十年前 3
「ねえねえねえ、聞いた聞いた聞いた?」
土竜のの引く幌付きの竜車の中から楽しそうな声が聞こえる。
御者台に座るグンター=バッツはこの実習が始まる前から苦虫を噛み潰した様な顔をキープしたままだ。
中から聞こえる声にに答える気は無く前を見据えて手綱をさばく。
「僕達の護衛についてる人てねぇ、あの、あの、あのぉ〈王国最強の騎士〉なんだって〈猛将オルガ〉なんだってぇ」
「ほう、学園の実習如きに〈猛将〉様ですか」
竜車の右側、見事な白馬にまたがった少年からは歳不相応な落ち着いた雰囲気で、竜車の中から聞こえるおマヌケな声に応える。
「凄いよね、凄いよねぇ」
「姿をお見かけいたしませぬが隠密での護衛で御座いましょうか?」
竜車の左側、鹿毛の牝馬にまたがる少女アウレリア=ミア=ハールーンは右側の少年に尋ねる。
「護衛に隠密指示は出されておらぬ筈で御座いますが、何分〈猛将〉様が護衛などと聞いたことが御座いませぬゆえ」
御者台のグンターの横に座るティレイト=ギバ=カモンが答える。
「そのうちお姿を拝見できるであろう、我らの護衛なのだから。少し前方を確認してくる」
白馬の少年は馬を前方に走らせると、アウレリアが慌てて
「お待ちください、私も共に」
駆け出そうとしたが白馬の少年に制される。
「護衛騎士が二人共離れてどうする。リアは竜車についておれ」
「わ、わかりました」
リアは少し悔しそうに顔を歪める。
「ねえねえねぇ、レイト、キャンプ予定地まだなの」
御者台のレイトは地図を広げグンターに見せる。
「もうすぐだろ、川と道が接して半刻(1時間)ほど進んだ。ベースにできる程度の開けた地があるはずだ」
とグンターが答えた。先行していた白馬の少年が戻ってきた。
「100mほど行ったところに空き地があった、あそこがベースの指定にあったところだと思う」
「よかった〜もうお尻痛くて痛くて。シダってよくこんな竜車の中で眠れるよね〜僕ビックリ、ビックリだよ」
そう言いながら少年が幌から御者台へ顔を出した。
この無駄に言葉を繰り返す少年、クリクリの金の髪に晴天の青空の様な青い目は人形かと思われるほど大きく愛らしい。口元はいつも笑顔を浮かべ天真爛漫を絵に描いた様な少年、デレル=クライス=ダリスター王子だ。
「そこがシダのシダたる所以と思えるがな」
クスリ、と上品に笑う白馬の少年、デレルより色の薄い金髪は真っ直ぐでサラサラ、肩口で切り揃えられている。星の輝く夜空を思わせる紫の瞳は切れ長で、薄めの唇の口角を上げて微笑む姿は大人びさながら聖者を模した像の様。リスト=メレリア=ダリスター王弟殿下である。
単位
1刻=2時間