Act.7__Trajectory of Angels
ハリアント海
戦闘訓練空域
2107年2月24日
日本国海兵隊特殊作戦航空隊
結城凛中尉
無数の雲がふよふよと漂うスカイブルーの空を疾駆する二羽の八咫烏。ダークグレーを基色とした制空迷彩を全身に施したその機体は日本の持ちうる技術を惜しみなく詰め込んだ八咫鳥の異名を持つF-3戦闘機だ。悲願の国産戦闘機として大々的に新聞やテレビに取り上げられていたのは記憶に新しい。
F-3戦闘機の一代前、1980年代に浮上した次期支援戦闘機の開発は日本の独自開発として進められていたが、当時の日本はアメリカとの貿易摩擦による政治的問題に加えて、戦闘機開発に至る技術不足として破棄され、最終的には日米共同開発として計画は進められた。これにより三菱重工業を主契約企業とした彼らは、アメリカのロッキード・マーティン社の単発ジェット戦闘機──F-16をベースに純国産戦闘機の開発を始めた。
開発の段階で開発コストが大幅に上回り、かつアメリカが機体のソースコードを渡すことを拒んだり、F-2の開発には様々な問題が生じた。しかし結果として、日本にとってプラスなこともあった。ソースコードを渡さなかったことによってゼロからの開発を迫られた日本は当時の技術を結集させ、見事世界を代表する支援戦闘機を作り上げた。
この出来事も日本が戦闘機の独自開発を強く求める理由の一つになったのだろう。さらに年々軍事力を強める隣国や、軍事先進諸国がステルス性に加えて高運動性を追求した第五世代戦闘機の開発配備を開始したことも大きな理由の一つだろう。アメリカが技術漏洩を防ぐためにF-22ラプターの禁輸措置を発表し、日本はステルス性に関して知識のないまま研究を始め、2014年に先進技術実証機の一号機が空を飛んだ。さらにその四年後、先進技術実証機は正式にF-3としてロールアウトされた。技術の乏しかった当時とは異なり、技術面などにおいても世界有数の技術を持つ日本がゼロから開発したそれはF-22にも遅れを取らない戦闘機として仕上がった。
石川播磨重工業の開発した大型国産エンジンを二発積んだ双発機はアフターバーナーを使用せずに音速巡航を可能にし、短距離離着陸機能を強化した。そして最大の特徴はゼロから作り上げたステルス性だろう。レーダーに探知されるのを最大限避けるためにレーダー波吸収素材だけでなく、吸収しきれなかったレーダー波を内部反射と減衰を繰り返して徐々に吸収していくレーダー波吸収構造を採用した。さらに機体表面にはレーダー波吸収素材を含んだ特殊な塗料が用いられており、これによりレーダー反射断面積を低減させている。
機体に塗料を用いる前、つまり機体形状のみの状態でも高度なステルス性を発揮していたF-3は、海外から忍者のようだ、と親しまれている。
また能動電子走査配列型アンテナを採用したフェイズド・アレイ・レーダーは従来の機械的な上下左右のアンテナ走査ではなく、平面に並べた多数の小さな送受信素子を電気回路で制御して、一つ一つタイミングをずらして電波を発信させ、周辺を観測するものである。周波数拡散技術によって特定周波数での出力が低く抑えられ、逆探知を避ける低被捕捉性にも優れており、「早期発見」「早期捕捉」「早期撃墜」の三つのFを可能にしている。
「そろそろ訓練空域だ。アイル隊、準備は?」
『いつでも』
八咫鳥の後方を追従する二羽の鷲。F-3と同様の制空迷彩を全身に施したそれは航空自衛軍が保有する主力戦闘機──F/A-15Jアサルトイーグルだ。従来のF-15Jから大きく変更された点はコックピットをF-35と同じ次世代型グラスコックピットに変更し、アクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーの採用、エンジンの大型化の三つである。そしてその他の細かい近代改修化によって従来の制空能力を大幅に飛躍させると同時に対地攻撃能力を上昇させた。F-2の代替として選択されたF-35は開発の遅れとコストの高騰によって配備が遅れており、対地能力に優れたF/A-15Jの有能性は一目瞭然である。
