猫踏んじゃった 8
「やっと泣きやんだわね」
お菊さんは、涙で濡れた花柄のハンカチをポケットにしまう、とベンチから立ち上がった
「うわっ! 動いた、あーもう駄目だ」
ポン太は、まるで止まっていたゴキブリが急に動き出して、慌てふためく人間みたいに、お婆さんを観てのけ反り、地べたに倒れこみドンっと音を立てた。頬に土がつき、倒れたせいで風が舞いかすかな草の匂いがした。
「ちょっと、大きい音を立てると気付かれるわよ」
「すみません・・・」
気持ち悪そうに口を押さえて詫びの言葉を入れる。
お婆さんは、草影から聞こえた音に驚き、体を少しびくりと震わせ、泣き疲れて赤くなった眼でポン太達の方向観たが、どうせ野良猫か野鼠が移動してのだろうと深く勘ぐらず、すぐに下を向きはぁーとため息をついて、歩き始めた。
「もう、家に帰るのかしら?」
「いえ、まだいつも帰宅する時間には速いですよ」
「なら、どこに行くかついて行きましょう」
「まだ調べるんですか?」
ポン太は、口をへの字に曲げあからさまに不満そうに言った。
「当たり前でしょ、お菊さんが何で落ちんでいるのか分るまで続くわよ、それにあんたの人間嫌いが直る手伝いでもあるんだからね」
猫と狸は尾行していることがばれない様に、お菊さんの後姿が見えるか見えないかぐらいの距離でついて行く。20分くらい歩いただろうか、駅近くにある小さな洋食屋さんにたどり着いた。横には町中で一軒しかないスーパーがある。