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異世界の戦場  作者:
Phase.1
9/37

Act.8__Temporary peace

スメラギ皇国

黒鷺城

2107年2月27日

日本国海兵隊強襲偵察隊

結城奏中尉




 スメラギ皇国がアタナシウス帝国による宣戦布告を受けて始まった首都攻撃は国連平和維持軍中東派遣団の日米海兵隊の介入によって早期終結を迎えた。


 しかし依然としてアタナシウス帝国は侵略のための軍備拡張を進めており、旧リーンベルク王国の国民を帝国兵として動員し、さらに帝国民及び現役学生らを導入して戦力を拡大していた。



「この度はお招きいただき誠に恐縮でございます。リオン陛下」



 海兵隊の正装であるブルードレスに身を包んだ篠ノ之薫少将は床に膝を着くなり礼を述べた。お世辞にも日本人にはあまり似合っていない。



「いや、本来なら宴を開くべきなのだろうが何分攻撃の後なのでな。こちらとしてもこのような形になってしまい申し訳なく感じている。貴殿らのお陰で首都攻撃は免れ、多くの国民の命が救われた。感謝してもしきれぬ」



 スメラギ皇国の王リオン・スメラギは玉座から立ち上がると腰を深々と下げ、篠ノ之少将同様に礼を述べた。随伴した数人の幹部は、一国の王が軽々と頭を下げていいのだろうかと少なからず疑問に思ったが、国民の命と王としての威厳を天秤に架ければリオンの行動は頷けた。



「少年……いや、結城奏殿。貴君にも礼を述べさせてくれ。ありがとう」



 名指しされた結城奏中尉は恥ずかしそうに頭を掻くと玉座の前に進み出、整った敬礼をした。端に控える騎士の一人、アイリッシュ・エーカー上級錬士はどこか誇らしげに微笑んだ。



「今までの礼だ。こちらこそありがとう。リオン・スメラギ」


「リオンで構わんよ」



 握手を交わす。再び玉座に座ったリオンは肘掛けに肘を置くと手を組み、目を細めた。



「して、貴殿らは何者なのだ? 謎の杖に鉄の方舟。鉄の船に鉄の馬車。いずれも我々が知らぬ物だ」



 その問いにその場にいた全員の表情が強張り、周囲に緊張が奔る。



「……我々は日本国とアメリカ合衆国の海兵隊から編成された国際連合所属の国連平和維持軍中東派遣団と申します。簡単に申し上げますと世界の秩序を守る軍隊というところです」


「うむ。知らぬ単語ばかりでイマイチ理解し辛いが、貴殿らは秩序を守る軍隊ということでよいのだな?」


「その通りでございます、リオン陛下」



 静寂な空気が王の間を包む。リオンは瞳を閉じ、じっと何かを考える素振りを見せる。



「……一つ、聞きそびれていた。貴殿らは一体どこからやってきた?」


「……恐らく、異界から」



 異界から。リオンの瞳が驚愕に大きく見開かれた。それは周囲の大臣や騎士も同様だ。彼らの反応を覚悟をしていたのか、海兵隊の面々は静かに時が過ぎるのを待った。



「我々はある日突然光に包まれ、気がついた時にはこの世界に迷い込んでいました。原因は未だに不明。そして我々は元の世界に帰還する方法を探しています。何かご存知であればどんな些細なことでも構いません。どうか教えて頂きたい」



 焦りは禁物だ。ただでさえ緊迫している状態なのだ。何が原因で均衡が崩れるのかも判らない。



「……うむ。そうか。異界の地の者か。いやはや、実に驚いた」



 王の間にリオンの乾いた笑い声が木霊した。



「恐らく貴殿らは高度な空間魔法によってこの世界に飛ばされたのだろう。それも古代兵器を使用した物だと思われる」


「飛ばされた。つまり時空転移といったところでしょうか?」


「うむ。そういうことだ」



 時空転移。例として世界には幾つかの世界線が存在すると仮定しよう。海兵隊の面々がいた世界がα線上の世界。この魔法世界がβ線上の世界とする。古代兵器が時空間を捻じ曲げたことによりα線とβ線が一時的に交差し、その過程で起きた出来事によって中東派遣団の彼らは強制的に世界線を移動させられたのである。



「誠に理解し難い件ではありますが信じるべきなのでしょう」


「して、帰還方法に関してだが、恐らくは使用された古代兵器を使用する。もしくは召喚の際に使用された膨大な魔力を集めれば良いかと思われる」


「しかし陛下。先に申し上げておくべきでしたが、我々の世界には陛下が仰る、その……魔力というものは存在しません」



 魔力。それは空気中に漂う目に見えない魔素を人の体内に存在する魔素変換器という臓器の働きによって変換した生命エネルギーのようなものである。この世界に住む人々はこの魔力を消費、変換して生み出される力、魔法を利用して生活や戦闘などに使用している。地球が科学によって成り立っているように、こちらの世界は魔法によって成り立っているわけである。



「うむぅ、そうか。まあ、それについてはおいおい考えることにしよう」


「申し訳御座いません、陛下」


「気にせずともよい」



 どうしたものか、とリオンは小さく唸った。



「それにしても何やら廊下が騒がしいな。アイリッシュ上級錬士、何事だ?」


「存じ上げません、陛下」



 どたばたと。急ぎ足のような大きな足音や金属の擦れる音。王の間を訪れる者がいた。



「陛下!」



 扉を押し切り王の間に現れたのは一人の衛兵だった。何やら慌てている様子。リオンは落ち着くように声をかける。



「して、何をそんなに慌てておる?」



 衛士は姿勢を正し、声を張り上げた。



「たった今、城門前に行方不明であったリーンベルク王が怪我をして運ばれて参りました!」


「……なっ!?」



 リーンベルク王。今は無きリーンベルク王国の国王──ユークリッド・D・リーンベルク。アタナシウス帝国との戦争おいて行方不明となっていた彼が生きていたことに海兵隊を除く全ての者が驚愕し、ざわめいている。リオンは報告に来た衛兵に続きを催促した。



「それで?」


「現在は医務室にて治療中です。しかし傷が深いのか未だ意識は回復していません」


「そうか。報告ご苦労。下がってよいぞ」


「失礼致します!」



 衛兵が下がり、王の間はより一層騒がしく変わる。リオンは大臣と重要な会議を行うと退室していき、残された海兵隊員らは大人しく空母へ帰還することに決めた。



「まだまだ騒がしくなりそうだな……」



 広場で迎えの輸送機を待つ間に呟いたその言葉は、ハリアント海から吹き付ける潮風に絡め取られて消え去った。








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