園のキャンプ実習で初めてオルガに出会った。その時シダはオルガに一目惚れをした。

10歳の時治療師になりたいと父に言ったら「女が治療師になれるはずがない、治療師は漢の仕事だ」と叱られた。医術科に通う兄にも「女が関わっていい仕事ではない」と諭された。

女だって治療師になれる!そう啖呵を切って家を飛び出し、男のふりをして学園に奨学生として入学した。

幼い頃から自分でも己の容姿が「美しい」部類に入ると自覚していた。なので男のふりをしてもいつも疑いの目で見られる。

「え、〜男?嘘でしょ」

「お嬢さん、ワタクシとお茶でも…」

「おお、麗しき女神ヨ」

「おじさんといいことしよう」

なんて声をかけられる。だから作った。『クソ男バージョン』

だが歳を追う毎に美しさが増してゆくシダを、周りは「やはり女では」と疑う。

そして歳を追う毎に「クソ男バージョン」はガサツで口汚く、乱暴へとバージョンアップされて言った。


シダの美的感覚は一般のソレとは少しズレている。なにせオーガの如き偉丈夫、厳つい泣く子も引きつけを起こすと言われた容姿のオルガに一目惚れするくら位だから。

自分がどれほど美しいのか自覚がない。


18歳で学園を首席卒業したシダはその時自分が女である事を世間に明かし、父に認めさせようと思っていた。

父には男のふりをして学園に通っていた事を明かそうと。

でもバレバレだった。王宮治療師筆頭である父ガイナス=オーベン=ザナストはこの国の治療師の頂点に立つ。またダリスター王国の公爵でもある国の重鎮。娘の動向を把握してないはずがない。

自分は父の掌で踊らされていただけ、それを知った時のショックは大きかった。

この8年間は一体なんだったのだろうと。3つ下の弟が途中で医術科から騎士科に代わったのも父の指示だろうか。


せっかく首席卒業したのにシダはどこにも配属されなかった。父は「8年自由にさせた、満足だろう、嫁に行け」という。シダの容姿と地位(公爵令嬢)を持ってすれば王妃ですら望めるという、それってデレルの義理の母ってコト?冗談じゃ無い。


ひたすら父の持って来る縁談を断りつつ、スラムや貧しいものの住む地域でボランティアで治療師を続けた。それも限界が来たが。22歳ともなれば女としては行き遅れ。父の態度が強くなってきた。どうすればいいのか。そんな時父の書斎でオルガ=ファーンの名を見つけた。〈猛将オルガ〉あの一件で騎士団を首になり左遷されたと聞いた。あれほど悲しかったのは母が亡くなった時以来だった。

リド砦、ギルネシア魔森林近くの辺境の砦、あんな所に彼は飛ばされたのか、私達の所為で。

手紙は砦が治療師を配属して欲しいと言う内容だった。だがこんな辺境に行きたがる治療師はいない。

でもここにオルガがいる。シダは父の書斎に忍び込み命令書を偽造した。

シダ=フローティアを、リド砦に配属する、と。

そして宮廷治療師筆頭の知らぬ間にリド砦に治療師が配属された。

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