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異世界の戦場  作者:
Phase.2
26/37

Act.5-1__Siblings

スメラギ皇国

シェパード海兵隊基地

2107年5月20日

タスクフォース・ブラッドクロス

レイ・ハーフメルナ




 今から五日前。アタナシウス帝国が誇る工業都市ミリアムにおいてレジスタンスによる反攻作戦が決行され、銃器を生産するラインの破壊に成功。設計図や開発に関わった技師たちも全員が捕縛され、これ以上の生産は不可能となった。しかしそれでもこの二ヶ月の間で生産された銃器の数は数千、下手をすれば数万にものぼると考えられる。


 一方で中東派遣団の彼らは事前に輸送船に積んでいた武器弾薬に加えて、クロスベル基地で生産されている弾薬のおかげで消耗率はほぼ皆無。いつでも万全に動くことのできる態勢が整っていた。



「──では最後に。恐らくはこれが中東派遣団の我々にできる最後の作戦となるだろう。平和と秩序を律し、その地域に安寧を齎す。この世界に飛ばされてから今日までの過程に辛いことは幾つもあった。しかしそれももう終わりだ。作戦は明日の(マル)(ハチ)(サン)(マル)。各自十分な休息をとってくれ。以上だ」


「敬礼!」


『は!』



 第一作戦指令本部での会議が終わり、一人武器庫を訪れていたレイ・ハーフメルナは、紛失した17式小銃の代替品として与えられた18式特殊消音小銃の手入れを黙々と行っていた。一部の特殊部隊にしか配備されていない18式特殊消音小銃は、ライフル弾を使用する小銃の中では世界一の消音機能を有すると称されるほどの消音性能を持ち、用途に応じて数種の弾薬を使い分けられることから他国の軍隊をはじめ、幾つもの法執行機関から輸出を求める言葉が相次いでいる品物である。



「早く寝なくてもいいのかな、奏ちゃん……あ、いや、今はレイ・ハーフメルナって名前だっけ?」


「こんばんは、姉さん。他の人にも言っていますが呼び方は好きにしてください。いろいろとややこしいとは思いますが」


「奏ちゃんは奏ちゃん。君は君だから、レイちゃんって呼ぶわ。何だが弟が一人増えたみたいな感じなのよ」



 そう言ってわしわしとレイの頭を撫でる女性隊員は結城凛。名が違うだけでレイと血の繋がりのある正真正銘の姉だ。それゆえに顔を合わせにくい相手でもある。



「何か言いたそうな顔ね。まあ予想はできてるし、遠慮は要らないわ。言ってみなさい」


「……俺を恨んでいますか? 貴女の大切な弟を奪った俺を……」


「はい、予想通り」



 呆れを孕んだ溜息。グレーを基調としたデジタルパターン迷彩の戦闘服のポケットから一枚の写真を撮りだした凛は机に置き、コップに入れた水を口に含んだ。



「恨んでるかどうかって聞かれたら正直恨んでるわ。結城奏という人間の人格を奪い、なおかつ今こうして私の目の前で生きているんだから」


「そう、ですよね……」


「うん。だけどね、貴方を恨んだところで奏ちゃんの人格が戻るわけでもないし、そういう意味では貴方を恨むのはお門違いだと私は思うの。それに貴方、つまりレイ・ハーフメルナとしての人格がその身に宿っていなければ今頃奏ちゃんの身体は本当の意味で死んでたと思うから、姉として感謝もしてるのよ。恨んでるのに感謝してる。なかなかに矛盾してるとは思うのだけれど。まあ、あまり気にしないこと。貴方は貴方らしく振る舞えばいい。それだけよ」


「……はい、ありがとうございます」


「ついでにそのよそよそしい話し方もやめてくれると助かるわ。さっきから背中が痒くて仕方がないの」



 心配するだけ無駄だった、とは言わない。しかしそれでも凛の言葉を聞いたおかげで心の中にしこりとして残っていた恐怖の感情が和らいだ気がした。



「ああ、了解した。これからはこうして話させてもらうよ、姉さん」


「よしよし。それじゃあレイちゃん。これから少し付き合いなさい。これから明日の作戦成功を祈っての飲み会があるから。もちろんアルコールの類はないから安心して」


「そういう問題ではないだろう……」


「あー、はいはい。そういうのはいらないから」



 意見を言っても無駄であると悟ったレイは整備を終えた18式特殊消音小銃を組み立てると武器ロッカーの銃掛に固定して施錠し、その鍵を担当の隊員に返却。問題行動を起こさないよう監督役として連行された。



「本当、適わないな……」


「何か言ったかしら?」



 首を振り、否定の意を表す。姉弟らしく振る舞う自分を結城奏の人格が知ったとしたらどう思うだろうか。微笑を浮かべ、レイは一人呟く。



「俺なら、嫉妬するかもな」



 その呟きは誰の耳に入ることなく消え去り、その代わりにとある部屋の中から聞こえる隊員たちのどんちゃん騒ぎが一時の賑やかなパーティーの訪れを予感させた。










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