「予定通りレーダーをカット。目視と赤外線捜索追跡システムのみを使用する」
空中戦闘機動。エア・コンバット・マニューバは戦闘機が空中戦で使用する空中機動のことである。今回の訓練はレーダーをカットした己の眼が重要視される訓練であり、近接格闘戦に主眼を置いたものである。
ミサイル性能が飛躍的に向上した現代において、空中戦の基本は視界外射程からのミサイルによる先制攻撃とされている。
1960年代に勃発したベトナム戦争がいい例だろう。ミサイル万能論が唱えられ、当時のアメリカ合衆国は機関砲を取り払い、ミサイルのみを搭載したF-4ファントム戦闘機を生産して戦場に送り込んだ。
しかし結果は失敗に終わることになる。現代戦において視界外射程によるミサイル攻撃が基本なのは事実。だがミサイルが万能であるとはいえ搭載できる数は決められている。ゲームのように数十から数百などという膨大なミサイルが積めるはずもない。更に戦場に赴き、ミサイルを撃ち、撤退。そんなことが出来るかと聞かれたとすれば答えは否だ。
この事例によりミサイル万能論は早々に覆され、結局は機関砲が搭載されることとなった。
補足するのなら、ベトナム戦争から技術の発達した現代のミサイルでさえ万能とは言えない。ミサイルの射程が長いとはいえ、ミサイルが目標に向かって延々と飛翔し続けるのは無理だ。ミサイルにも射程は存在する。つまり射程圏内ギリギリから撃ったとしてもミサイルの有効射程外に逃げてしまえば回避は可能なのである。
そのため遠距離射撃の場合、ミサイルの有効射程の半分の位置から撃つのがいいともされている。
例外としてチャフやフレアといったミサイルを回避するための物も存在するが、ミサイル性能の技術が飛躍的に発達した現代の高性能ミサイルに対してはその効果は今ひとつと言っていい。
少し話は逸れたが結論として、機関砲による格闘戦はミサイル技術が発達していない昔においても、発達した現代においても必要不可欠なものである。日本の場合は特にである。専主防衛を掲げる彼らは撃たれるまで撃つことが出来ないため、自然と近距離まで近づく必要があるからだ。
「アイル隊はその場で待機。訓練開始の合図は……適当だ」
『適当って……』
TACネーム『リーン』──結城凛中尉は自身の失念に恥ずかしさを覚えていた。初歩的なミスどころではない。弟にバレたら馬鹿姉の烙印を押されるのではないか、そんなことを考えてしまう。
TACネーム『ハル』──時波伊織准尉は呆れ声で呟くが、顔はフライトヘルメットと酸素マスクで隠れているため、その表情がどうなっているかは判らない。
「今から五分後に始めよう。すまないな、クルーズ」
『お気になさらず』
嫌みも言わず返事をしたのはTACネーム『クルーズ』──天原隼人中尉だ。
『どうしてこう、ねぇ?』
「だ、だからすまないと言っているだろう!?」
『まあ別にいいんですけど』
うぐっ、と息を詰まらせた凛はバイザーを上げると腕で目元を覆った。
『あんまりいじめちゃあダメですよ、ハル』
『ああ、はいはい。そんないい子ぶらなくていいから』
『棒読みすんなし』
TACネーム『クラウド』──雲仙隆介准尉は、同期で幼馴染の伊織のぶっきらぼうな反応に対して溜息を吐いた。
「では五分後に始めよう。散開」
『了解』
左手に握ったスロットルレバーをミリタリー位置まで押し込んだ凛は無線をカットすると、誰にも聞かれないように叫んだ。急に増速した凛に無線で問う伊織だが、無線が切られていることを知ると溜息を吐いて後ろを追った。鬼ごっこの開始である。凛が正気に戻ったのはそれから二分と三十秒後だった。
