猫踏んじゃった 4
「どういうこと?」
チビは、黒い耳をピクリとさせ、眉間にしわを寄せる。
「僕の本当の名前はポン太と申しますこうみえても、昔は、日本屈指の化かしの名人で知らない妖怪はいないほど、有名だった。
確かに耳にしたことがある。私と一緒で住みかを持たず、山々を渡り歩いては時折、町に降り人を化かして喜ぶ道楽者で、ひとたび人間の姿に変れば誰も見分けることができないほどとか。
「噂くらいわね。でも、最近はめっきりと聞かないわね、何があったの?」
「仲間の狸に褒められて有頂天になって。もっと、もっと化かしの腕を上げるためにひたすら人を観察したのだけど。知能の高い生き物が故の欲望や嫉妬から来る行動そういうものを見るたびに気持ち悪くなってしまい、とうとう恐怖症みたいになってしまって」
気持ちは分らないでもないでもない、チビの仕事は人の悩みを長く生きた妖怪の観点から解決させることである。そのためまずは、色々な感情とりわけ怒りと悲しみを観察しなければいけない、なぜなら人間の根本的な問題は所詮は心持ち様からくるものだからだ。
「それで、人が怖くなって、人里に下りなれなくなったってこと?」
チビは、首をかしげながら聞く。
「それからは、人の寄りつかなそうなこの近くの山の奥に住んでいました。そこで、出会ったのが虎之助なの。毎日、ネズミや虫など取っては、食べもせず必ず持って返っていたのです。虎之助は雄です、猫はメスしか子供を育てませんし、餌を蓄える習性はありません。なので不思議に思い何所に持ち帰るのかあとをつけました。
「暇な狸ね」皮肉交じりに言った。
ポン太は、少し恥ずかしそうに笑い「今までは化かすことしか楽しみしかなかったので」と付け加え話を続ける「それで、入って行ったのがこの家で。最初は人の沢山住む場所に出たらどうしようかと悩んでいたのですが丁度町はずれで住む山にも近かったから案外すんなりこれて」