猫踏んじゃった 10
扉を開けるとカランコロンと綺麗な鈴の音が聞こえた。
「いらっしゃいませ、お好きな席にどーぞ」
年配の女性が元気よく挨拶してきたので二人は軽い会釈をし、カウンター席に座る。
すぐさま店員はメニューを持ってきたが、開かずにホットコーヒー二つと頼んだ。
それから辺りを見回し数人しかいない客の顔をからお菊さんを探した。
奥の一番端のテーブル席でコーヒーを飲みながら小さいメモ紙に何かを書き込んでいる。
「何を書いているのかしらね?」
「さぁ、わかりません」
下に俯いてテーブルとキスしようなくらいの距離で震えながら答える。
「我慢よ、我慢。人恐怖症を克服のためよ」
「そぃをうぉですす」
緊張しすぎて何を言っているのかさっぱり分らない。
「ここからじゃ観にくいわ、ちょっと見てきて」
「・・・」
ポン太は恐怖のあまり言葉が出ない。何かを懇願するような眼でチビを見つめたが、どうせ断れないと悟り席を立った。
お菊さんとの距離までせいぜい3~4メートルなのに凄く長く感じる。おじさんに化けているポン太の額にはびっしりと汗がにじみ、「はぁ、はぁ」と大きく息が荒れ店内に響き渡る。周りの客は、その様子に不信感を抱き、眉間にしわを寄せジッと大きな体の少し禿げたおじさんを観察している。
救いは、お菊さんだけが書き物に集中していて気付いてないことだ。
ポン太は、お菊さんのテーブル前で足を止め、激しい息遣いと止まらぬ汗を拭いながら、メモ用紙に何が書かれているのかを覗き込む。
醤油、人参、饅頭、味噌となぐり書きされている。