『アホ』
「すまない……」
五分が経ち、伊織に罵られる凛がいた。
『全く、ちゃんとしてくださいよ』
「気をつけます……」
しょんぼりする凛だったが、しばらくして雲間に一瞬だけ見えた影を捉えると目つきを鋭くさせて戦闘モードに切り替えた。
「タリ。十時方向、上方」
『一機しかいませんね。もう一機は……』
機体は天原中尉の物だ。しかし雲仙准尉の姿は見当たらない。周囲を見渡す伊織の耳をけたたましい電子音が叩いた。敵の攻撃レーダー波が機体を叩き、レーダー警戒装置が警鐘を鳴らしたのだ。フレアを撒いて回避行動に転じた伊織は雲仙准尉との接近戦に入った。
『クラウドは任せてください。リーンは安心してクルーズを』
「了解。無理はするなよ」
操縦桿を引いて上昇した凛はHMDバイザーに映るアサルトイーグルを囲む目標指示ボックスにガンレティクルを重ねて一気に仕留めようと試みるが、寸前で回避行動に転じた天原中尉はレイヴンの後方に回り込もうと旋回を始めた。
「惜しいっ」
小さく舌打ち。しかし、捉えた獲物を簡単に逃すはずがない。凛は操縦桿を倒して追従した。逃げ回る天原中尉の旋回機動に機体をねじ込んで後方のポジションを占位しようと試みる。しかし天原中尉がそれを許すはずがない。逃れようと機体に傾斜をかけて大G旋回に移る。
「ふっ……!」
喰らってやる。天原中尉を追いかけて大G旋回を行う。こめかみに走る激痛、眼球が飛び出さんばかりに張る。しかし旋回を緩めず追い続けた。しばらくして天原中尉は大G旋回を止めて急上昇。喰らいつく凛の身体にプラスGの負荷がかかり、頭部に昇った血液が下半身に落ちていく感覚が妙に気持ち悪く感じる。
プラスGによるブラックアウトを起こさないよう耐Gスーツが下半身をキツく締めつけ、血液が下半身に溜まらないよう抑制させる。ロールして機体を水平に戻した天原中尉の後方に滑り込んだ凛は兵装切換装置を機関砲からミサイルに切り替えると、ミサイル発射のコールをした。
「Fox2!」
チェックメイト。ロックオンを告げる電子音が鳴る。
『クルーズ、ダウン。帰投する』
天原中尉の機体は事実上撃墜、つまり死亡した。機首を反転して基地へ進路を向け、空を満喫するようにゆっくりと作戦空域を離脱し帰還していく。まずは一機撃墜。残りは雲仙准尉だ。
『噛みつかれた!』
「援護する」
頭をぐるぐると回して機影を探す。伊織とその後方を占位する雲仙准尉はすぐに見つかり、決着はすぐに着いた。素早く後方に位置づけた凛はスイッチをミサイルから機関砲に切り替えるとTDボックスにガンレティクルを重ね合わせ、操縦桿に備わったトリガーを引いた。
「Fox3!」
機関砲発射をコール。電子レーダー波による弾幕がアサルトイーグルに襲いかかり、その被害状況が雲仙准尉のバイザーに表示される。
『クラウド、ダウン。RTB』
ターゲットダウン。雲仙准尉は機首を反転させて天原中尉を追いかけて基地に進路を向けた。
「訓練終了。全機、RTB」
『ラジャー』
訓練終了の合図を無線で交わす。凛は伊織との戦術の組み立てを再確認すると同時に、レーダーがカットされた今回の空中戦闘機動と同様の状況に陥った際に正確な行動に転じることが出来るよう精進しなければいけないと改めて感じた。
『アイル隊、着陸完了。続いてレイヴ隊どうぞ』
「レイヴ隊了解。フィラデルフィア。私たちの訓練中に異常はあったかしら?」
『ノー。異常は一つも確認されていません』
「それは良かった。レイヴ隊、着陸する」
フィラデルフィアと呼ばれた何者かと無線で交信した凛はギアダウンレバーを下ろし、ギアを展開。慎重に滑走路に着陸。スロットルを僅かに押し込んで機体を駐機スペースに移動させた。牽引車がどこからともなく現れる。ハーネスや酸素マスクのホースを外し、機械によって自動的に掛けられた梯子を使い地上に足を降ろす。
牽引車を見送った凛は冷房の効いた女性専用宿舎に入った。パイロットは空と機体が恋人だとはよく言ったものだ。しかし、やはり地上は落ち着く。凛はヘルメットを脱ぎ、耐Gスーツの胸元を大きく開くと新鮮な空気を送り込む。
「ふぅ……あっちぃー」
手でぱたぱたと扇ぎ、サバイバルベストのポーチからハンカチを取り出して滲み出た汗を拭き取り、大きく背伸びをする。
「お疲れ様です。結城中尉」
「あら、フィラデルフィア。ありがとう」
その背後から現れる人影。凛がフィラデルフィアと呼んだ人物。腰まで伸びた銀色の艶やかな髪にアメジストを連想させる透き通った紫色の瞳。身長は百六十五センチ前後。砂漠迷彩パターンをデジタル化した戦闘服に身を包み、腰には50口径の大型拳銃──デザートイーグルがヒップタイプのホルスターに収まっている。
「いやはや、それにしてもナイスバディね。初めてフィラデルフィアの声を聴いた時は絶対に幼女だと思ってたのに……」
「フィラデルフィアはクロスベル基地を統括する人工知能、いわゆるAIです。器に意識をリンクするだけなので容姿は自由に選べます」
リーンベルク王国、アタナシウス帝国、スメラギ皇国の三国から成るリアス大陸から北に離れた位置に存在する謎の巨島。周囲には常に嵐が巻き起こり、人々は決して立ち入る事が出来ない。そのため人々はクロスベル島周辺の海空域を『嵐の庭』と呼び、神々の住む楽園として崇めている。
しかし、その島に存在するのは神々の住む楽園ではない。クロスベル基地と呼ばれるそこは陸海空全ての基地を備え、独自の生産ラインを完備する基地である。もしも仮に神が住んでいるとすれば、それは戦神だろう。
そして、その戦神の正体はフィラデルフィア。このクロスベル島及び基地内部の全てを統括する彼女は人工知能であり、クロスベル研究所の武装アンドロイド計画によって生み出されたアンドロイドである。普段はコンピューターに意識をリンクさせ、人の前に現れることは滅多にない。しかしそんな彼女も学習して人並みの感情を有している。
喜怒哀楽。人間が原初より持つ感情。人肌が恋しくなったりと色々な思いが芽生える。そんな時に彼女は身体に意識をリンクさせ、現在のように姿を現しては交流を行うのである。
「武装アンドロイド計画によって生み出された、型番ADX-001多目的戦術アンドロイド。それがフィラデルフィアです」
「何度聞いてもクールね。改めて科学技術の進歩を実感したわ。素晴らしい。ええ、本当に」
顎に手を添え、感慨深そうに首を縦に振る。初めて彼女に出逢ったのは太平洋沖でドラゴンと呼ばれる空想上の生物と交戦した日だった。閃光が全てを覆い尽くしたあの日。空中で意識を失った凛が目を覚ますとそこは病室だった。
意識は混濁し、何が何だか理解できず混乱していた凛の元をフィラデルフィアが訪れたのが最初の出逢いだった。その日、フィラデルフィアが人工知能であり、武装アンドロイドであるということを聞かされ驚愕したことは昨日の出来事のように覚えている。
「しかし技術の進歩は時に破滅を齎します。それはお忘れのないように」
「……そうね」
豊かになれば、便利になれば。自身の利益になればなるほど人はさらなる資源を求めて他国の領土に興味を示す。戦争開戦の大きな理由の一つでもある。旧式な物は捨て、常に新しいコトを求める。人間の、人間ゆえの行動。決して否定をするわけではない。ただ、難しい問題ではある。
「ああ、中尉。お疲れだろうと思いましたので部屋のお風呂にお湯を張っておきました」
「ありがとう、フィラデルフィア。早速入らせてもらうわ」
仕事後の風呂は格別だ。汗を流しつつ、考え事やリラックスのできる時間。
「べ、別にっ、貴女の喜ぶ顔が見たくてやったわけじゃないんだからねっ! か、勘違いしないでよっ!」
突然。腰に手を当て、右人差し指で凛を指したフィラデルフィアはそう言い放つ。巷で話題の、それでいて一部の層に人気のツンデレ。何故だか全く萌えない、と凛は心の中で呟く。
「……本当、あんたのキャラがイマイチ掴めないわ」
幾ら喜怒哀楽があるとはいえ、フィラデルフィアの行動は不可解だ。普段は特別な感情を込めず淡々と物事を伝える。そして今回のように突然奇妙な行動に移ることも多々存在する。だが普段は無表情なフィラデルフィアが感情を表に出すことはそれはそれでギャップがあって良いかもしれない。
「のんのん、中尉。これはジョークです。プリティーなAIジョークです」
「はいはい。可愛い可愛い」
「むぅ、反応が薄いです」
やはり不思議で面白い。フィラデルフィアの頭に手を乗せ、わしゃわしゃと撫で回す。
「それじゃあ、またあとで」
背を向け、ひらひらと手を振り自室に戻る。
「ふふーん」
クロスベル空軍基地。空軍エリアの一角に存在する女性隊員専用宿舎。その101号室が凛に割り当てられた部屋番号だ。
隣の102号室にはウィングマンの伊織が住んでいる。日本国内にもそれほど数がいない女性パイロットだ。
「シャワー、シャワー」
部屋に入り、脱衣所に向かうなり衣服を脱ぎ去り、あっという間に生まれたままの姿になる凛。シャワーのハンドルを捻り、シャワー口から流れ出るお湯を浴び、身体を温める。
「異世界、か……」
それにしても奇妙で不可解な話だ。アフガニスタンに派遣される予定がその道中で伝説上の生物と交戦。その後閃光に襲われ、気がつけば異世界。
思わず溜息が零れる。帰る見込みも、これからも生き残れるという可能性もない。それは戦場でも同じことではあるが、やはり何かが違う。
異界からの招かざる客。今の凛たちはこの世界から必要とされていない。存在価値など一つもない。毎日の日課である訓練。国の為に奉仕すること。それら全ては現時点では意味を成さない。
「夢なら覚めてほしいわ……」
その他の心配事といえば凛の弟である結城奏中尉とその幼馴染である榛名唯依少尉のことだろう。二人は海兵隊の幹部ではあるが、実際は成人もしていない未成年だ。それゆえに精神面は未発達な部分もあるためこの環境に適応し、冷静に対処することができるのか心配なのである。
その中でも凛が最も恐れる事態は片方が殉職、または行方不明などで消息を絶った時だろう。
「いやいや、そんなことを考えるな。私達は全員生きて帰る」
雑念を振り払い、心を落ち着かせる。シャワーが絶え間無く流れ続ける音のみが全てを支配する世界。鏡に映る顔は少し疲れているように見える。
「なるようになる、か……」
シャワーを止め、小時間湯船に浸かって身体を温める。湯船から上がり、バスタオルを巻いた後はドライヤーを使って髪の毛を丁寧にアフターケア。
『F-3及びF/A-15Jアサルトイーグルの整備が完了しました。全機オールクリア。いつでも飛べます』
フィラデルフィアによる館内放送。身体から余分な水分を拭き取り、衣類を身につける。
「今はそんなことを考えてもしょうがないか。私は空を駆け回り、仲間を見守る鴉。大きな翼を有する天使……」
空は恋人、私は天使。やはりその通りなのかもしれない。
「Dance with the Angel.」
頬を緩ませ、一言。この世界が必要としてくれないなら必要としてくれる者を探せばいい。今出来ること。それは仲間を支援し、空を支配することだ。
「それで良いじゃない」
空を駆ける目的は見つかった。それ以上は求める必要はない。世界は常に廻り、変化を欲している。ならば、その日を待つだけだ。
空を駆ける一筋の飛行機雲。それがこの世界に天使が存在し、彼女たちの歩んだ軌跡の痕跡を表していた。